ライフプランナー/会計士・菊池諒介、事務所経営者の素顔に迫る File5:株式会社SoVa 代表取締役CEO・山本健太郎氏③


【編集部より】
税理士法人や会計事務所はたくさんありますが、いざ自分の就職先として選ぶ場合、どういう点に特徴があるのかわかりにくいこともあるかもしれません。そこで、本企画では日頃からライフプランナーとして、さまざまな会計事務所等と関わりを持つ菊池諒介先生(公認会計士/写真左)が、いま注目の法人・事務所経営者の素顔に迫ります。
File5は、株式会社SoVa 代表取締役CEO・山本健太郎氏(公認会計士/写真右)との対談です。
<全3回>
前編:SoVaのビジョンや事業内容について
中編:公認会計士を目指したきっかけと幻の退校届
③後編:会計業界をとりまく今後の環境と時代の変化

会計業界をとりまく今後の環境と時代の変化

菊池先生(以下、敬称略)
前回は、受験時代のことなどについて伺いましたが、今回はどういう会計事務所が時代に求められるのかなど、会計業界の未来について今やまけんが考えていることをぜひ聞かせてください。

山本先生(以下、やまけん)
僕は、「絶対に起きるであろうこと」と「考えてもよくわからないこと」に分けて思考する時があって、それこそAIの進化がどうなるかは、専門家でもないので、正直よくわからないことなんですよね。

ChatGPTを皆がまともに知ったのは2023年に入ってからで、急に世界が変わってしまいましたし、「何が起きるか」なんて誰にもわかりません。一応、可能性としてはいろいろと考えていますけど、「よくわからん」という世界です。

ただ、日本で今後ほぼ間違いなく起きるということでいうと、それは「人口減少」です。
2100年には5,200万人まで人口が減り、そのうち4分の3くらいが高齢者という時代に、会計事務所の生産性を上げないといけないということは間違いありません。

さらにいえば、人口が減って、少ない国民をどの仕事に割り当てていくべきかを考えた時にも、おそらく「会計」よりも「介護・医療」などのほうが優先されると思います。

つまり、会計事務所業界は「少ない人数でよいサービスを多くの人に届ける」ことが必要になるでしょう。ここまでは僕は決まっていることだと思っています。

だから、その事実に対して、「どういうアプローチをとれるか」をきちんと考えられている事務所がうまくいくのかなと思っています。

SoVaはテクノロジーの力を使って、多くの人に良いものを届けるという話になりますし、逆にたとえばFile1で対談されていたブラザシップさんのように、よい経営者を育成していくとか、サービスを絞ってよりよいものを提供するというのもいいと思います。

そのような戦略がないと、時代は動いているのに「昔はこれで良かった」という状態のまま時代に取り残されるのではないでしょうか。

菊池 人口減少を踏まえて、サービスを海外展開することは考えていますか。

やまけん 実は、海外展開もしたいと考えています。個人的には「途上国の国家制度を作りたい」とずっと思っているんですよね。

「リープフロッグ現象」という言葉があって、途上国で一気に新しい技術革新が起きる現象をいうのですが、たとえば「自動運転を導入する」という時に日本だと「ぶつかったらどうする」とか「道がどうだこうだ」といった話が出てきます。

しかし、僕が先日行ったカンボジアのある街では、遺跡とホテルとレストランの3ヵ所のエリアが三角形の位置関係にあって、観光客は車で移動するのですが、その道は強盗に襲われると言われていて、誰も歩いていないんです。そのような道なら、自動運転をすごく導入しやすそうだなと思いました。

そうなれば、日本を飛び越えて途上国で自動運転が発展し、リープフロッグ現象で経済発展をした時に、次に間違いなく起きるのは、国家制度が追いつかないという状態です。

税制や社会保障制度が整っていないので、国が腐敗していくという道筋が見えるので、SoVaはMade in Japanのブランドと、日本の制度をよく理解しているという強みをすべて生かして、その国に合わせた形で提供する。つまり、クライアント=国という構図ができたらいいなと思っています。

菊池 それは素晴らしい! 壮大なビジョンですね。

やまけん 実は、それがIPOをする1つの目的でもあります。IPOするまでは日本のマーケットで戦い、IPOすると海外株主も交えられるようになってくるので、IPO後はグローバルなマーケットで戦いたいと思っています。

変化することは一番の安定性である

菊池 AIと会計士・税理士の仕事との関係において、漠然と不安に思っている受験生も多いと思います。
その辺りについて、やまけんなりの見解を少し聞かせていただけますでしょうか。

やまけん 1つは、少し前にダボス会議が出した資料があって、確かAIの浸透によって今ある仕事が10なくなった時に、その裏側で新しい仕事が20生まれるというような話があります。

会計業界においても、なくなる仕事はおそらくありますが、その一方で、新しく生まれる仕事も出てくるはずで、そこに目を向けられていれば大丈夫だと思います。

当然、「何がなくなって何が残るか」は早く気づいたほうがいいのですが、たとえば洗濯機が生まれたから手洗いが減るよねという次元のレベルなので、それは普通に皆がわかるはずです。

もう1つ、僕自身が公認会計士になって感じたことでいうと、たとえば「監査」という仕事は、経験が物を言う世界なので、1年目の新人スタッフが10年監査の仕事をしている人に勝てることは99%ないと思います。

ただ、それは同じゲームという前提だからで、これからAIなどによってゲームチェンジが起きれば、全員がフラットになり、1年目が5年目にも、10年目にも勝てる可能性が出てくると思います。

そういうマーケットがこれからたくさん出てくるので、「新しく生まれたマーケット」に目を向けていれば、最初からオンリー1やナンバー1になれる可能性もあります。そういう意味では、年功序列の世界ではなくなるので、むしろチャンスが多いと思います。

菊池 変化を捉えて、それを楽しめるとよいのでしょうね。

やまけん 僕は「真の安定性というのは、1つだけでなく、複数のことができることによって成り立つもの」だと考えています。

よく、「講師もやって会社もやって、どんどんリスクをとって挑戦してますね」みたいなことを言われますが、僕は真逆の考えでなんです。

これだけ変化が激しい時代においては、1つの仕事や業務にだけ固執することのほうがリスクであり、むしろ色んなことに挑戦して、たくさんの経験と知見を貯めておいた方が、状況に合わせた対応ができて、結果的に安定するものだと思います。

中小企業支援を担う者として何が求められるか

菊池 僕ら保険業界というのも中小企業支援をきちんやっていかないといけないなと思っているのですが、日本一のアカウンティングファームを目指すやまけん社長から見て、会計事務所はどんな保険営業マンを求めていると思いますか。

やまけん 個人的には、保険商品ってそんなに大きな違いはないと思っているので、商品自体というよりも、「どの人から保険を購入して、その後一緒に時間を過ごしたいか」という選択だと思っています。

だから、人として一緒にいたいと思われるかどうかが、一番重要な気はします。テクノロジーでどんどん効率化されていく中で、人と人との繋がりや温かみの重要性も上がってきているので、そういう意味では自己研鑽が一番大事なのではないかなと思います。

菊池 保険外交員もそうだし、会計士・税理士も、サービスが良くても、この人とは今後関わりたくないなと思われたら、継続的に仕事を任されることはないですからね。身が引き締まる思いです。

もし、退校届を手にした山本少年が目の前にいたら…?

菊池 それでは、最後の質問です。
会計人コースWebの読者には、会計士や税理士受験生も多くいますが、受験生へのメッセージをいただきたいと思います。

そこで、もし目の前に、「退校届」を出しに行った受験生当時の山本少年がいるとして、今のやまけんが声をかけるとしたら、どのように声をかけますか。

やまけん 難しいですね。一応その仕事もやっているんですけどね…。

菊池 そして、その山本少年はさまざまな言い訳をしてきます。

「だって、AIが仕事を奪うって言うし、平均年収も実はそんなに高くないとか言うし、親には外交官の仕事のほうがいいって言われるし…、せっかく大学に入ったんだから、今しかできないキャンパスライフをもっと楽しんだほうがいいんじゃないかと思って…」と、いろいろなことを言ってきます。

やまけん よくわかりますね。
思うところでいくと、いろいろ理由はあるのでしょうが、勉強が辛い、辞めたいという話になるのって、とどのつまり「頑張ることに疲れた」という話だと思うんですよ。

で、頑張ることに疲れたという時に、目の前にあるのは2択で「疲れたから辞めよう」か、「いや、でも頑張るんだ」のどちらかです。

まず、いろいろな言い訳が自分の中にある人は、きちんとそれらに向き合ったほうが良くて、ちゃんと向き合い続けると、「頑張るのに疲れた」ということにおそらく行き着くはずです。

AIが云々、年収が云々というのは自分を正当化するための後から出てきた理由であって、本質的に向き合うべきは「頑張ることに疲れたということだよね」と、まず自分がきちんと納得することが第一です。

その上でどうするかについては、別にやめるのも正解だと思います。元会計士受験生がCFOや起業家として活躍するケースもたくさんあるので、受験をやめるキャリアが終わりとかでは全くありません。

だから、きちんと「会計士受験という意味で頑張るのは、自分はもう疲れたからやめるんだ」ということと向き合えているのであれば、やめるという選択肢も別に悪いことではありません。その人の人生で判断すればいいことと思います。

もう一方で、「苦労せずに何か大きな成果を得るというのは不可能」で、その事例を僕は一件も知りません。

受験勉強にしても、スポーツにしても、菊池さんが今キラキラしたライフプランナーになれてるのも、きっと地べたを這いつくばった時代が何年間もあるんだろうと思いますし、自分の右を見ても、左を見ても、活躍している人は皆、苦労を先払いしているに違いありません。

今、苦労しているのだとすれば、その先に成果をつかむ可能性は高い。
今、苦労していないのだとすれば、その先に成果をつかむ可能性は低い。

こういう話なので、「苦労している、辛い」と思っているのであれば、「合っているかもね」と思います。

メンタルがきつくてもう限界だということであればやめたほうがいいですが、そこまでではなくて、気持ちを切り替えたらなんとかなるということであれば、「せっかくそこまで時間やお金を投資しているなら、引くに引けないよね」と言って続けたほうがいいかもしれないな、というのが僕の回答です。

「選んだ道で頑張る」

菊池 いつ成果が出ると明確に誰かが教えてくれるのであれば、皆頑張れるんでしょうけどね。

やまけん そうなんですよね。でも、そこらへんが人生の楽しさだよなと思う時があるんですよ。「これだけ頑張ったから成果が出る」とわかっているなら、「別に機械でいいやん」って話になってきそうだな、と。

僕はアートが好きなのですが、「僕の人生」という白いキャンパスがあって、そこにいろいろな絵の具が重ねられていくイメージです。たとえば、菊池さんと出会った人生と出会わない人生ではキャンパスの絵は変わっていくんですよね。

周りの人との関わりが増えて、いろいろな色が加わってきて、自分自身の色も鮮やかに進化していくというのは、普通のアート作品なら完成したらもう終わりの静的なアートだけど、人生のキャンパスは動的に常に進化し続けるアート作品なんですよね。

だから、仮に会計士や税理士の受験勉強をやめたとしても、続けたとしても、作品としては継続しているのでどちらの道も正解だと思います。

菊池 他に会計士試験よりももっと情熱を注ぐ対象が見つかって、受験をやめる人もいますからね。

やまけん 受験勉強がきついのはよくわかっているし、キツくないと答える合格者はほぼいないと思いますが、そこを乗り越えた先に見えてくるものがあるんでしょうね。

実はこの10年くらいで合格者の様子も変わってきていて、合格祝賀会での盛り上がり方も変わってきたんですよね。

それはたぶん、今の中高生って時代の流れもあって、先生や大人からすごく怒られる機会が減っているんですけど、そうすると何が起きたかというと、すごく褒められる機会も減っているんです。

だから、何がすごいかの判断基準も違ってきて、「おめでとう!」といっても、10年前の合格者なら大はしゃぎしていましたが、今の合格者は「いや、試験に合格できただけなので、今すぐ何かできるわけではないので…」と、喜び方にも変化が見られるようになりました。

「自分の人生の正解を決める勇気」を持っている人が減ってきているのではないかと思っていて、だからこそ、会計士試験や税理士試験に合格するということが1つの正解例として、そこに向かって頑張れるのはすごくよいことだと思います。

ただ、「合格すること自体が、実は正解ではないのではないか」と思うから、モチベーションが下がってしまうこともあるので、「自分で決めるものなので、正解だと信じてやる。やめると決めたら「やめたのが正解だった」と言えるように、その後、頑張る」ということに尽きますね。

菊池 結局、選んだ道を自らの努力で正解にするということなのだと思います。やまけんも会計士試験を受けると決めたことを正解にしてきたと思うし、講師をやるという選択も正解にしてきたと思うし、今は起業したことを正解にしようと日々頑張っていると思うので、そういうことですよね。

やまけん そうですね。正解を探すのに時間を使うぐらいだったら、選んだ道を正解にすることに時間を使ったほうが絶対いいと思います。

もし受験生当時の僕が目の前に来たらという話で、さっき言うかを迷ったのは、「続けても続けなくてもどっちでもいいんだけど、選んだ道で頑張れ」という答えなのかもしれません。

菊池 今回かつてないほどカジュアルでざっくばらんな対談となりましたが(笑)、いい感じにまとまりましたね! ありがとうございました!!

(全3回おわり)

【対談者のプロフィール】

◆山本 健太郎(やまもと・けんたろう)

公認会計士 株式会社SoVa 代表取締役

慶應義塾大学在学中に公認会計士試験に合格、大手資格学校にて公認会計士講座講師を務める。
卒業後は同級生が起業した不動産系ベンチャー企業にて、取締役CFOとしてバックオフィスや資金調達、新規事業統括を担当。
2019年9月にCFOを退任し株式会社SoVaを設立、税理士などの士業とテクノロジーをかけ合わせた新しい形の会計事務所「SoVa」を開発・展開する。
2023年、Forbes JAPAN 30 UNDER 30「世界を変える30歳未満」120人に選出。

◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

【バックナンバー】
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