ライフプランナー/会計士・菊池諒介、組織内会計士の素顔に迫る File.6:グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社プリンシパル・磯田 将太氏①


【編集部から】
公認会計士試験合格後のキャリアとして真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。中には、会計士の高い専門性から、ビジネス社会全体に活躍の場を広げ、「組織内会計士」というキャリアを選択する人も多くいます。
そこで、この対談企画では、ライフプランナーであり公認会計士の菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真右)をコーディネータとし、公認会計士資格と様々なキャリアとの親和性や多様性などについて語っていただきます。
第6回のゲストは、グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社プリンシパル・磯田 将太氏(写真左)です。
<全3編>
①前編:ベンチャーキャピタリストとしての仕事
中編:ベンチャーCFOになるために目指した会計士資格
後編:ベンチャー・スタートアップ業界で求められる会計人材

本シリーズ初の20代会計士に聞く!

菊池 「組織内会計士のキャリア」をテーマに、事業会社で活躍する公認会計士に仕事内容や資格の生かし方、キャリアヒストリーについてお話を伺う本企画、第6回はグロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社の磯田将太さんをお迎えしました。

グロービスといえば経営大学院というイメージをもっている読者の方もきっといらっしゃいますよね。先ほど、オフィス見学を少しさせていただきましたが、大教室やおしゃれなカフェテリアがあり、働く人たちも国際色豊かですね。

磯田 そうですね。先ほどご案内した大教室はグロービスホールといって、経営大学院の講義のほか、弊社も投資家向けの説明会などで利用しています。カフェテリアでは、投資先の企業の方々と一緒に、弊社ホームページに掲載する写真を撮ることもありますよ。

グロービスホール

磯田 ところで、この対談企画シリーズはどういうきっかけで始まったんですか。

菊池 実は最初、会計人コースWebの編集部から僕のところに「何かできませんか?」という非常にざっくりしたオファー(笑)をいただきました。それで、僕が組織内会計士の広報委員を務めていることもあり、「活躍する組織内会計士と対談ができると毎回いろいろなお話が聞けて新鮮だし、面白いのでは?」ということから始まりました。

今回、磯田さんとの対談が6回目で、初の20代。しかもベンチャーキャピタル(VC)という、公認会計士が少ないフィールドなので、読者の関心も高いのではないかと思います。

では、はじめに磯田さんのキャリアヒストリーとVCでのお仕事について教えていただけますでしょうか。

磯田 はい、早稲田大学在学中に公認会計士試験に合格し、卒業後はKPMGあずさ監査法人で3年間、会計監査のほかリクルート業務にも携わりました。そして、2020年6月にグロービス・キャピタル・パートナーズに転職、投資チームに所属し、今年7月からプリンシパルという役職に就いています。

現在の業務は大きく5つに分けられ、1つめは投資先を探してくること。つまりソーシングですね。あえて日本語で表現すると、案件発掘でしょうか。

2つめは、投資検討で、デューデリジェンスをして投資をするかしないかを決めます。投資の実行プロセスとして、契約書の締結や資金のオペレーションなどの業務も含まれます。

3つめは、経営支援です。基本的に投資後は、我々が社外役員として入って中からサポートをするということをしています。

4つめは、最後のEXIT(出口戦略)として、我々は第三者割当で株を保有しているのでそれをキャッシュ化するため、IPOやM&Aにより株の流動化をします。

以上がフロント業務です。

その裏側で、5つめにファンドレイズがあります。我々は機関投資家からお預かりした資金をスタートアップに投資しているので、機関投資家に対する営業活動を行います。

弊社の場合、比較的小さい組織なので、これらの業務は細かく担当分けせず、「1人のキャピタリストがこの5つ全部できるようになろう」ということを大前提にしています。

ベンチャーキャピタリストとしての仕事

菊池 このうち、特にどの業務のウエイトが大きいのでしょうか。

磯田 全体を10とすると、発掘2:投資検討2:経営支援4:EXIT1:ファンドレイズ1といったバランスです。

たとえば発掘の段階では、X(旧Twitter)で起業家に直接アプローチすることもありますし、イベントで知り合うこともあります。あとは、VCやエンジェル、起業家など、知り合いからのご紹介もあります。

年間10社程度のスタートアップ企業を真剣に検討し、そのうち1、2社に投資するペースで活動しています。そこに至るまでに、年間200〜300人の起業家と知り合い、ミーティングを行い、投資方針やステージに合った会社を深く検討していきます。

菊池 伸びていく会社を見極める視点がものすごく磨かれそうな環境ですね。

磯田 そのとおりだと思います。VCに来る前はスタートアップやベンチャー企業の見方は全くわかりませんでした。教科書的には、「人と市場とビジネスモデル」という3つが主な投資検討の要素になりますが、「どれくらい深く見るのか」、「どういうプロセスで見ていくのか」は、VCに入ってから勉強したことばかりです。

これまでの3年間で10社程度のスタートアップ投資に関与しましたが、さまざまなビジネスモデルに対する理解が深まりました。また、今は投資した企業の成長度も見えてきて、投資判断の振り返りもできつつあります。

当然、成功する企業ばかりではなく、失敗の可能性も前提に投資をするので、そこがVCの難しさでもあり、面白さでもあります。

菊池 貴社の場合、何といってもグロービス経営大学院のグループ企業であることが大きな特徴の一つだと思いますが、経営大学院とVCとどのようなシナジーがあるのでしょうか。

磯田 グロービスは、代表の堀がハーバード・ビジネススクールに留学した時に、アメリカのイノベーション・エコシステムを日本に持ち込みたいということで始まりました。

そこで必要な要素として「ヒト・カネ・チエ」という3つがあり、「ヒト」は、経営大学院の創設と企業内リーダーの育成です。グロービスは、渋谷の小さな貸し教室でマーケティングの1講座からスタートしました。。グロービス経営大学院では、今や年間1,000人以上の社会人が通っています。

「チエ」については、出版事業ならびにオウンドメディア「GLOBIS 学び放題×知見録」などを通じて、経営・マネジメントに役立つ学びのコンテンツを動画やテキスト記事で情報を届けています。

またG1では、我々が“日本版ダボス会議”と呼ぶG1サミットなどを開催しており、、各界のリーダーたちが議論し、行動するためのプラットフォームとして日本を良くするため貢献しています。

最後に、「カネ」の部分がグロービス・キャピタル・パートナーズです。当時、アメリカでは、投資先の経営を支援し、企業価値を高めて、その果実を得るというモデルが成立していました。しかし、日本では金融機関系VCが主流でした。

そこで、1996年に日本初のハンズオン型ベンチャーキャピタルとして始まったのがグロービス・キャピタル・パートナーズです。

シナジーとしては、経営陣が経営大学院で学んでくれていたり、G1を通じて起業家がその業界のリーダーにアクセスできたり、エコシステムとして投資先をサポートしています。

菊池 これまでの支援先にはどういった企業があるのでしょうか。

磯田 2000年前後はITバブルの頃で、最初に急成長した企業は「ワークスアプリケーションズ」という業務用ソフトウェアの制作会社です。その後、グリーやライフネット生命、ここ10年程では、スマホのデバイスシフトの波を捉えて、メルカリ、スマートニュース、アカツキなどです。直近はクラウド移行やDXの文脈をうまく捉え、アンドパッド、キャディ、カケハシなどに投資しています。

菊池 今をときめく素晴らしい会社ばかりですね。

磯田 そうですね。例に出させてもらった会社の他にも、今まだ広くは知られてないものの大きな可能性を持った会社を支援させてもらっています。

ベンチャーキャピタリストとしての評価

菊池 社内メンバーには、どういう経歴の人が多いのでしょうか。また、磯田さんは7月に社内でも最短でプリンシパルに昇進されたとお聞きしましたが、高い評価を受けるに至った経緯や要因などもお聞きしたいです。

磯田 投資担当のメンバーは戦略系コンサル出身者が半分以上、投資銀行出身者が1〜2割程度で、残りが他のVCファンド経験者、あとは公認会計士が僕一人で、弁護士も一人います。

VCは個人で働く仕事なので、「グロービス・キャピタル・パートナーズ」という社名と同時に、その中の「誰」に投資してもらうのかがすごく大事になります。そのため、自分の名前を売ることも重要なのですが、僕の場合は「年齢」が間違いなくアドバンテージになりました。

というのも、僕が転職した時、1つ上の世代が年齢的には9歳上だったので、「ひと回り若い人がグロービス・キャピタルに入ってきた」という印象を社外の人にも与えることができ、幸いにも、接点をもっていただきやすかったのです。その結果、世代の近い起業家やVCの繋がりができ、投資活動に必要な独自のネットワーク形成ができました。

ここ最近は、弊社にも20代メンバーが増えましたが、当時、チャレンジングな採用を会社がしてくれたおかげで、ファンドにとって新たな価値を出しやすい環境だったと思っています。

菊池 他にはどんなことを意識されていましたか

磯田 もう1つは、僕よりも戦略コンサルや投資銀行出身の人のほうが、圧倒的に高い素地があると思っていたので、負けないために「ゼロから学ぶ」という意識が強かったです。

僕は公認会計士としての仕事を3年しか経験していないので、公認会計士としての経験値が高いわけでもありません。むしろ、「第二新卒的に入れてもらった」と思って、VCで学ばなければならないことが本当にたくさんあると思っていました。

ファイナンスの知識、ビジネスや戦略の議論の土台となる様々なフレームワーク、その根柢の思考法としてのクリティカルシンキングなど、VCに必要な要素の多くをゼロから学ぼうという姿勢でいたので、「人に聞くこと」が恥ずかしくなかったのです。

菊池 それは僕も共感するところがあって、異業種へチャレンジする際、自分は会計士だから云々みたいな変なプライドは成長の妨げになりかねませんよね。謙虚で素直な姿勢を持つことは、どんなタイミングの転職でも非常に大切なことだと思います。

中編へつづく

【対談者のプロフィール】

◆磯田 将太(いそだ・しょうた)

グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社
プリンシパル

早稲田大学政治経済学部卒業後、KPMGメンバーファームのあずさ監査法人にて、製造・情報通信・小売・エンターテインメント・エネルギーなど多業種の法定監査業務及びIPO準備支援業務に従事。
2020年6月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。
Xアカウント(@shota_isoda

◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

【バックナンバー】
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