つぶ問5-3(財務諸表論)―引当金・繰延資産、退職給付


【解答】

1.数理計算上の差異は、予測と実績の乖離に加えて予測数値の修正も含まれる。このような差異は発生時に確定したものではないため、直ちに費用処理をすることが財務諸表で退職給付の状況を忠実に表現するとはいえない面がある。そのため、平均残存勤務期間以内で処理する遅延認識が認められている。

2.貸借対照表での遅延認識を認めないIFRSとのコンバージェンスや、特に遅延認識によって貸借対照表に期末の実績額による退職給付の状況が示されず、財務諸表利用者の理解を妨げている面もある。具体的には、実績の退職給付債務よりも年金資産の方が大きいにも関わらず、遅延認識を認めると負債が計上されてしまうことや、その逆も起こり得る。そのため、連結貸借対照表上では遅延認識を認めていない。


【解説】

 退職給付会計における数理計算上の差異の遅延認識の論拠を確認する問題です。遅延認識の背景には、退職給付の費用計上から実際の支給まで長期にわたることや、支給までに差異が有利・不利ともに生じると予想されるため、将来にわたって費用として配分して均すことがあると考えられます。しかし、IFRSとのコンバージェンスや、最新の企業の状況を財務諸表上で表すことも重要です。特に退職給付債務・年金資産の大小関係と、貸借対照表に計上される資産・負債が逆転することが起きれば、財務諸表利用者を惑わすことにもなります。そのため、連結財務諸表では遅延認識をせず、差異をただちにその他の包括利益に計上して連結貸借対照表に実績額を計上する処理がとられています。

 連結会計がそれほど出題されない税理士試験でも理論では問われる可能性があるため、注意が必要です。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
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つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
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