つぶ問7-4(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果


【解答】

① 繰越欠損金は会計上の資産負債と課税所得計算上の資産負債の差異ではないが、他の将来減算一時差異と同様に、将来の課税所得から控除することで税額を減少させることができる。そこで、減少させる効果を繰延税金資産として計上するとともに、法人税等調整額により税引前当期純利益と税金費用を対応させるために税効果会計の対象となる。

② 評価性引当額とは、将来減算一時差異に法定実効税率をかけ合わせた金額のうち、将来の回収可能性が認められなかった部分をいう。仮に将来減算一時差異が存在したとしても、差異が解消する時の課税所得が十分にないと見積られる場合には、将来の税額を減少させる効果が生じない。そこで、効果が生じない部分は差異解消時に回収することができず経済的資源として資産性が認められないため、この部分を控除したうえで繰延税金資産を計上する。


【解説】

 ①は法人税法を既に学習している方は十分に学習していると思われますが、毎期の税額を計算する際には、課税所得から過去の欠損金を一定範囲内で控除することができます。この繰越欠損金は、貸借対照表では繰越利益剰余金のマイナスに相当するため、解答のとおり会計上と課税所得計算上の資産負債(純資産)の差異には該当しません。しかし、将来の課税所得から控除して、税額を減少させる効果があるため、「一時差異」ではないが「一時差異等」に該当し、税効果会計の対象となります。

 ②は繰延税金資産の回収可能性に関する問題です。将来減算一時差異は将来の課税所得を減少させるものであっても、将来の税額を減少させるとは限りません。差異の解消時に課税所得がプラスからゼロまで減少させるなら税額も減りますが、ゼロからマイナスになってしまってはそれ以上の税額は減りません。繰越欠損金以外の将来減算一時差異ならば、マイナスになった分はさらに繰越欠損金となって将来の課税所得から控除できると思われるかもしれませんが、繰越欠損金を使える年数は限られており、それまでに十分な課税所得が生じて税額を減らせるとは限りません。そこで、繰延税金資産は回収可能性(税額を減らす効果が生じるか)を検討したうえで計上されます。

なお、両問題ともに(特に②)、資産とは何か(経済的資源)という財務会計の基本が分かっていれば、それにもとづいてどのような処理がとられるのか(資産負債法により将来の税額の増減を繰延税金資産として計上する)という理解につなげることができます。欲張る必要はありませんが、理論でもしっかり高得点をとりたい方は、各論点のつながりも意識するとよいでしょう。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

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