【対談企画】なぜ「組織内会計士」というキャリアを選んだのですか? File.1:新卒でメガベンチャーへ、その後、老舗酒蔵へ転職した川口達也氏の話(後編)


【編集部から】
公認会計士試験に合格した後のキャリア。

真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。そして、その高い専門性からビジネス社会全体に活躍の場は広がり、「組織内会計士」としてキャリアを積む人もいます。

そこで、この対談企画では、ライフプランナーとして多くの会計士の人生設計をサポートしている菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真右)をコーディネータとし、「事業会社でのキャリアに興味があるけれどよくわからない」という人に向け、資格との親和性やキャリアの多様性などについて語っていただきます。

第1回目のゲストは、新卒から「事業会社一筋」の川口達也先生(楯の川酒造株式会社:写真左)です。【後編】では現在のお仕事と会計士の魅力についてたっぷりお話いただきました。

東京⇔山形で感じた「公認会計士」の強み

菊池 前編で、新卒でDeNAに入社し、事業部の経理から単体決算、IFRSの連結決算はじめ幅広い経験を積み、その後、宿泊予約サイト「Relux」を運営する株式会社Loco Partnersに転職され、バックオフィス全般の経験を積まれたお話を伺いました。

現在、楯の川酒造ではどのようなお仕事をされていますか。

川口 楯の川酒造は山形県酒田市に本社があり、私は3ヵ月に1度本社に行く程度で、基本的には東京でリモートワークをしています。

今年2月頃までは、新ブランドの立ち上げに伴い、商品デザインの決定や値決めに関わる論点整理、関係各所とのスケジュール調整や進捗管理といった、いわゆるプロジェクトマネジメントをしていました。

現在は会計と人事を担当し、具体的にはクラウド会計やクラウド人事管理システムなど、SaaS系のサービス導入や社内の情報流通の整理、組織活性化・採用基盤の構築などを進めています。

余談ですが、弊社は「酒蔵DX」という商標を持っています。美味しいお酒をしっかり造りながら、ITをうまく取り入れて上場企業レベルの経営管理体制を目指しています。

他には、せっかく私は東京にいますから、会計士をはじめ、たくさんの人に弊社のお酒を買ってもらえるようにPR活動もしています。「酒蔵に会計士がいる」ということで、取材を受ける機会も増えています。それは会計士という資格があってこそだと思うので、そういった場には積極的に出るようにしています。

菊池 レガシー産業はITとは縁遠いイメージを持つ人もいると思いますが、興味深いですね。どんな会社かもう少し教えてください。

川口 会社の規模としては、正社員が50名、全体で70名くらいです。

社長がIT好きなこともあって、天保3年(1832年)創業の老舗酒蔵なのに、チャットワークでコミュニケーションをしたり、クラウドでファイルを共有する文化が根付いていたり、IT活用の基盤があったので、私も仕事に入りやすかったです。

働き方もホワイトで、始業が8時、終業が17時で、残業文化もほとんどありません。これは、現場の社員の皆様がITをうまく駆使しながら、改善業務を日々積み重ねている証左だと思いますね。

菊池 本社が山形にある会社の役員を東京で務めるというのは、今ならではの働き方ですね。実際、リモートワーク事情はどうですか。

川口 まったく支障なく仕事ができています。というのも、社長が先ほど話したような考えで20年近く経営されているので、営業やマーケティング、経営企画といったインターネットにさえつながればよい業務をできる環境は、入社前からすでに整っていました。

リモートワークだと、コミュニケーション不足によって本社と距離ができるのでは、と思われる面もあるかもしれませんが、社長が率先して作られたITを活用して受け入れる土壌が弊社にはあるので、Zoom、Google Meet、チャットワークを駆使して本社とコミュニケーションをとることが可能です。業務に必要なデータもクラウドで共有しているので、基本的に問題はありません。

とはいえ、最低限のコミュニケーションインフラは機能していますが、テキストや画面越しの音声だけでは会社の雰囲気や文化はわからないので、一定程度、現場に伺い、本社の空気感や仕事のリズムなどを体感し、交流を図って相互理解を深めることは非常に重要だと考えています。

ただ、私に求められている仕事上の役割は違うので、美味しい日本酒を造るのは本社の皆様に任せ、自分の強みや経験、たとえばIT企業での実務経験や会計士の専門知識、人脈を活かして、経営課題の特定と解決をしていきたいと思っています。あとは、こういった取材を受けることで、数ある日本酒の中から「楯野川」を知っていただくのも役割の1つだと考えています。

◆左:川口先生、右:菊池先生
5月某日、中央経済社にて

資格の活かし方で、道が開ける

菊池 監査法人の場合、いわゆる大手は4つですが、事業会社にはたくさんの大手企業がありますよね。川口さんは、事業会社を選ぶポイントは何だと思いますか。

川口 まずは、キャリアを「縦」に広げたいのか、「横」に広げたいのかを考えることだと思います。私の場合、DeNAの経理で「縦のキャリア」は積むことができたので、次は「横のキャリア」だと考えました。

あとは、いろんな会社を「職業的懐疑心」をもって見ることですね。採用マーケティングという言葉があるように、会社が表に出している情報を鵜呑みにしないことも大切です。これは特別なことではなく、実際に公認会計士の監査を受けたお墨付きの有価証券報告書を見たり、知りうる情報を総合的に勘案したりして、別の情報源から得た情報も踏まえて徹底的に調べることは、受験勉強や仕事で当たり前にやっていることですよね。

そして、自分の道を決めたら、あとは「正解」にするべく努力するしかありません。ただ、もしうまくいかなかったとしても、監査という独占業務が会計士にはあるので、その仕事にはつけるという安心感はもっても構わないと思います。

私自身、10年前は、山形の酒造会社に入って東京にいながらフルリモートで働いている、なんて想像はまったくしていませんでした。でも、それを支えてくれているのは、会計士という資格であり、会計の専門性と実務経験です。

経営コンサルタントで有名な大前研一氏が「ビジネスにおける三種の神器はIT・英語・会計」と言うように、会計は「ビジネスの言語」なので、その論理や成り立ちを身につける会計士は、非常に汎用性がある資格だと考えます。

だからこそ、「どう資格を活かせばいいのか」というところに面白さがあるのだと思います。そういった意味では、日本トップクラスに「いい資格」ですよね。

菊池 会計士仲間の話を聞いて刺激をもらうことも多いですよね。役員になったとか、上場したとか、本を執筆したとか、賞を取ったとか。そんな話を聞くと、自分も頑張らなきゃなと思います。

川口 その刺激は大きいですよね。会計士試験に合格することで、多様性に富んだコミュニティに入れるのも、会計士の大きな魅力だと思っています。

自分が経営者として相談したいことがあるときやビジネス上で繋いでほしい方がいるときに、上場企業の経営者の先輩会計士や異業界で活躍する会計士などに気軽に連絡をとることもできます。

逆に30代になってからは、相談を受ける機会も増えてきたので、ちゃんと背中で見せて、先輩から教えられたことを後輩に返していきたいなと思っています。

その積み重ねが会計士という資格の品格や社会的信頼性の向上の一助になれば嬉しいです。

一方で、こういった社会的信頼性のあるコミュニティに入っているということを自覚して、周りに迷惑をかけないようにしないといけないなと最近は感じています。

菊池 今回、同世代として川口さんとお話をして、私も刺激をもらいました。受験生にも組織内会計士の魅力が伝わると嬉しいですね!


【対談者のプロフィール】

川口 達也(かわぐち・たつや)

楯の川酒造株式会社 取締役
認定NPO法人3keys 監事
組織内会計士協議会広報専門委員
公認会計士

1988年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2012年11月、DeNA入社1年目に公認会計士試験論文式試験に合格。2017年2月よりホテル・旅館の宿泊予約サイト 「Relux」を運営する株式会社Loco Partnersに入社し、バックオフィス全般を管掌。2021年9月、楯の川酒造株式会社 取締役就任。

楯の川酒造株式会社 公式オンラインショップ

菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)5年連続入会の他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、社内表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi


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