【解答】
(問1)
包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう。他方、その他の包括利益とは、包括利益のうち、当期純利益に含まれない部分をいう。(116字)
(問2)
組替調整とは、当期以前に計上されたその他の包括利益項目が、当期純利益に含められるようになった場合に、その金額を当期の包括利益の計算上減額することをいう。過年度に包括利益として計上された項目が、当期の包括利益の計算過程で二重に計上されてしまうのを防ぐため、組替調整が必要となる。(138字)
(問3)
(A)4,500 (B)60,500 (C)6,000 (D)△1,500
【解説】
包括利益の表示に関する出題です。計算問題についても組替調整を問う問題を盛り込んでみました。
(問1)
解答の通りです。包括利益とその他の包括利益の定義については、なるべく暗唱できるようにしておきましょう。
(問2)
組替調整(リサイクリング)という概念は、包括利益と当期純利益、両者を結び付けるその他の包括利益の関係の理解と密接に結びついています。第67回税理士試験の財務諸表論第一問、2(5)では、本問と同じような趣旨の問題が出題されています。重要な論点でもありますのでぜひ理解しておきましょう。(問3)の解説にて図解します。
(問3)
組替調整に関する計算問題です。計算問題としての出題は、現行制度上、連結財務諸表を作成していることが前提となるため、総合問題としての出題可能性は高くないかもしれませんが、小問としての出題であれば十分に可能性があります。
組替調整は、図を用いるとわかりやすいですので、本問の状況を図解してみます。その前提として、その他有価証券評価差額金を売却分と保有分とに分けて整理しておきます。
・その他有価証券評価差額金の内訳別推移
当期売却分のその他有価証券は、前期末時点で1,500円(前期末時価18,500円-取得原価17,000円)のその他有価証券評価差額金が計上されていたことがわかります。この金額は、当期に売却を通じて全額なくなってしまいます(厳密には、洗替処理によって振り戻されあと、その他有価証券が売却されるために、期末には評価差額が生じない、という状況です)。このため、12,500円の当期末残高は、当期末にも継続して保有しているその他有価証券のみについて計上された評価差額金ということになります(こちらも洗替処理を考慮すれば、一度6,500円が振り戻された後で、12,500円が計上されることになりますが、両者の差額でみれば、6,000円の増額となります)。
以上を踏まえて、前期末から当期末にかけての財務諸表における各数値は、次のように推移していることになります。なお、その他有価証券評価差額金は、OCIと表記しています(Other Comprehensive Income=その他の包括利益の略称です)。
当期P/Lにおいて、売却によって減少した評価差額金1,500円は、投資有価証券売却益として当期純利益の計算に含められています。このままだと、前期に計上した評価差額を当期の包括利益の計算に、もう一度含めてしまうことになります。そこで、包括利益の計算過程で、増加額の6,000円とともに、減少額1,500円を考慮することで、二重計上を回避することができます。これが組替調整です。組替調整が行われた場合には、その他の包括利益の内訳の注記において、組替調整額が注記されます。
つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。
【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
つぶ問3-1(財務諸表論)―リース
つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-3(財務諸表論)―資産除去債務
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
つぶ問4-1(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-2(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-3(財務諸表論)―有価証券
つぶ問4-4(財務諸表論)―有価証券
つぶ問5-1(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-2(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問5-3(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付
つぶ問6-1(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-2(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-3(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問6-4(財務諸表論)―純資産(各項目、自己株式、新株予約権)、包括利益
つぶ問7-1(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-2(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-3(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問7-4(財務諸表論)―外貨、デリバティブ、ヘッジ、税金、税効果
つぶ問8-1(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-2(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-3(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問8-4(財務諸表論)―特商、工事収益、新収益認識
つぶ問9-1(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-2(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-3(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問9-4(財務諸表論)―CF計算書、会計上の変更
つぶ問10-1(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-2(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-3(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問10-4(財務諸表論)―連結、のれん
つぶ問11-1(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-2(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-3(財務諸表論)―企業結合、事業分離
つぶ問11-4(財務諸表論)―企業結合、事業分離