教えて!てりたま先生「会計士監査」のちょっといい話 Episode1 ― 監査ってどんな仕事?


てりたま

【編集部より
公認会計士にとって、「監査」はメインストリームの仕事。ですが、会計士受験生も「監査論」でその考え方は学んでいるものの、具体的に内容をイメージできないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、「ぜひその魅力を知っていただきたい!」ということから、本連載では、大手監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして務められ、またnoteで監査に関する有益な情報を多数発信されている、まさに監査のプロフェッショナルである「てりたま先生」に、監査の仕事が具体的にイメージでき、またその魅力が感じられるさまざまな内容をご執筆いただきます(全4回)。
てりたま先生ご自身のご経験等を踏まえた内容は、受験生のみならず、現在監査の現場で格闘されている方々にも有益です。
それでは、てりたま劇場、スタート!
<全4回>
Episode0 てりたま青年、会計士になる!
Episode1 監査ってどんな仕事?
Episode2 海外で働くということ
Episode3 不正が発覚!どう対応する?

皆さんは、「監査」に対してどのようなイメージを持っていますか?
私が会計士二次試験(今の論文式試験)に向けて勉強していたときは、試験科目の中で監査論が一番とらえどころのない科目でした。
当時は監査基準の体系の中に「通常実施すべき監査手続」というものがあり、まったくイメージがわかないまま「有形固定資産の監査手続」などを覚えていました。
まったく無味乾燥な暗記科目です。監査をやるための資格なのに、不思議ですね。

そこで、ほとんどの皆さんが合格されたらメインの仕事となる監査の中身について、ご紹介します。

「内緒でちょっと教えてもらえますか?」

会計士試験に合格して監査法人に入社すると、通常は一週間単位で担当するクライアントが決められます。
クライアントごとに監査チームが編成され、一年生のあなたは一番の若手になります。

監査チームの上の人、パートナーやマネジャーと言われる人たちは、複数のクライアントを掛け持ちしているので、常に特定の監査チームと一緒に行動しているわけではありません。
そこで、若手であるスタッフ、その上のシニアスタッフがクライアントに往査したり、事務所で仕事したり、リモートで連絡を取り合いながら監査を進めます。

シニアスタッフやスタッフも日によっては別のクライアントに配属されたり、同じクライアントでも別の拠点に往査したりします。
ときには一年生のあなたでもクライアントで一人ぼっちになることがあります。

一年生の最初はクライアントに資料を依頼したり、質問したりとこちらからお願いすることばかりです。
よく顔を合わせていると、次第にクライアントと親しくなり、世間話をしたり、会計に関する質問を受けたりすることもあります。

私もそんな一年生のときのこと。
一人で往査していると、経理課長さんから「ちょっと教えてもらえませんか?」と質問を受けました。

その会社は上場を目指していて、初めて監査を受ける年度でした。
それまで未払利息を計上したことがなく、マネジャーから指導を受けて計算しているがよく分からないので教えてほしい、とのことでした。

未払利息なら、簿記で何度も問題を解いているので難しくありません。
課長さんが作った計算シートを見ながら教えてあげると、とても喜んでいただきました。
そして最後に「○○先生(マネジャー)に聞こえると、『ちゃんと教えたのに』と怒られるかもしれないから、内緒にしておいてね」と言いつつ、会議室を立ち去られました。

マネジャーに聞いても怒りはしなかったと思いますが、それよりも私に質問していただいたことで、信頼されている、と感じてとてもうれしかったことを覚えています。

「この開始仕訳、おかしくないですか?」

監査チームのメンバーは毎年固定する方が、クライアントやマネジャーは説明が省け、本人も慣れてくるので望ましいと言えます。
ところが2年目、3年目になると、メンバーの昇格や退職、配置転換で人が入れ替わり、そのクライアントに一番詳しい人になることもあります。

あるクライアントの監査チームで、私以外ほぼ全員入れ替わるということがありました。
その年に初めて連結財務諸表を作成することになり、監査チームのメンバーが集まって連結の会計処理を議論したときのこと。

その会議で一番下っ端だったこともあって、最初は黙って聞いていたのですが、先輩たちが議論している連結仕訳(開始仕訳)が間違っているように思えてきました。
子会社が過去に関連会社になり、子会社になり、100%子会社になった経緯を正確に反映していない処理になっていたのです。
先輩たちは過去のことはあまり知らないので、そのまま議論が進んでいます。

そこで、「すいません、この開始仕訳、ちょっとおかしいと思うんですけど…」と声を上げ、100%子会社になるまでの流れを説明しました。

会計士試験で勉強することは、合格後さまざまな局面で役立ちます。
その中でも、連結と原価計算は勉強したそのままが実務に直結します。
なぜだか分かりますか?

売上や在庫といった会計処理はクライアントのビジネスの理解がないと検討できません。
また、借入金や為替取引も、金融取引の知識が必要です。このように、クライアントの外部との取引については、さまざまな商慣行や取引のルールを知らないと監査ができません。

ところが、連結は個別財務諸表を作成した後の会計処理で、開始仕訳も消去仕訳も会社内部の仕訳です。
原価計算も、すでに計上された費用を配分する内部の処理です。
どちらも、グループ外部との間の処理ではないので、教科書そのままの知識で考えることができます。
よって、試験レベルの知識がすぐに実務に役立つわけです。

合格後年数が経つと、たまたま担当したクライアントでの実務の経験は蓄積されますが、勉強した基本は忘れてしまっていることもあります。
むしろ勉強したての方が正しく理解していることもあるわけです。

「先生の言うこと、聞いといてよかったわ」

これは私の先輩パートナーの経験談です。
そのパートナーをAさん、としましょう。

Aさんがマネジャーのころ、あるクライアントで固定資産の減損会計が問題になります。
いくつかある事業部の一つが業績低迷し、固定資産の減損を検討しなければならない。
クライアントは、絶対に回復すると信じているし、その事業部にはV字回復を約束させて尻をたたいている中で、減損損失なんて計上するわけにいかない、とかたくなな態度。

Aさんは、クライアントの資料を検討した結果、減損損失を計上するべきとの結論に至ります。
パートナーを巻き込んでクライアントと激論になり、特に経理担当役員と激しく対立します。
延々議論した末、減損することになりました。

時が経ち、Aさんがパートナーになってから、当時の経理担当役員と久しぶりに会う機会がありました。
そのときに言われたのが「あのとき、先生の言うとおり減損しといてよかったわ」とのこと(ちなみに関西の方です)。
結局その事業は鳴かず飛ばず。数年後に大幅縮小を議論した際には、すでに減損していたため大きな損失の計上はなく、社内に異論はなかったそうです。

監査は、クライアントにとって嫌なことも言わないといけない仕事です。
Aさんのようにもめることもあります。
しかし、いつかはクライアントからも感謝していただける仕事だと信じています。

監査法人での33年を振り返ると、何とかここまでやって来られたのは、上司をはじめ監査チームでともに苦労した人たち、所属した監査法人、そしてこの業界に育てられたためだと強く感じます。
次回のEpisode2は海外駐在での仕事についてお話します。

(つづく・7月5日(水)掲載予定)

執筆者紹介≫
てりたま


大手監査法人で33年間監査業務に従事、うち17年はパートナーとしてグローバル企業の監査責任者を歴任。2022年11月より個人開業し、noteやTwitterなどで会計士や経理の方々に向けた発信を中心に活動している。
Note:https://note.com/teritamadozo
Twitter:@teritamadozo


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