【対談企画】なぜ「組織内会計士」というキャリアを選んだのですか? File.2:ビッグ4から28歳でIoT×SaaSベンチャーへ、若くしてIPOを成功させた村上航一氏の話(前編)


【編集部から】
公認会計士試験に合格した後のキャリア。

真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。そして、その高い専門性からビジネス社会全体に活躍の場は広がり、「組織内会計士」としてキャリアを積む人もいます。

そこで、この対談企画では、ライフプランナーとして多くの会計士の人生設計をサポートしている菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真左)をコーディネータとし、「事業会社で働く会計士のリアルを知りたい」「興味があるけれどよくわからない」という人に向け、資格との親和性やキャリアの多様性などについて語っていただきます。

第2回のゲストは、新卒で大手監査法人に就職後、IoT×SaaSベンチャーに転職した村上航一先生(株式会社Photosynth(フォトシンス):写真右)です。【前編】では、これまでのご経歴や転職時の思いについて、たっぷりお話しいただきました。

在学合格後、監査法人選びで重視したこと

菊池 「組織内会計士のキャリア」をテーマに、監査法人や会計事務所とは異なるフィールドで活躍している方とお話しするこの企画、第2回は村上航一さんが勤めるフォトシンスの本社にお邪魔しました。大手監査法人でシニアスタッフまで経験を積んだ後、IoT×SaaSベンチャーのフォトシンスに転職し、昨年東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)への上場を経験されています。まずは、簡単にご経歴を教えてください。

村上 株式会社フォトシンス 経営管理部 部長の村上航一と申します。本日は雨のなか、お越しいただきありがとうございます。在学中に会計士試験に合格し、EY新日本有限責任監査法人(以下、EY)に就職してから6年ほど、上場企業やIPO準備企業、学校法人などの監査を経験しました。その後、フォトシンスが上場を目指しているタイミングで転職し、昨年上場を達成することができました。現在は経営管理部長として、経理はもちろん、物流や基幹システムも管轄しています。

菊池 実は、村上くんは埼玉大学時代の2個下の後輩で、10年以上の付き合いになります。昔からよく知っている間柄ですが、改めて会計士を目指した理由を教えてもらえますか。

村上 昔から「会計士になりたい」と思っていたわけではなく、大学に入学してからも将来何をしたいかは明確ではありませんでした。大学1年生のとき、とりあえず「何か資格を取ろうかな」と思い立ち、大学で開かれている簿記講座に参加してみました。簿記のパズルのような感覚に魅了されたのですが、2級になった途端に難しく感じてしまって…。それでも「簿記が好き」という思いから、「一発で満点合格できれば会計士を目指す」と心に決めました。

菊池 思い切った決断ですね~。私も村上くんも東北から埼玉大学に進学しましたが、印象として会計士を目指す学生は少なかったですよね。私も周りが就職活動をしているときに受験勉強をしていたので、“個人プレー感”は強かったです。友人たちが就活モードで黒髪ショートになっていくなかで、あえて長髪にメッシュとかを入れて勉強していました、退路を断つという意味も込めて(笑)。

村上 わかります、私も当時金髪にしていました(笑)。個人プレー感というのは本当におっしゃるとおりで、私が菊池さんと出会ったのも大学の財務会計ゼミでしたが、そこが唯一の土壌だったかと思います。そのゼミに入ることが大学で会計士を目指す第一歩でした。受験勉強を諦めずに続けるという意味では、ゼミの存在は私にとって非常に大きかったです。

菊池 そう言ってもらえると、当時のゼミ生選抜にも関わった僕としては嬉しいですね。ちなみに、学生時代の村上くんを見ていると順調に合格したような印象があるのですが、実際のところはどうでしたか。

村上 いえいえ、まったくそんなことはなく…(笑)。常に優秀な成績をとるタイプではなく、最後に一発逆転を狙うようなタイプでした。「本試験で合格点を取ればそれでいい」というスタンスで模試も受けていましたね。自分で決めた戦略でしたが、「本番一発勝負」だからこそ、常にプレッシャーは感じていました。

菊池 意外ですね。どちらかというとエリートな印象だったので、少し親近感が湧きました(笑)。それでも見事に在学合格し、EYに入社するわけですが、当時はどのようなキャリアプランを描いていたのでしょうか。EYを選んだ理由もあわせて教えてください。

村上 最初から、監査法人で働き続けるキャリアはあまり描いておらず、漠然と「途中で違うキャリアに進むのかな」というイメージだけはありました。とはいえ、ファーストキャリアとしては、大手監査法人で経験を積みたいという思いがあり、また当時は「保育」や「教育」に興味があったので、パブリックセクターに強いEYを選び、実際にシニアスタッフに上がった頃、専門セクターに配属されました。

菊池 保育や教育に興味があったのは、何か原体験があるのでしょうか。

村上 単純に「子どもが好き」という思いもありますが、当時「待機児童」が社会問題になっていたこともあって、保育や教育のあり方、その未来に課題感を抱いていました。実は卒業論文も「株式会社の保育事業参入」をテーマに執筆しています。監査という場面においても、パブリックセクターは会計基準や関連法令が一般の株式会社とは大きく異なります。学校法人など特殊な法人の監査について全体像を理解して実施できる会計士はEYの中でも限られていましたので、専門セクターの第一線で「保育」や「教育」に関われたことは、非常にいい経験でした。現在は2児の父親となりましたが、実体験としても「保育」というものには引き続き強い関心を持っています。

転職は突然に、シニアスタッフ3年目での決意

菊池 監査法人に入社後、6年ほど経験を積まれます。まずスタッフ時代はどうでしたか。

村上 実は、入社すぐにパブリックセクターに配属されるという願いは叶いませんでした。ただ、学校法人をクライアントとして抱えるチームに配属していただいたので、学校法人+多種多様な上場企業の監査を経験することができ、多忙な中でも充実感がありました。

菊池 シニアスタッフになってからは、仕事の内容ややり方は変わりましたか。

村上 シニアスタッフに上がるタイミングで組織再編があり、晴れてパブリックセクターに配属されました。業種ごとの部署編成に変わったので、前の事業部で抱えていたパブリック・クライアントも、パブリックセクターにともに異動し主査を担当しました。組織再編後はこれまでの学校法人クライアントに加え、新たなパブリックセクターのクライアントの主査を複数担当し、一方で上場企業やIPO準備会社の主査も担当することができたため、非常にいいキャリアを積めたのかなと思っています。

菊池 そのように順調にキャリアアップしていったなかで、監査法人から転職しようと思ったのはいつ頃だったのでしょうか。

村上 シニアスタッフ3年目くらいになると、様々なクライアントの主査を経験し、海外に出張して子会社の現地監査法人とコミュニケーションをとるなど、シニアスタッフとして一通りの仕事を経験できるようになったと思います。個人的には、この時期が、引き続き監査法人でキャリアを築くのかどうか考える岐路になると感じています。私としても、セカンドキャリアという選択肢をぼんやりと考えるようになっていました。

ただ、この時期にちょうど転職活動をしていたかと言われると、まったくそんなことはありません。フォトシンスに転職したのはまさに“ご縁”であり、偶然のめぐり合わせでした。大学時代ともに会計士を志し同時に合格した親友がフォトシンスの主査だったことから、私を会計士の取締役に紹介してくれました。その時点では転職は考えていなかったのですが、「親友の紹介なら」と思って取締役に会ってみると、事業会社で働く会計士としての魅力や熱意が伝わり、またフォトシンスという会社のビジネスモデルやミッションにも強く惹かれました。数日後には、フォトシンス本社で当時の取締役全員と面談していただき、そこで改めてご縁を感じることができ、IPOを目指すプロジェクトにもやりがいを感じたので、すぐに転職を決めました。

菊池 偶然、その取締役の1人(現フォトシンス副社長)の渡邉宏明くんと私は同級生で、学生時代からよく一緒にカラオケに行ったり飲みに行ったりしていたので、フォトシンスに村上くんが入社すると聞いて、当時はとても驚きました。監査法人からはじめて事業会社に転職するということで不安はなかったのでしょうか。

村上 不安はあまりなく、新たなキャリアに挑戦するワクワク感のほうが大きかったですね。どちらかというと転職を突然決めたので、当時主査を務めていたチームのメンバーにかける負担のほうが気がかりでした。ただ、そういう場面がないと会計士として成長できませんし、私自身もそういった場面で成長してきた経験があるので、「主査」という役割を引き渡すという点では、ある意味「後輩へのプレゼントができたかな」と思いました。

菊池 ワクワク感を感じられる転職は最高ですね。ちなみに、「ベンチャーへの転職」といえば気になる方も多い話題かと思うのですが、収入面での変化について、当時村上くんがどう考えていたのか教えてもらえますか。

村上 収入よりはやりがいを重視していました。実際、提示された条件をそのまま飲む形で、当時の年収から大きく落として転職しています。それでも、ミッションに共感し、ご縁をいただいた会社の成長に貢献したいという思いや、必ずこの会社を上場させたいという気持ちが大きかったですね。

菊池 たしかに、「その経験が将来的にどういう糧になるのか」という視点はとても重要ですよね。会社から与えられる短期的な収入に固執するのではなく、多少時間がかかったとしても、自らの努力でしっかりメリットを作りにいく姿勢が大切だと思います。

村上 これは自分の中でしっかりと価値基準を持っておくのが大事なのかなと思いますね。一時期、テック系ベンチャーで上場達成し、ストック・オプションで億万長者になるのはよくある話だったと思いますが、現在のように市況感が変わればそう上手くはいきませんので、ここは「賭け」のような部分もありますね。逆に、上場はゴールではなく、さらなる事業拡大に向けたスタートにすぎないので、事業会社で働く会計士としては、中長期で企業価値を上げることに貢献し、価値を発揮できれば何よりだなと思います。

◆対談当日は雨で残念ながら外の景色は見えませんでしたが、オフィスからは東京タワーが見えるとか。

「組織内会計士」としてIPOを達成

菊池 続いては、ベンチャーに興味のある会計士の多くが気になっているであろう「上場準備の現場」について聞いていきたいと思います。プロジェクトを進めるなかで、印象的だった経験、監査法人での経験が活きた感覚などはありましたか。

村上 「上場って何?」といった具体的なイメージは、監査法人にいる会計士全員が理解しているわけではなく、実際にIPOを支援する舞台にいないとわからないことが多いと思います。監査法人でその経験をできたのは、非常に大きかったと感じています。

実際、会社を上場できるように整えるためには、「形式面」と「実質面」を分けて考えなければいけないと思うのですが、会計士として採用するからには、まずは会社としても形式面を整備してもらいたいという要望が当然あるかと思います。規程を作ったり、内部統制に関する文書類を整えたり、上場申請書類を作成したり。こういった形式面の整備は、時間はかかりますが、監査法人でその経験があれば難しいことではないと思うんですね。

逆に難しいのは実質面です。会社のビジネスモデルは上場に相応しいものか、市場環境や競合環境はどうか、事業の成長戦略は妥当か、リスクと対策はどうなっているのか。上場までこういった内容を突き詰めていくなかで、「会計士としてどう貢献するか」ということについては、監査法人でそれ相応の経験を積んできた会計士が皆、期待に応えられるかというと、個人的には難しいのかなと感じています。監査の序盤に「企業及び企業環境の理解」というものがありますが、実は監査手続においてもここが非常に重要で、被監査企業のビジネスの理解や分析を得意としていた方、重視して監査戦略を立案できていた方は、実質面でも活躍できるのではないかと思います。

また、監査法人では様々な業種にアサインされ、自分が特別に詳しいわけではない分野に関しても相談を受け、それに対してスピーディーに回答することが求められます。私もフォトシンスに入ってから、経理は当然ですが、物流や基幹システムを整備したり、部品を調達したり、時には営業に協力したり、幅広い分野に関わってきました。これから上場を目指すベンチャー企業などでは、限られたメンバーで会社を運営していく場面も多いので、そういった違う分野への「耐性」は、監査法人で磨いてきた武器なのかなと思っています。

菊池 たしかに。会計士試験では、財務会計だけではなく管理会計を勉強したり、会社法も勉強したり、色んな分野を学ぶので、新しい分野にあたっても理解する“勘どころ”が養われる感覚はありますね。逆に、大手監査法人から上場を目指すベンチャー企業に転職したとなると、カルチャーや雰囲気もかなり違ったのかなと思うのですが、苦労したことはありますか。

村上 やはり監査法人にいたので、最初の頃は「外から会社を見る」という感覚が抜けていなかったと思います。実際、周りから見ても、そういう雰囲気だったかもしれません。ただ、会社が生み出した商品やサービスを世の中に出して、喜んでいただき会社の価値を上げる、そういった「自分の会社」という感覚は事業会社ならではで、監査法人では感じにくいものです。なので、組織の一員として、会社を成長させるんだというマインドに変えていくのは、少し時間はかかりましたが、それができた瞬間、他のメンバーとのコミュニケーションもスムーズになりました。自分の部署はもちろん、他の部署のメンバーの気持ちにまで寄り添って物事を考えられる組織内会計士でありたいと常に思っています。

◆フォトシンスの代表的なサービス「Akerun」(スマートロックを活用したクラウド型システム)。

後編(7月22日掲載予定)に続く


【対談者のプロフィール】

◆村上 航一(むらかみ・こういち)

株式会社Photosynth
経営管理部 部長
公認会計士

2012年大学在学中に公認会計士試験に合格。2013年2月より新日本有限責任監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)で、上場企業監査、IPO監査、学校法人監査に従事するなど、監査業務を通じて様々な企業や組織の経営基盤の強化に貢献。
2019年2月に株式会社Photosynthに入社。同社の財務経理に関する業務をリードするとともに、バックオフィスの体制構築、物流拠点の立ち上げ、基幹システムの開発導入など幅広い業務に従事。
また、IPO実務責任者として、2021年11月の東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)への上場を果たす。2022年7月より現職。
1991年生まれ、山形県出身。埼玉大学経済学部卒。

Akerun入退室管理システム|導入社数No.1のスマートロック

◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)5年連続入会の他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi


【バックナンバー】
File.1:新卒でメガベンチャーへ、その後、老舗酒蔵へ転職した川口達也氏の話
前編
後編


関連記事

ページ上部へ戻る