【編集部から】
公認会計士試験合格後のキャリアとして真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。中には、会計士の高い専門性から、ビジネス社会全体に活躍の場を広げ、「組織内会計士」というキャリアを選択する人も多くいます。
そこで、この対談企画では、ライフプランナーであり公認会計士の菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真右)をコーディネータとし、公認会計士資格と様々なキャリアとの親和性や多様性などについて語っていただきます。
第5回のゲストは、暗号資産取引サービスを提供するコインチェック株式会社常務執行役員CFO 兼 CROの竹ケ原圭吾氏(写真左)です。
<全3回>
第1回:暗号資産業界で活躍する公認会計士
第2回:公認会計士を目指したきっかけ
最終回:公認会計士×CFOの魅力と強み
受験勉強は完全「夜型」
菊池 前回の第1回では、コインチェックCFO兼CROとしての役割や暗号資産業界における専門家の役割など、産業の変化を感じるダイナミックなお話をお聞きしました。
今回は、竹ケ原さんが今に至る経緯を教えていただきたいと思います。
まず、会計士を目指したきっかけは何でしょうか。
竹ケ原 大学進学が決まって、少し地に足をつけて簿記を勉強しようと思い、大学1年生のうちに簿記3級から始めて2級にステップアップしたあたりで「簿記って面白いな」と思うようになりました。
同じ東北出身の菊池さんならお分かりになると思いますが、地元に大企業が多くないので、「会社がどういう活動をして、お金がどう動くのか」ということにあまり馴染みがなかったのです。
でも、簿記を勉強すると、その一連の流れがつかめて面白いなと思ったんですね。そこで、「経営」に興味が沸いて、中小企業診断士の資格取得を目指そうと思い、専門学校へ相談しに行くと「公認会計士がオススメだよ」と言われたのです。
菊池 その専門学校の先生はナイスアドバイスでしたね~! そこで、株式会社Photosynthの村上航一さん(本企画2回目ゲスト)と受験仲間になったのでしょうか。
竹ケ原 はい。でも、彼は朝型で私は夜型なので、勉強時間は真逆でした。私が夜10時頃から大学近くのマクドナルドで勉強し始めて早朝4時頃に帰るときに、村上君がお店に来てスイッチングすることは何回かありましたよ。
菊池 受験勉強はどうでしたか?
竹ケ原 楽しかったです。簿記を深く勉強することは当然ですが、会社法や経営学もありますし、今の仕事でいえば損益分岐点や有価証券の評価なども勉強できたので、公認会計士試験はよくできていますよね。
菊池さんは、今のお仕事で意外によく使う知識ってありますか。
菊池 会計や税金の知識はもちろん役立っているのですが、意外と「会社法」も勉強できて良かったなと思っています。会社経営者のお客様にとっては自社株の評価や議決権などは非常に重要な論点です。
公認会計士試験の勉強で立法趣旨も踏まえて網羅的に知識を習得しているので、ストーリーをお伝えしやすいですし、新しい論点があってもとっかかりを掴みやすいですよね。本当に、よくできてる試験だと思います。
竹ケ原 こういう趣旨で法律があるんだなという、最低限のリーガルマインドがあるので、利害関係にも敏感になって、「これは何か引っかかりそうだな」と勘が働いて法律にあたることもあります。
経営層に近いところで働きたい!
菊池 ところで、竹ケ原さんが監査法人トーマツに入所したのが2012年。監査法人選びにおける決め手は何だったのでしょうか。
竹ケ原 私の場合、大企業のクライアントよりも、勢いのある元気なベンチャー企業を相手に、経営層に近いところで働きたいと思ったので、インダストリーでIPOセクションを希望していました。
実際に働いてみて、さらによかったことは、IPO部署のメンバーが皆生き生きとして、活気がある環境だったことです。仕事はハードなこともありましたが、いろいろな会社を見ることができ、新しい産業やビジネスモデル、サービスなどの話を聞くのは大好きでした。私自身、活きのいい若手として多くの経験を積めたことはよかったですね。
菊池 確かに、人によっては仕事がどんどん振ってくる環境を嫌がる人もいるかもしれませんが、そういう環境だからこそトラブル対応力や意思決定力が鍛えられることもありますよね。
竹ケ原 監査法人では、ある意味、監査というサービスを提供しているので、そのサービス提供において、損益管理や報酬交渉、アサインメントの管理やメンバーのモチベーション管理などを経験することで、ビジネスパーソンとしてタフになったと思います。
確かにストレスを感じますが、こういう時から小さな失敗を恐れずに、メンタルやスキルを鍛え上げたほうが将来にはつながると思います。
菊池 監査法人にはもともと何年程度在籍しようと考えていたのでしょうか?
竹ケ原 前職のIPO部署での仕事は好きだったので、特には決めていませんでした。ただ、その時々のご縁があるので、いずれ事業会社で働きたくなるだろうというのは漠然と考えていました。
ベンチャー企業は常に人材が不足しているので、監査人ながら、何らか事業の役に立ちたいという葛藤は常にありました。
前職ではコインチェックを担当していたので会社の雰囲気も把握していて、業務が終了してしばらく後に当時のCFOから「竹ケ原さんうちどうですか?」と聞かれたんですね。5秒くらい悩んだのですが、「行きます」と答えました。
菊池 それまでも、さまざまな会社を真剣に見てきたからこそ、5秒で意思決定ができたということでしょうね。
竹ケ原 そうですね。特にハード・シングス(困難)を通して会社の誠実さを見ていたことも大きいです。人も会社も危機的な状況では真価が問われます。
監査法人では、どの案件も多くの人と良い仕事ができていたので、仕事は好きでしたが、未練はありませんでした。狭い業界ですから、監査法人で培った縁も続くだろうとも思っていましたし、実際に今も前職からの人間関係は続いています。
監査法人に何年いるべきか問題!?
菊池 若手会計士の中には、「監査法人に何年いるべきか」という点でキャリアに悩む人も多いようです。竹ケ原さんはどうお考えでしょうか。
竹ケ原 形式的にお答えすると、やはりマネージャーロールの経験はあったほうがいいと思います。というのも、どの方向に行くにせよ、チームをマネジメントする可能性は高いからです。
あたかも独立した会計事務所のようにクライアントと報酬交渉したり、アサインメントしたりできる環境を、早い段階で提供してくれるのは、監査法人だと思います。
これは中にいるとなかなか気づかないことなので、ぜひ「外の人」と話すことをおすすめします。悩んだら、外に話を聞いてみたり、長期休暇を取って旅行に行ってみたりして、リセットするといいのではないでしょうか。
菊池 仰る通りで、足を使った情報収集はやりすぎても損はありません。
竹ケ原 悩む人はだいたい「足」を使っていないことが多いですね。
若手のうちだからこそ業界内の先輩たちに甘えられますし、いい意味でお節介な先輩会計士がたくさんいて、あれこれ教えてくれます。思い切って、「お話を聞かせてください!ご馳走になってもいいですか?」というほどに図々しくても構わないと私は思いますよ。
菊池 特に実績がなくても利害関係を無視して諸先輩方にキャリアの相談ができるのも若手の特権ですからね。自分は先輩に何のメリットも提供できないし…と及び腰になるのではなく、どんどん行動して気づきを得て、そのとき受けた恩は次の世代に返せばいいと思います。
(つづく)
【対談者のプロフィール】
◆竹ケ原圭吾(たけがはら・けいご)
コインチェック株式会社常務執行役員CFO 兼 CRO
2012年、大学在学中に公認会計士試験合格。大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。幅広い業種の監査及び上場支援業務、財務DD等の関連業務に従事。その後、2018年11月にコインチェック株式会社入社。経理財務部門の責任者として、暗号資産交換業という新たな事業分野における会計の要件定義や内部統制構築等に加え、財務会計・管理会計・税務業務に従事する。その他、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)において、税制検討部会の副部会長を務め、暗号資産に関連する自主規制の各種ルールメイキングにも関与する。2020年9月に執行役員、2022年6月に常務執行役員に就任。2023年4月より常務執行役員CFO(最高財務責任者)兼CRO(最高リスク管理責任者)。
◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)
プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。
MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。
個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi
【バックナンバー】
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