ライフプランナー/会計士・菊池諒介、組織内会計士の素顔に迫る File.6:グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社プリンシパル・磯田 将太氏③


【編集部から】
公認会計士試験合格後のキャリアとして真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。中には、会計士の高い専門性から、ビジネス社会全体に活躍の場を広げ、「組織内会計士」というキャリアを選択する人も多くいます。
そこで、この対談企画では、ライフプランナーであり公認会計士の菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真右)をコーディネータとし、公認会計士資格と様々なキャリアとの親和性や多様性などについて語っていただきます。
第6回のゲストは、グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社プリンシパル・磯田 将太氏(写真左)です。
<全3編>
前編:ベンチャーキャピタリストとしての仕事
中編:ベンチャーCFOになるために目指した会計士資格
③後編:ベンチャー・スタートアップ業界で求められる会計人材

ベンチャーキャピタリストとして意識していること

菊池 前回は、公認会計士を目指したきっかけやVCへ転職した経緯について伺いましたが、一般論としてVC業界にはどんな公認会計士が向いていると思いますか?

磯田 公認会計士の受験勉強で、ビジネスパーソンとして知っていなきゃいけない知識は基本的に網羅しているので、そもそもベースは向いていると思います。

ベンチャーキャピタリストとして活動するときに、自分が社外取締役に入って、会社から求められる役割を果たせるかというと難しいことですが、公認会計士は「何が論点か、何を調べればキャッチアップできるか」に対して勘所がある点でアドバンテージがあると思います。

それに加えて、公認会計士の資格と関係がないところで言うと、一番大事なのは「好奇心が旺盛なこと」です。

マンガは海外でどれくらい人気があるのか、VRデバイスはどれぐらい利用が広がるのか、スポーツベッティングはどういう時間軸で日本で社会に受容されるかなど、投資検討では本当にいろいろなテーマを見ます。それらを全部ゼロから考えなければいけません。

どちらかというと、公認会計士は未来・過去で言うと過去、仮説・ファクトで言うとファクトのほうを重視する仕事ですが、VCは完全にその反対です。未来のこと、仮説のことをどこまでロジカルに落とし込めるか、そして、それに対して好奇心が持てるかVCの仕事で大事なことだと思います。

菊池 磯田さん個人としては世の中のトレンドをどう情報収集しているのでしょうか。

磯田 いくつかあるのですが、意外かもしれませんが身近なところで、YouTubeの急上昇トップ20とかはなるべく毎日見ています。音楽系、特にK-POPが多いですけど、格闘系が最近はすごく流行っていますよね。

僕は基本的に、エンターテイメントやコンシューマー関連の投資家なので、「今、世間が何に興味を持っているか」はしっかりウォッチしています。

菊池 他にはどんなところで情報収集をしていますか。

磯田 一番深い情報が入るのは、やはり「起業家と話すこと」ですね。起業家の方々は各業界関係者の一次情報を取っていることが多く、リアルな情報は当事者やそれに近い人から得ることで、その情報の深さを得ることができます。

さらに、起業家からお話を聞いた延長線上で、自ら業界の関係者にもお話を聞きに行くこともしばしばあります。業界のプレイヤーは起業家からとは異なる見え方もあるので、たとえば、漫画の海外配信の会社や小説投稿の会社への投資を検討する過程では、漫画家や編集者にDMを送ってコンタクトを取ることもしていました。

監査法人での経験が活きる瞬間

菊池 あえて一般化すると、監査法人での勤務経験のどんなところがVC業界に活きると思われますか。

磯田 たとえば一般事業会社の監査経験がある人なら、現場に行ってどういうラインが動いて、どんな人たちが関わってということを実際に見たり、工場にどれだけ在庫が積み上がっているかを見たり、リアルな経済活動に触れる機会があります。どういう経済活動によって財務諸表が成り立っているのかを、肌感覚をもって理解できることは大きいです。

投資を検討する時にも、投資した後の経営支援でも、さまざまなディスカッションをしますが、「数字からどういうことが起こっているのか」に対する感度は、公認会計士は必然的に身についているものだろうと思います。

菊池 現場の経済活動がどのように数字に落とし込まれていくのかを肌で感じられる監査業務の経験はやはり貴重ですね。ベンチャー・スタートアップ企業における会計人材が果たすべき役割や市場からの期待について、磯田さんはどのように考えていらっしゃいますか。

磯田 ベンチャー・スタートアップ界隈で、会計人材に対するニーズが高まっていることは間違いありません。

僕らが主に投資をしている企業は社員数が10〜30人程度で、管理部門は起業家が自らやるか外注先に任せていることが多いですが、投資をする時に最初に欲しい人材は管理部長です。CFOのこともありますが、スタートアップにとって一番重要な起業家のリソースの3割前後が管理部門に割かれるので、ファイナンスよりも管理部門に強い人へのニーズが高いです。

ジェネラルにいろいろな知識のある公認会計士や会計人材が管理部門に入ることで、会社のステージが一気に変わり、事業も好転するということはよくあります。その役割は会社のステージを変えるほど、実は重要であることをぜひ知っていただきたいです。

若手会計士や受験生へのメッセージ

菊池 将来、ベンチャー・スタートアップ業界で働きたいと思っている若手会計士や受験生は多いと思いますが、華やかなイメージがある反面、当然全てのスタートアップ企業が上手くいくわけではありません。これから転職を考える後輩たちにあえて注意点を伝えるとしたらどんなことですか。

磯田 ベンチャー企業はものすごくたくさんあるので、たとえば業界の中あるいは近い人に転職を検討する企業の話を聞いたり、起業家のリファレンスを少なくとも2〜3件はとったりするなど、きちんとDD(デューデリジェンス)をしたほうがいいです。

投資意思決定をするようにリサーチをするのが理想で、本来であれば、例えばその会社はその産業・業界においてベストなのかというような競合優位性などがDDすべき論点になるはずですが、案外自分のことになるとそういう視点が急になくなることも多いように見受けています。

僕自身も「この会社どう?」と聞かれたら、ベンチャーキャピタリストとして答えられますし、実は、弊社でも人材支援チームがあり、投資先80社程の中からその人がどこにフィットするかご相談に乗り、ご紹介しています。人材紹介業としてやっているわけではなく、投資先スタートアップの3年~5年後といった時間軸での企業価値の成長を見据えて投資をしているので、その企業に長い目で見て本当にフィットする人をご紹介することで、投資先・紹介される人・我々がWin-Win-Winな構造を作ることができています。

菊池 スタートアップ企業への転職にハードルを感じる人もいらっしゃるようですね。

磯田 それについては、現場をたくさん見ている身として、さほどリスクではないと思っています。VC業界にいて思うのは、たとえば監査法人からパッと転職する人よりも、スタートアップで1〜2社でも経験している人のほうが圧倒的に採用したい対象になってるということです。

スタートアップでの経験はうまくいった企業に限らず、例えばゼロから会社の管理部門を立ち上げる経験があったりすると、よりよいスタートアップ企業に転職できる可能性も高まります。先ほどDDの話をしましたが、最後はえいや!の部分もあります。たとえその会社の事業がうまくいかなくとも、その後も転職先は十分にありますし、市場からも評価されると思います。

菊池 今、キャリアについて考えている若手会計士や、受験勉強を頑張っている若い世代に向けてメッセージをお願いします。

磯田 僕が今、ベンチャーキャピタリストとして一緒に働いている経営者やスタートアップを取り巻くステークホルダーには、公認会計士なんて5%もいません。外に出てみて改めて公認会計士の特殊さ、貴重さを感じています。とにかく行動して、ぜひ外を見てください。すると、すごくいろいろなキャリアパスが存在するんだなと気づけます。イベントに出たり、直接連絡したり、20代の若い特権を最大限に活かして、先輩に話を聞きに行ってもらえると嬉しいなと思います。

また受験生は、キャリアの広がりは保証するので安心して勉強してほしいです。

公認会計士試験に合格した同期を見ても、今のキャリアはバラバラで、それぞれの道で楽しく活動しています。受験生の人たちが見えている世界よりも、その先には遥かに多くの選択肢があるので、心配せずに勉強してほしいと思います。

僕自身は学生時代から行動してきた結果、人との繋がりができて、それが今の仕事にも繋がっているなと感じています。とにかく若いうちから行動したほうがいいですし、いかに行動するかが勝負だと思っています。

菊池 本日は素敵なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。これからも貴重な“会計士キャピタリスト”としてご活躍を祈念しております!

(全3編おわり)

【対談者のプロフィール】

◆磯田 将太(いそだ・しょうた)

グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社
プリンシパル

早稲田大学政治経済学部卒業後、KPMGメンバーファームのあずさ監査法人にて、製造・情報通信・小売・エンターテインメント・エネルギーなど多業種の法定監査業務及びIPO準備支援業務に従事。
2020年6月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。
Xアカウント(@shota_isoda

◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

【バックナンバー】
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