海外ビジネスで「うまくやる」ための文化理解~①なぜ日本人は英語の会議で笑うのか


江上 徹(Leapfrog合同会社 代表社員・公認会計士)

【編集部より】
今年12月の公認会計士試験短答式試験から英語による出題がされるなど、英語のスキルアップに力を入れている人も多いのではないでしょうか。一方で、ビジネスで求められるのは英語力だけではないようです。そこで、本連載では、グローバル人材育成を行う公認会計士の江上先生に海外ビジネスでうまくやるために知っておきたいことを教えていただきます(全4回、月1掲載予定)。

なぜ日本人は英語の会議で笑うのか

「部長、会議でずっと笑ってたよね」
「普段の激詰めの様子を見せてやりたいよ」

都内のカンファレンスルームで私の耳に飛び込んできた会話です。先ほどまで外国人を交えた会議が開催されていたようで、若手社員らしき数人が後片付けをしています。なるほど、普段は厳しい部長が、外国人がいる場では別人のように笑っていたのですね。

こんにちは。公認会計士の江上徹と申します。

私は現在、「英語・ファイナンス・文化理解」をパッケージにしたグローバル人材育成プログラム「Altus Leap(アルタス リープ)」を開発し、世界で戦える人材を一人でも多く育てるべく奮闘しています。

さて、読者の皆さんの中にも、海外の人たちと仕事をして、仕事の進め方や慣習などの違いに戸惑った経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。

実際、いろいろなトラブルや対立は、語学力の不足ではなく、文化理解の不足により生じることが多いのです。

そこで本稿では、日本と海外のビジネス文化の相違にスポットライトを当て、無用のトラブルを回避して「うまくやる」ヒントを4回にわたり連載します。

第1回は、とかく外国人から不思議がられることが多い日本人の「笑い」について取り上げます。

笑ゥさらりぃまん

さて冒頭の部長。外国人がいる会議で別人になってしまうのは、場に慣れていない不安や緊張の現れです。

このようなケースは他にもあって、私は次のような場面に遭遇したことがあります。

  • ある定例会議に加わることになった日本人が、最初の自己紹介で「My English is so bad」と言い、日本人だけが笑った

これは「英語は苦手なので失敗するかも」「いやいや、大丈夫ですよ」という、場の安心感を確認しあう笑いですね。

  • 特に笑うべき内容でもないのに、「I think…, haha…, we need to…, haha…」と笑いを挟みながら話す

これは変な間があいて場の空気がおかしくならないように入れるフィラーの一種ですね。「えー」とか「あー」と同じです。

ちなみに、これらのケースに共通するのは「場」という要素です。場に慣れておらず不安である、場の安心感を確認しあう、場の空気を保つためにフィラーを入れる。
つまり、会議の場における日本人の笑いは「場を整える」といった意味を含むため、素直に「感情」として笑う外国人(と一括りにするのは良くないのですが)にはちょっとわかりにくいのです。

内向きモードと外向きモードを切り替える

さて話を戻して、件の部長さんの場合、普段の態度と外国人に見せる態度が大きく違うので、「内向き」と「外向き」を切り替える意識がかなり強いのでしょう。

しかしこのような切り替えは、多かれ少なかれ誰もが自然に行っていることで、私も日本人だけの会議では普通に愛想笑いをします。つまり、切り替えをすること自体が問題ということではなく、切り替えが中途半端になることが問題なのです。

例えば、曖昧な笑顔は不要と知りつつ、ついつい出してしまうこと。
笑顔を「感情」ととらえる外国人参加者は「この人は議論の内容に満足している」と受け止める可能性があります。
にもかかわらず議論の内容に反対すれば、「この人はあまり信用できない」という警戒感を与えかねません。

あるいは、「My English is so bad」という自己紹介に日本人だけが笑ったような、日本人だけがわかる感覚を持ち込むこと。
当然ながら外国人メンバーは疎外感を感じます。
実際に私は、ある日本企業のイギリス子会社に勤務していたイギリス人が、日本で働くことを希望して日本に異動してきたのに、疎外感に失望して半年ほどで帰国してしまったケースを知っています。

このように、その場に一人でも外国人がいるのであれば、日本人としての自分をきっちりと封じ込めて、グローバル人材としての自分に切り替えなくてはいけないのです。

しかも、その場にいる日本人全員が、です。

言うは易し…

さて「内向き」と「外向き」をきちんと使い分ける件、言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいものです。
ではどうするか。

まず、「笑ってしまう自分」を認識することが重要です。
読者の皆さんの中にも、作り笑顔を浮かべてしまう自分に落ち込んだ経験をお持ちの方がいるのではないでしょうか。もちろん私も数えきれないほど経験しています。
しかし、これが出発点なのです。「あー、面倒な会議が終わった」だけの人に比べると、自分に満足していない人のほうが伸びしろが大きいのは当然です。

次に、切り替えのおまじないを作ること。
私の場合、外国人を含む会議に出るときは「今からは『Toru』だ」と心の中で唱えるようにしていました。私の知人は、会議の前に小声で「ヨシッ」と気合を入れて切り替えています。
何が自分に効くかを見つけるまでに一定の試行錯誤が必要ですが、このようなおまじないを持っておくことはお勧めです。

そして、すぐに使えるフレーズを練習しておくこと。
実際の英語の会議では「こういう時ってなんて言えばいいんだっけ?」と考えている間に話が進んでしまうので、クサビを打ち込むためにパッと出るものを用意しておくのです。
何か言いたいときは「Can I jump in?」
相手が親しいメンバーなら「Wait, wait」でもOKです。
聞き取れなかったときは、まず「Sorry」で止めましょう。
なお、練習は実際に声に出すこと。これをしないと本番で使えません。

最後に一点だけ。
上記はすべて対症療法のようなものにすぎず、根本治療は地道な英語(特にリスニング)の勉強を積み重ねることだという点を忘れないでください。
英語に自信がついて「会議についていけている」という感覚が出てくるにつれ、日本人的な笑顔は自然と消えていくものです。

「うまくやる」は重要な能力の一つ

人の笑顔は、人間関係を円滑にする非常に優秀な道具です。しかしグローバルの場では、笑顔の意味は日本人のそれとは違うことがあります。
だからこそ、まずは自分たちの笑いと外国人の笑いの違いを知り、その上で、自分たちのあいまいな笑いを封じて、言葉でお互いの考えを理解する姿勢が重要なのです。

いくらAIが発達しようと相手は人間。
むしろ今まで以上に人間らしさが大きな意味を持つようになるでしょうから、文化理解を通じて海外の人たちと「うまくやる」能力はますます求められるようになるはずです。

本稿が少しでも読者の皆さんのお役に立てば幸いです。

<プロフィール>

江上 徹(えがみ・とおる) 
Leapfrog合同会社 代表社員
公認会計士
大学卒業後、電機メーカー、監査法人、広告代理店でキャリアを積み、2021年に独立起業。Leapfrog合同会社を設立し、代表社員に就任。
「日本人のポテンシャルはとても高い。まだまだ飛躍できる」という固い信念のもと、海外展開している企業あるいは海外展開をもくろむ企業を主なクライアントとして、「普通の日本人」が海外で戦うための必携スキルである「英語・ファイナンス・文化理解」をパッケージ化した人材育成プログラム「Altus Leap」を提供している。
HP:https://altusleap.com/
Mail:contact@altusleap.com
X:https://x.com/imageruto


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