つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務


【解答】
(問1)市場の評価を反映した金額を用いる場合,資産除去債務の市場価格そのものを観察することは,通常困難であるため,資産除去債務の取引市場があるものと仮定して,そこで織り込まれるであろう要因を,将来キャッシュ・フローの見積りに反映することになる。(118字)

(問2)自己の支出見積りを用いる場合,原状回復における過去の実績や,有害物質等に汚染された有形固定資産の処理作業の標準的な見積りなどを基礎とする。ただ,この場合には経営者による主観が介入する可能性があるため,合理的で説明可能な仮定および予測に基づいた見積りが必要となる。(131字)

(問3)資産除去債務は客観的な市場価格が明らかでないことが多いため,市場の評価を反映した場合と自己の支出見積りによる場合とで,実務上両者の金額が大きく相違することは少ない。また,自己の支出見積りが市場が想定する支出額より低い場合に,企業自らの効率性による利益は,有形固定資産の耐用年数にわたって反映させていくべきであると考えられる。これらの理由から,資産除去基準では,自己の支出見積りによる方法を採用している。(200字)

【解説】
資産除去債務の測定をめぐる論点から,将来キャッシュ・フローの見積りに関する問題を出題しました。資産除去債務については,その計上時の会計処理をめぐる論点(両建処理か引当金処理か)も典型論点ですので,押さえておくようにしましょう。

(問1)将来キャッシュ・フローの見積りに市場の評価を反映する考え方は,資産除去債務の市場価格を算定しようとする立場です。しかし,企業が保有する有形固定資産は,その企業のみが使用し,これを除去します。したがって,これによって生じる資産除去債務そのものを取引するような市場は通常存在しませんし,市場参加者の平均的な期待を反映した価格である市場価格もありません。そこで,市場の存在を仮定した見積もりを行うことになります。

(問2)上記に対して,将来キャッシュ・フローに自己の支出見積りを用いる考え方は,有形固定資産を除去する企業自身の経験などを踏まえた,企業に固有の測定値として資産除去債務を測定しようとする立場です。有形固定資産を使用する企業にとっての負債の価値をより適切に反映できる反面,見積値に経営者の主観が入り込む余地が大きいため,客観性を確保する観点から合理的で説明可能な仮定および予測に基づいた見積りが求められます。このような将来キャッシュ・フローの見積り方法が,固定資産の減損会計でも行われていたことを思い出しましょう(こちらは収入の見積りですが,同様の考え方に基づくものです)。

(問3)複数の会計処理やその考え方を示したうえで,結果的に会計基準がいずれの方法を採用したのか,というのは試験でも問われやすい問題構成になります(前半を省略して,(問3)で問うた部分のみを出題する,というやり方もあります)。解答の内容をまとめると,基準の考え方は次の2点に整理できます。

①(問1)と(問2)で,金額は大きく異ならないと考えている。
②「企業自身が市場平均よりも上手く(安価に)資産除去を行える」場合には,(問1)よりも(問2)の方が資産除去債務の測定値が小さく計算されることになるため,同じだけ借方の有形固定資産の帳簿価額も小さくなる。市場平均より企業自らの効率性が高いという状況は,耐用年数にわたる減価償却費が小さくなる=毎期の利益が大きくなることを通じて,反映していくべきであると考えている。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
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