ライフプランナー/会計士・菊池諒介、組織内会計士の素顔に迫る File.4:最高峰の経営戦略コンサルティングファームBCGで活躍する坂本広樹氏の話(後編)
【編集部から】
公認会計士試験に合格した後のキャリアとは。
真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。高い専門性からビジネス社会全体に活躍の場を広げ、「組織内会計士」としてキャリアを積む人も多くいます。
そこで、この対談企画では、ライフプランナーとして多くの会計士の人生設計をサポートしている菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真左)をコーディネータとし、「事業会社で働く会計士のリアルを知りたい」「興味があるけれどよくわからない」という人に向け、公認会計士資格と様々なキャリアとの親和性やキャリアの多様性などについて語っていただきます。
第4回のゲストは、大手監査法人に就職後、業界最高峰の経営戦略コンサルティングファームに転職した坂本広樹先生(ボストン コンサルティング グループ(BCG):写真右)です。
【後編】では、現在のBCGでの働き方や会計士資格との親和性について、たっぷりお話をお聞きしました。
【前編】はこちらから。
ライフスタイルに合わせた働き方をチームで考える
菊池 前編に続いて、ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)での働き方というところをさらに掘り下げたいと思いますが、家族と過ごす時間や育児との兼ね合いはいかがですか。坂本さんは小さいお子さんがいらっしゃいますよね。
坂本 はい、息子が今1歳8か月なんですが、家族と過ごす時間もしっかり確保できています。
というのも、これもBCGに入ってすごいなと思ったことの1つなのですが、まず、プロジェクト単位でチームが組成された時に、チームメンバーで話し合ってルールを決めているんです。プロジェクトごとに、毎回メンバーが違うのですが、たとえば、この時間は保育園の送迎があるとか、夕食の時間は家族と過ごしたいからミーティングを入れないといったように、メンバー個々人のライフスタイルに合わせた働き方ができるよう、チームで話し合って、どういう働き方で進めていくかというワークプランを設計しています。
その後も、週次でアンケートを取って、「今、サステイナブルに働けていますか」ということなども確認します。そこで仮に「No」という人がいたら、定期的に全員で次の1週間や2週間はどう過ごそうか、という改善策を話し合います。なので、個人の状況を組織としてすごく尊重してくれているというのを実感しています。
菊池 めちゃくちゃいい取り組みじゃないですか!
坂本 取り組む課題が難しいにもかかわらず、働き方もしっかりしていて、私自身も入ってから本当にびっくりしました。それ以外にも、男性でも育休を取得している人も多いですし、自己学習等に充てるためのFlex Leave制度等も用意されています。
菊池 よく、制度はあっても結局のところ上司や部署の価値観に左右されるというような話も一般的にはあると思いますが、実際に望ましい形で機能しているというのが素晴らしいですよね。
坂本 BCGでは、「ダイバーシティ」、「エクイティ」、「インクルージョン」という考え方が社内に浸透しているのが、働きやすさにつながっていると思います。「個人の考えや環境を尊重する」という、この考え方の本質的な面をすごく大事にしています。その表れとして、日々のコミュニケーションでは、「否定から入らず感謝から入る」というようなマインドが徹底されていますね。なので、上の立場にある方ほど、人格者が多いと思います。
菊池 その点に関連してお聞きしたいのですが、会社の制度や理念を全体に浸透させるためにBCGが行なっている施策などはありますか。特に、中途で入社される方も多いと思うので、どうやってその理念を浸透させているのかが興味深いです。
坂本 人と人の密な接点が持てるような仕組みがありますね。たとえばプロジェクト単位で上司とは毎日ミーティングをしたり、プロジェクト以外でも高い頻度で評価や今後の課題に関するフィードバックを受けたりする機会があります。
さらには、プロジェクトが終わったタイミングで、総括する時間があります。その際には、BCGのコンサルタントとして備えるべきことなど、1つ1つに細かく点数づけをします。そこで、点数だけではなくて、何が良くて、どこに改善点があるということを、優秀な上司からフィードバックを受けることができます。
プロジェクト以外にも、キャリアアドバイザーという中長期的に成長・育成・評価を見てくれるシニアがいて、気軽に相談する関係が作れます。
菊池 今回対談させていただくまでは貴社に対して勝手にドライな会社というイメージを持っていたのですが、実はものすごく人間味溢れるウェットな会社なんですね。お話を聞いて、随分とイメージが変わりました。
「ここで長く働きたい」と思わせてくれる組織風土
坂本 もちろん、自分から先輩に質問しに行く姿勢も必要ですけれども、自然と周りが教えるし、だからこそ逆に自分も教える。そういうことが自然とできているように思いますね。やはり「人」が最大の資産なので、一番大切にしていることだと思います。
菊池 もう1つの世間からのイメージとして、昇格するかできなければ退職を余儀なくされるみたいな、いわゆる「アップ オア アウト」が激しい世界という印象がありますが、それも事実と異なるのではないかという気がしてきました。実際どうなのでしょう?
坂本 クライアントの期待値が高いので、それに見合った昇格のハードルの高さはもちろんあります。でも、よくイメージされるような「君は明日から来なくていい」みたいなことを突然言われるかというと、普通に働いていれば全くそんなことはありません。
先ほどお話ししたように、やっぱりチームで密に話し合いますし、もしパフォーマンスが上がらない人がいれば、「どうタスクを割り振るか」、「どうケアしていこうか」を考えます。たとえば、私のように子供が小さくて、熱が出たから小児科に連れていかなきゃいけないといったような、突発的な対応の時も周りがフォローをしてくれます。だから、みんながそれぞれのペースでキャリアが描けるように、周りもサポートし合うという環境にありますね。
菊池 チームで助け合える環境が整っているのですね。ちなみにお答えしづらいかもしれませんが、退職される方はどのような理由が多いですか。
坂本 ポジティブな理由で辞める人が多いですね。BCGでは、退職することを「卒業」とも表現していて、その人個人のキャリアステップ自体を応援するような姿勢でもあるんですよ。仮にBCGを卒業したとしても、また戻ってくる方もかなりいます。
菊池 坂本さんの感覚では、BCGに入社する方々は、「そこで上を目指したい」というタイプと「ここでの経験をしっかり活かしてステップアップしたい」というタイプのどちらが多いと思いますか。
坂本 そうですね。新卒のような若手か、私のような経験者かによっても違うかもしれません。経験者だと、BCGに入ってみたらすごくいい会社なので、「長くいたい」という考えを持つ人が比較的多いような気がします。
若手の方だと、まだBCGしか経験がない人だったり、将来的に起業したいとかファンドに行きたいという人もいたりするので、その描いているキャリアのステップとして、BCGでの経験を勉強の場として捉えている人はいると思いますね。大きくはその2つに分かれるように感じます。
「コンサルタント×会計士資格」の親和性と強み
菊池 貴社に対する印象が本当に変わりました。かといって、当然誰でも入れるような会社ではないとは思うのですが、今のお仕事をする上で、会計士の資格はどう活きていると感じていますか。
坂本 たとえば直接的に資格が活きる場面だと、有価証券報告書でリサーチする際や、事業の財務モデルを作る際には、勉強してきた知識が役立ちますね。とはいえ、この辺りは正直なところ、「聞けばわかる」というものです。
それよりも本質的には、色々な会社で、たとえば資金調達から売上まで全部見てきたことや、国内外の支店や子会社で事業の現場を見てきたこと。そういった色々なビジネスを「自分の目」で見てきたことが、実際に今の仕事で、事業スキームやオペレーションモデルを作るというところで役立っています。
どちらかと言うと、専門知識よりも「会計士として積んできた経験」が、今に活きているという実感を持っています。
菊池 そういうお話を聞けると嬉しくなりますね。僕は特に若い会計士の方々からライフプランの延長線上でキャリア相談などを受けることもあるのですが、「コンサルティングファームに行きたい」という声は一定割合お聞きします。
この対談の前編でも、採用のことは少し触れましたが、改めて今後コンサルティング業界を目指す会計士たちのためにもう少し聞かせてください。コンサルティングファームの中でも、BCGはすごくハードルが高い印象があるのですが、坂本さんから見て「会計士でもこういう人がBCGに向いている」というポイントはありますか。
坂本 まず、BCGの採用基準で言うと、大きく3つあります。「インテレクチャル」、「インターパーソナル」、「成長力」です。インテレクチャルは、いわゆる思考力ですね。正解がない世界において、自分で問いを設定して、自分なりに解きに行けるかという力です。
インターパーソナルというのは、お客さんと関係を構築し、組織における変革を共に推し進めていくために、考えをきちんと伝え、クライアントを動かしていけるかという力です。とはいえ、採用前からこの2つができる人はなかなかいないので、前編でもお話ししたような、斜に構えずに素直に他者から学び、その2つの力を身につけて成長できる力があるかどうか。その大きく3つを見ています。
なので、会計士であることを前提にすると、クライアントとの関係構築はできる方が多いと思いますけども、自分で問いを設定するという「頭の使い方」が、慣れるまで苦戦するかもしれません。というのも、与えられた試験問題を解くということに慣れている部分があって、問題を出す経験は少ないからです。
コンサルタントの仕事は「そもそも何が問題なのか」を考えてそこから答えを導き出すことなので、その頭の使い方は会計士の仕事には少ない視点で、新しく学んでいかなければならない部分かなと思います。
会計士試験に合格したというプライドよりも、思考力を身につけていけるかどうか、成長力があるかどうかがポイントになると思います。
菊池 なるほどですね。どちらかというと履歴書上の経歴というよりは、採用面接でしっかりその辺りの力を見極められているということなんですね。
坂本 はい。コンサルタントとしての「頭の使い方」にはコツがいるので、それはよい師匠を見つけられるかが大事になってきますね。
転職エージェントでも、セミナー講師でも、先輩でも、きちんと自分を育ててくれる「良い師匠」が見つかるかどうか。あとは、「どうすべきか」を自分なりに考えていけるか。この2つがとても大事になります。
会計士試験であれば1年や2年で合格といったような「期間」が1つの指標としてありますが、「頭の使い方」のコツをどう習得するかについては期間ではないんですね。
すごく簡単にコツを掴める人もいて、同じチームにいたすごく優秀な新卒のメンバーが半年くらいで習得して驚かされることもありました。この辺りは、まずは良い師匠と一緒に取り組むこと、あとはそこに自分をアジャストしていくことができるかどうかにかかっている、と思います。
会計士としての経験は大いに活きる!
菊池 今後、コンサルティングファームを目指したいという若手会計士や受験生には、どんなことを期待されますか。
坂本 ぜひ、飛び込んで来てほしいですね。特に、会計士の方はクライアントとのリレーション構築には慣れていることが多く、それはコンサルタントとしてもとても大事なことです。
さらには、数字に強い方も多いと思うので、定量分析で課題を特定するなど、課題を特定して解きに行くこともコツをつかめば、すぐにできるだろうと期待しています。
でも、やはり本質的には、これまで色々な企業を見てきていると思うので、その経験から「面白いアイデアを出せる」というところが、ぜひ一番やってもらいたいところです。
菊池 大事なポイントだと思うので、もう少し深掘りしてもよろしいでしょうか。
坂本 単に思いつきではなくて、「ここの会社ならでは」や「こういう業種ならでは」の手触り感があるアイデアが出せるといいなと思っています。たとえば、有名なケース問題で、「新幹線のコーヒーの売上を2倍に増やすには、どうすればいいか」という問いがあります。こういった問題を考える時に、よく「売上=数量×単価だから、高級なコーヒーを売って単価を2倍にする」という回答があるんですが、果たしてそんなコーヒーが売れるのか、ですよね。
そういうことではなくて、たとえば「駅弁にはご飯物が多くてコーヒーは合わないから、洋食系の駅弁を増やしたらコーヒーを飲みたいと思う人が増えるんじゃないか」とか、「注文したい時に販売員さんが来ないから、アプリで呼べるようにしたらいいんじゃないか」とか。そういうリアリティのあるアイデアが求められます。
本を読めば書いてあるようなことではなくて、色々な企業を見てきた会計士だからこそ、自分の経験から考えられることでもあります。監査というレアな経験をしているからこそ、ぜひその経験を活かしてほしいですね。
菊池 仕事でも、プライベートでも、日々の生活で触れる様々な企業の営業戦略にどれだけ意識的にアンテナを張れるかも大事な視点ですよね。お答えしづらいかもしれない質問をもう1つよろしいでしょうか。
坂本 どうぞ、どうぞ。
菊池 実際に、コンサルティングファームに行きたいと思っている会計士が多くいる一方で、現実的にはBCGのようなトップファームで働く会計士はそれほど多くない印象です。そのギャップは何だと思われますか。チャレンジする前に勝手な先入観で諦めてしまっているのでしょうか。
坂本 なぜなんでしょうか。私もはっきりとは分からないですが、まず我々のことが正しく伝わっていないということが1つあると思います。ただ頭がよくて、ドライで怖い集団だというイメージが強いかもしれません。
そもそも会計士出身のコンサルタントの数も少ないので、身近に聞ける先輩などもいないでしょうから、その辺りの情報の非対称性がありそうです。
また、エージェント選びが大切だともお話をしましたが、コツを知らないまま、応募されているといったこともあるのかもしれません。
菊池 そう考えると、コンサルティング業界で活躍する会計士がもっと増えてもよさそうですよね。
坂本 はい、ぜひそう期待しています!
菊池 ここまで、坂本さんにはコンサルタントとしての立場からお話をいただきました。最後に、「公認会計士」の坂本さんとして、資格が今どのようにご自身の人生に活きているか教えて頂けますか。
坂本 今のキャリアを振り返ってみても、会計士はすごくレアな資格で、たとえば普通にその会社に入ったら10年かからないと見られないような資料を、会計士だったら1年目から見ることができます。さらに言えば、色々な会社を転々としないと経験できないようなことが、監査法人に入れば全部経験できます。それこそ、大企業の売上や資金調達まですべてのプロセスを見ることができる、とても貴重な資格ですよね。
その分、短期で色々な業種にキャッチアップしないといけない、一定程度は単純作業をしないといけない、そもそも試験勉強が大変だということはありますが、それらと誠実に向き合えば、すべての経験が後々役に立ちます。愚直に、誠実に、目の前の仕事に取り組めば、キャリアにつながっていく、活かしていけるということは感じています。
菊池 会計士になる人は、自分のキャリアの選択肢を広げたいという動機で目指す方が多いと思いますが、その一方で資格を取ってからは「会計士だからこうでなくては」という縛りを勝手に作ってしまって、逆に可能性を狭めている人もいらっしゃるのではと感じています。
坂本さんのお話を聞いて、少し外を見るだけで、ものすごく可能性が広がっているということを改めて感じました。若手会計士の方や受験生の皆さんにとっても、今回の記事がキャリアを前向きに考えるきっかけになれば嬉しいです!
【対談者のプロフィール】
◆坂本 広樹(さかもと・ひろき)
ボストン コンサルティング グループ プロジェクトリーダー
公認会計士
1986年生まれ、群馬県出身。早稲田大学創造理工学研究科修了(工学修士)。
2012年、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)で、財務諸表・内部統制監査に従事。その後、外資系の総合系コンサルティングファームに入社し、大手企業での基幹システム導入プロジェクト等を経験。現職では、金融業界を中心に、新規事業開発、中期戦略策定、カスタマージャーニー構築、デジタル・データ活用等のプロジェクトを手掛けている。
ボストン コンサルティング グループ/BCG Japan
◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)
プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)5年連続入会の他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。
MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。
個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi
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File3:RSM汐留パートナーズ株式会社代表取締役社長CEO・前川研吾氏&同税理士法人パートナー・長谷川祐哉氏① ② ③(全3回)
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