公認会計士試験 続ける? 諦める? 諦めたらキャリアはどうなる?


株式会社TACプロフェッションバンク
出川 雅人
(キャリアコンサルタント)

みなさん、こんにちは!

2021年2月16日に令和2年度の公認会計士論文式試験の結果が、例年よりも3ヵ月遅れで発表されました。例年よりも3ヵ月も長い受験期間、本当にお疲れ様でした。

合格された方は、就職活動に集中されることと思います。残念な結果だった方は、好むと好まざるにかかわらず、「続ける」か「諦める」かの決断をしなければなりません。

この記事をお読みになっている方の多くは、進路に迷っておられるのではないでしょうか。今回は、この重い課題を真正面から考えてみましょう。

まずお断りしておかなければならないのは、「続ける」か「諦める」かを決める判断材料は、一人ひとり異なるということです。たとえば年齢、経済状況、そして会計士を目指した理由など、一人ひとり違います。しかし、方向性は決めなければなりません。

このような局面での「正しい決断」とは、後悔しない決断のことです。ここでは、数多くの会計士・税理士のキャリアに関するご相談に接してきたキャリアコンサルタントとしてお話をしたいと思います。この記事が、皆さんにとって後悔しない決断をしていただくための材料になれば幸いです

「監査」業務に就きたいか?

まずお考えいただきたいのは、本当に「監査」業務に就きたいかどうかです。今さらと思われるかもしれませんが、真剣に考えてみてください。

選択肢は「Yes」「No」そして「?」の3つです。「Yes」とお答えになった方は「続ける」必然性が高いですが、「No」「?」の方は公認会計士試験の勉強を続ける理由をもう一度考えてみましょう。

公認会計士試験に合格後、公認会計士資格をどう活かすかは、大きく2つに分けることができます。1つは、公認会計士の独占業務である「監査」業務に就くことです。もう1つは、資格取得までの過程で得た知識を使って働くことです。この場合、コンサルティングや一般企業での経理・財務・IRなどをイメージできるでしょう。

後者のほうがはるかにフィールドが広いですよね。ただし、これらは監査のような独占業務ではなく、「知識」を使う業務なわけですから、必ずしも公認会計士である必要はありません。つまり、公認会計士試験に不合格だったとしても、その勉強を通じて得た知識を使える場面はとても多いのです。

さあ、あなたはどのように働きたいですか?

年齢は何歳か?

年齢については、特に職歴のない方にとって大きな判断材料となるでしょう。一般的に、就職では若いほうが有利です。ここ数年は、公認会計士試験の受験者も若年化していますので、年齢制限が比較的緩やかな監査法人でも、年齢は無視できなくなってきました。

できれば、30歳くらいまでには就職したいところです。

仮に一般企業への就職を考えたとき、具体的に「何歳まで」という線引きができるわけではありませんが、経済4団体の基準である「卒業して3年以内は新卒扱い」は、1つの目安と考えてもよいでしょう。

経済的に「続ける」ことが可能か?

これは、大学生や受験に専念している方にとっては重要です。生活費や学費の心配なく受験を継続できるかどうかも考慮しなければなりません。

もちろん、就職して「働きながら受験を継続する」という選択肢もあります。ただし、正社員の合格者数は全体の10%程度。学生や専念受験生よりも学習時間が大幅に減りますので、相当な覚悟が必要です。

また、受験回数が複数に及ぶ方は、「これまでの積み重ねがあるから次回は大丈夫」とお考えになるかもしれません。たしかにそのとおりです。しかし、今回の試験も「これまでの積み重ね」はあったのではありませんか? 「これまでの積み重ねがあるから、学習時間を減らしても合格できる」とお考えになった方は、本当にそうなのかをもう一度検証してみましょう。

「続ける」決断をした方へ

まずは、「続ける」決断をした方へ。

公認会計士試験などの資格試験にチャレンジすると、結果は「合格する」か「諦める」のいずれかしかありません。「続ける」と決めたら、まず「短答式試験免除の期間」「あと1回」などの期限を定めましょう。そして、「絶対に合格するぞ」という決意のもと、最善の努力をすることをお勧めします。合格できれば最高ですし、もうこれ以上勉強できないくらいまで頑張れば、合格できなかったとしても諦めがつくのではないでしょうか。

「諦める」決断をした方へ

次に、「諦める」決断をした方へ。

公認会計士試験の最終合格率は10%程度です。言葉をかえると90%は合格できない超難関試験です。短答式試験に合格しただけでも素晴らしい。

そのため、まず公認会計士試験を「諦める」ことをネガティブに考えるのではなく、「ビジネスで役立つ知識を身につけられた」「日商簿記1級よりもはるかに難しい短答式試験に合格できた」と発想を転換しましょう。

そして、「諦める」ではなく「転身する」と考えてはいかがでしょう。そう考えると、これからの就職活動をポジティブに進めることができますよね。

「転身する」のは恥ずかしくもないし、卑下する必要もないのです。大学受験で第一志望に不合格で、他の大学に進学した人はたくさんいると思います。私もその1人です。同じだと考えましょう。

皆さんは数千時間を費やして、膨大な知識を習得したのです。この点は、就職活動でも堂々とアピールすべきです。「高度な会計・法律知識」が皆さんのセールスポイントですし、それを評価してくれる職場が皆さんの活躍の場です。

これまで解答してきた数百~数千の演習問題は、実際のビジネスで遭遇しうる最新の法令に沿ったケーススタディです。実務経験はなくても、予行演習はしっかりできていると考えましょう。

さらに、財務諸表論では法の精神、立法趣旨や法の変遷を学んでいます。最新のビジネスでは、関連した法律が未整備の分野も珍しくありません。そうしたときでも、理屈がわかっている皆さんなら、対処法を考えることができるのではありませんか?

さまざまなフィールドが広がっている

数年前のある日、オフィスの近くで見覚えのある男性と会いました。彼は、私がTACの校舎に勤務していたときの会計士受験生。今は別のスタートアップ企業で活躍していますが、当時はバイオベンチャーの管理部長で、年収1,200万円。公認会計士試験の勉強を通じて得た知識はとても役立っているとのことでした。

その他にも、スーパーゼネコンでPFIを担当している方、大手通信会社やマスコミの経理部で働く方など、ビジネスでの最前線で活躍している会計士受験生は本当にたくさんいます。

たとえ、今回の試験が残念な結果だったとしても、ぜひ前向きに考えていただきたいと思います。皆さんが習得した会計や法律の知識はビジネスでもとても役に立ちますし、皆さんと同じレベルの知識を備えたビジネス・パーソンはとても少ないということを覚えておいてください。

事実、私の勤務するTACプロフェッションバンクには、「会計士受験生を採用したい」という求人が多く寄せられています。ご興味がおありの方は、ぜひ相談してみてください。

あなたはどうしますか? 今はまだ冷静に考えることは難しいかもしれません。しかし、ご自身の将来を左右する決断です。事実から目をそらさずに考えてみましょう。皆さんが正しい決断をされることを心より祈念いたします。

〈執筆者紹介〉
株式会社TACプロフェッションバンク
出川 雅人
キャリアコンサルタント
伝統的な日本企業での海外駐在、外資系企業、ベンチャー企業を経て、TAC株式会社に入社。米国公認会計士講座責任者などを担当した後、TACプロフェッションバンクにて人材紹介コンサルタントなどを経験。現在は就職イベント企画・運営に携わる。大学経営学部の4つのゼミでの就職指導にも7年間従事。

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