つぶ問9-4(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更


【解答】

  1. 損益計算書において企業の経営成績を表すフロー情報が表されるが、そこで示される利益は発生主義会計によりキャッシュ・フローとは一致しない。そして、企業が将来にわたって利益を獲得するための投資等を行えるか、もしくは企業価値がどの程度あるのかに関連して投資家が現金創出能力を評価するには、企業の活動ごとのキャッシュ・フローに関する情報が必要になる。
     また、特に利益が出ているかどうかに関わらず、企業の倒産は資金繰りが滞り借入金等を支払えないことによって生じる。そのため、キャッシュの増減を表す財務諸表が必要である。

  2. 損益計算書の収益や費用は、企業の会計方針や様々な見積りの影響を受ける。そのため、一定の範囲内ならば会計方針の選択もしくは意図的に偏った見積りによって企業の実態行動を伴わずに収益や費用を操作することが可能である。
     その一方で、キャッシュ・フローは事実として生じた現金及び現金同等物の増減である。そこで、損益計算書と比べると会計方針や見積りの影響を受けず、操作が行われにくいといえる。

【解説】

  1. キャッシュ・フロー計算書の必要性を確認する問題です。キーワードは、企業の「現金創出能力」と「赤字倒産」(解答では利益が出ているかどうかに関わらず、企業の倒産は…と文章で説明)です。
     解答にあるように、企業の倒産は借入金や給料などを支払えず、事業を継続できないことによって生じます。そして、利益があって、貸借対照表で資産超過の状態であっても、売掛金の回収遅れ、もしくは過剰な設備投資等によってキャッシュが足りずに倒産する企業もあります。そのため、赤字倒産の可能性を評価するためにキャッシュ・フロー計算書が必要です。
     また、赤字倒産だけではなく、そもそも企業がどれだけのキャッシュ・フローを生み出す能力があるのかについても、情報が必要です。そのため、「現金創出能力」も重要です。

  2. たとえば、減価償却にあたって定額法と定率法のどちらを選択するか、耐用年数を何年に設定するかなどによって、利益の金額が異なります。他にも引当金の見積り、固定資産の減損会計での将来キャッシュ・フローの見積りなど、利益は様々な項目で経営者の判断の影響を受けます。たとえ会計監査を受けていたとしても、限度があるにせよある程度の範囲ならば操作が可能であるのが実態です。
     それに対して、キャッシュ・フロー計算書では、たとえば取引先との間で仕入代金や売上代金の決済を早める・遅らせるなどの操作ができないこともないですが、これには必ず実際の企業の行動(取引)が必要となります。
     そこで、企業の行動を伴わずに会計上の判断だけで操作可能かどうかが、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書では異なります。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
つぶ問3-1(財務諸表論)―リース
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