ライフプランナー/会計士・菊池諒介、事務所経営者の素顔に迫る File1:税理士法人ブラザシップ代表・松原 潤氏③(全3回)


【編集部より】
税理士法人や会計事務所はたくさんありますが、いざ自分の就職先として選ぶ場合、どういう点に特徴があるのか見出しにくいこともあるかもしれません。
そこで、本企画では日頃からライフプランナーとして、さまざまな会計事務所等と関わりを持つ菊池諒介先生(公認会計士/写真左)が、いま注目の法人・事務所経営者の素顔に迫ります。
File1は名古屋・東京・小牧に展開する税理士法人ブラザシップ代表の松原潤先生(公認会計士・税理士/写真右)との対談。今回の記事では、これからの時代に求められる事務所像や会計人のあり方について伺います。

時代に求められる会計事務所とは

菊池 前回の記事では、ベンチャーキャピタルでの経験を経て、いよいよ事務所代表を務めることになった経緯を伺いましたが、受験生の中には、AIが普及したら会計事務所の仕事がなくなるといって不安に感じている方も少なくないのではと思います。僕は全くそんなことはないと思っているのですけれども…。

これに関連して、今後10年20年先を見据えた時に、松原さんはどんな会計事務所が時代に求められると思われますか。

松原 確か、米スタンフォード大学の先生が「今後10年でなくなる仕事」ということを発表して、その中に決算書を作成する人と監査をする人が入っていたのですよね。
それが公表されたのが2014年。そして、今は2022年。
公表から8年経ったわけですが、会計事務所の仕事がなくなったかって言うと、全くなくなっていません。

菊池 むしろ皆さんお忙しそうですよね。

松原 そうなんです。確かに、転記や入力など、単純なチェック作業はデジタルに置き換わってきています。しかし、税法というのは国策なので、毎年改正されます。
その内容を中小企業の社長が自らキャッチアップすることは困難を極めます。だから、会計事務所という仕事は必ず残ると思っています。

ただ、仕事の中身が変わってくるだろうとは考えていて、AIに代替される仕事をするのか、それともAIをうまく使うのかという点で、ポジションが明らかに変わってきます。
「人生を楽しむ」という時代に突入してくる中で、働きながら喜びを感じられる仕事を、皆にしてほしいですね。

菊池 会計ソフトのfreeeを積極的に活用されているのもそういった背景を踏まえてということなのでしょうか。

松原 単純作業はAIに任せたほうがいいと思うので、私たちプラザシップではfreee(クラウド会計ソフト)を使っています。東京オフィスはほぼ100%、名古屋オフィスも新規クライアントはfreeeです。

なぜかというと、他の会計ソフトは今までの会計ソフトのクラウド化ですが、freeeだけは全く別の新しい発想、新しいERPの位置付けなので、できることの範囲がすごく広いからです。

色々なものをAPI連携したり、AIで仕訳処理をしたり、AIにできることはどんどんさせて、それによって生まれた時間でコンサルタントのメンバーが価値の高い仕事を提供する。
だから、どのプロダクトが私たちのサービスと一番相性が良いかを考えた時に、freeeがベストマッチだったのです。

ただ、よく言われているようにfreeeは会計事務所からの目線で見ると、かなり使いづらいですよね。それはfreeeでは貸借という概念がないからです。だから、会計事務所業界の経験が長ければ長いほど使いづらさを感じると思います。
なぜなら、freeeはエンドユーザーである会社の社長が使いやすいようにという発想で作られているもの。それならば、私たちがその発想に慣れるしかありません。

別に会計事務所業界に限らず、新しいことにチャレンジしていかないと、どんな仕事でも取られます。チャレンジを続けなければいけないというのは、どの業界に限らず当然の話なのです。

菊池 テクノロジーに抗うのでもなく、飲み込まれるのでもなく、理解してフル活用できる会計事務所が生き残っていくのでしょうね。

業界の魅力という観点では、一流コンサルティングファームなどは就職人気ランキングにもランクインするほど人気ですが、会計事務所も就職先として選ばれる業界にイメージが変わってほしいですよね。

松原 はい、会計事務所の仕事がどれほど面白いかを多くの人に知ってほしいですね。

従来型の会計事務所で働いてきた人が、「もっと社長に喜んでもらえるような仕事がしたいけど、この業界ではそれは叶わない」と思ってしまって、他業界に転職させてしまってはもったいないですよね。
「まだまだできる場所はあるよ。うちに来てやってみて!」と言いたいです。そういうタイプの人は、前の事務所で「余計な仕事はするな」と煙たがられる存在のことも多いです。

でも、実はその余計なことをすることでお客さんに心から喜ばれるということがわかると、スタッフはみんな輝きますし、事務所の仕事としても成功ですよね。

会計業界のマーケットは大きい

松原 私自身、VCでさまざまな業界を見て回った経験がありますが、そのうえで、会計事務所で働くことはものすごく面白いと断言できます。マーケットは大きいですし、差別化もできます。

見方を変えると、よくブルーオーシャンを狙うと言われますが、そこにはマーケットがない可能性もあります。でも、レッドオーシャンの中で差別化された何かというのは、一番強いのではないでしょうか。

菊池 マーケットを深く分析して勝負をかけるのが重要ですよね。

松原 会計事務所は何でもできると思っていて、当然、会計がベースになるのですが、経営アドバイスもできますし、M&AにもIPOにも携わることができます。

他には、マーケティングや採用の支援もあります。それから顧問先が成長しそうだったら、どこよりも早くエンジェル投資することもできます。社長の一番近くにいるパートナーなのです。

中小企業で人間臭いところも面白いし、自分たちが導いた結果がその社長の人生にも大きく関わってきます。これこそが自分にしかできない仕事、自分が出せる価値だと思っています。

会計や税務のプロフェッショナルであり、そこにアイデンティティがあって、その上にいろいろなものを載せていくことができるのは面白いですよ。だから、どんどんこの業界に入ってきてほしいですね。

中小企業社長のパートナーに求められること

菊池 社長のパートナーというところで言うと、僕ら生命保険外交員も、経営者の頼れるパートナーでありたいですし、信頼関係を築いていきたいと思っています。

少なくとも僕はそんな思いで仕事をしているのですが、会計事務所の視点から見て、どういった働きを期待されていますか。

松原 それはもう、菊池さんみたいな人ですよ。

菊池 いやいやいや、めっちゃ言わせたみたいじゃないですか(笑)。

松原 でも、本当にそうで、たいていの場合、保険の商品についてお話をされることが圧倒的に多いですが、それは実は後のほうでかまいません。
それよりも、誰から入るかということのほうが、その後の人生が変わるんですよね。つまり、その保険の商品力があるという話ではなくて、誰を味方にするかという中小企業社長のパートナー探しにつながるからです。

中小企業の社長は、いろいろなことで悩んでいます。それを誰に相談していいかわからないという状態なのです。

我々は会計事務所として一番近くで社長に寄り添って解決していきたいと思っていますが、それができる会計事務所はまだまだ少ないそうです。

保険会社の人も社長とダイレクトに話せるポジションにあるので、いろいろな相談を引き出せるはずです。そのときに、保険に繋がらないからと聞き流すのではなく、それも含めてビジネスチャンスと捉えるといいのではないでしょうか。

専門家を連れてくるなど、社長の困り事を自分だけではなくて、周りのメンバーも含めて課題解決していくということをすれば社長はきっと喜びます。結果として、保険の契約に結びつくとも思いますよ。

会計事務所もそうなのですが、成功要因は何かというと、お客さんをどれだけ勝たすことができるか、ですね。そうすれば自分たちも勝てるというのは、ビジネスの原理原則です。それができるかどうかだと思っています。

だから、菊池さんのように、新しい情報を提供してくれるとか、自分たちに合いそうな人たちを紹介してくれるとか、何かその会社のことを常に気にかけてくれていて、その会社にとって有益な情報提供をしていくことができる人が求められていますね。
まさに、コンシェルジュやコンサルタントのような存在になったら絶対に勝てると思います。

菊池 仰る通りで、繰り返しになりますが「お客様に勝っていただく」というのが大前提ですからね。僕らはいろいろな人と普段お会いするという特性があるので、会計事務所とも連携していくとすごくいい化学反応を生むのではないかと思っています。

松原 本当に優れたビジネスマンらは遠く、つまり長期目線で見るのですよね。どこまで遠くを見れるかによって、その人の成熟度が分かり、成功する確率も高まるかなと思いますよ。だから、自分のことよりも相手にどれだけ貢献できるか、そこを貫ける人が最終的に勝つのではないでしょうか。

これはどの業界でも同じ論理ですし、一緒に仕事するなら、そういうゆとりのある人と組みたいですよね。ノルマに困っている人や短期的な視点の人のことは、相手も見極めてしまいますしね。

これからの時代に求められる会計人のあり方

菊池 最後に、改めて、今後、業界に入ってくる人、もしくは入ろうかなと思っている人に、今後の時代に求められる会計人のあり方を、メッセージとして頂けますか。

松原 まず受験生向けにお話をすると、合格したら必ずいいことがあります。実は、これは私自身が受験時代に原価計算の講師から言われたことで、その時はどんないいことがあるかはわからなかったです。

でも、その言葉を信じてストイックに勉強をして、結果的に今までを振り返ってみると、いいことしかなかったなと思えるのですよね。

もちろん、いろいろな成果の形がありますが、プロフェッショナルとしてこの道を選んでよかったと思える時が来るから、諦めずにやり続けてほしいです。

菊池 そうですよね。若手会計士に向けてはどうでしょうか。

松原 特に今、監査法人で働いている若手の人たちは、どんどん外に出てチャレンジしてほしいですね。仕事が面白くないとか、キャリアを迷っているけど外の世界はちょっと怖いと思っている人はたくさんいるかもしれません。僕も当時はそうでしたが、結局はリスクのないところはリターンもないので、若ければ若いうちにいろいろなチャレンジをしたほうがいいと思います。

もし初めての転職で、成果が出せなくても、ゆくゆくそれは話のネタになりますから。だから、長い目で見れば、失敗なんていうことはないのですよ。どんどんチャレンジして、どんどん周りに迷惑をかければいいし、きっと周りが助けてくれますから。

世の中は数字に弱い社長が溢れているので、優秀な会計士・税理士の活躍する場所は絶対にあります。あとは、今、会計事務所で働いている人や若手税理士さんに向けて、一番はブラザシップのような経営支援型の事務所があるということを知ってほしいです。

メディアに煽られてしまった結果、「会計事務所は面白くない。未来がない」と感じて業界自体から出ていってしまう人も多いです。

ですが、中小企業社長の一番のパートナーになれるのは会計事務所であることは間違いありません。社長にとって欠かせない仕事を担うことができる、そういう働き方や仕事ができる可能性があるということはぜひ知ってほしいですね。

菊池 松原さんのお話で、特に印象的だったことが2つあります。どんな状況でもベストを尽くすという姿勢が大事だということ。もう一つが、資格を取ってから良いことしかなかったということです。

VCでの話や事務所経営の話などをお聞きすると、プレッシャーも大きいであろうという印象を受けますが、それを自分のキャリアの糧として、会計士だからこういう経験ができているという発想になることができるかが、結果を出せるかどうかの違いなのかなと思いました。

松原 行動しないのが1番のリスクですし、どう解釈するか、どうポジティブに考えるかから全て始まると思います。

実は、私は大学4年生の時に就職活動を1ヵ月間だけやったのですが、私の実家が会社をしている関係で、いわゆるコネで入れる会社もあったのですよね。父親から、ここなら話を通せるから、今晩決めろと言われたこともあって、その時に、このまま甘えたほうがいいかなと思ったこともあります。ですが、そうしたら、自分の人生終わりだと思って、断ったのですよ。

「とにかく自分がどうなりたいか」ということを真剣に考えて向き合ったからこそ、今があるので、上手にキャリア設計して今があるわけでは全くありません。だから、前向きに物事を考えていくことはすごく大事だと思います。

菊池 今回は貴重なお話をたっぷりとありがとうございました。一人でも多くの未来の会計人材に読んでいただきたい記事となりました!

(全3回おわり)


<対談者紹介>

◆松原 潤(まつばら・じゅん)

税理士法人ブラザシップ 東京オフィス/代表社員
公認会計士・税理士
大手監査法人勤務後、トヨタ系ハンズオン型ベンチャーキャピタルで、様々なベンチャー企業の修羅場を経営者と乗り越える。現在は経営支援型会計事務所の代表を務める。
コアスキルは、財務、コーチング、戦略的思考、心理学。経営者のポテンシャルを120%引き出して理念ビジョンを叶える仕事と、ベンチャー支援がライフワーク。

■税理士法人ブラザシップ https://www.brothership.co.jp/


◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)5年連続入会の他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

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