本試験、合格発表、「その先」のこと―受験勉強を通じて身についた力


大杉 泉(公認会計士)

【編集部より】
8月には税理士試験、公認会計士論文式試験が実施され、11月には両試験とも合格発表があります。税理士受験生の場合は次の科目の受験勉強を始めている人もいますが、いずれにせよ合否のわからない状況を数か月の間過ごすことになります。 本試験や合格発表、「その先」を見据えて、今何を考えておくとよいでしょうか。経験豊富な実務家の方々からメッセージをお寄せいただきました。

本試験、お疲れ様でした。
「悔いのない受験ができた」という方もいれば、さまざまな事情から、必ずしも万全の環境や状態で試験に臨めなかったという方もいらっしゃるのではないかと思います。

まずお伝えしたいのは、この1年、少しでも勉強を続けてきたということ自体が素晴らしいということです。

資格試験は、文字どおり「あることをするための資格を得る」ための試験ですので、どうしても「合格したか、不合格だったか」という結果だけに目が向きがちです。しかし、長い受験生活を通じて得られるものは、資格だけではないはずです。

合格発表はもう少し先ですが、結果にかかわらず、皆さんが受験勉強を通じて既に得たものはたくさんあるはずです。試験後、少し時間にも余裕がある今だからこそ、「受験勉強を通じて身についた力」について、一度振り返ってみたいと思います。

継続して勉強する力

皆さんが既に身につけている最も大きな力の一つが、「継続して勉強する力」です。

税理士試験や公認会計士試験は、数日や数週間勉強しただけで合格できる試験ではありません。仕事や学校、家事育児など、それぞれの日常生活を送りながら、何ヵ月、場合によっては何年にもわたって勉強を続ける必要があります。

今日は疲れている、仕事が忙しい、遊びに行きたい、なんて思った日にも、テキストを開き、問題を解くという積み重ねをしてきた経験は、それ自体が大きな財産です。

そして、資格を取得した後も、税制や会計基準、監査制度などは変わり続けます。試験に合格したら勉強が終わるのではなく、専門家としてより一層勉強を続けることが求められます。

その意味では、受験期間中に身につけた「必要なことを、長期間にわたって学び続ける力」は、合格後の実務でもそのまま役に立つ力です。

難しいことを理解する力

もう一つは、「難しいことを理解する力」です。

受験勉強を始めた頃のことを思い出してみてください。最初にテキストを読んだときには、何を言っているのかさっぱり分からなかった論点もあったのではないでしょうか。

それでも、講義を聞き、テキストを読み、問題を解き、間違えたところをもう一度確認するということを繰り返すうちに、いつの間にか当たり前のように理解できるようになったことがたくさんあるはずです。

これは単に「会計や税務の知識が増えた」というだけではなく、知らないことに出会ったときに、資料を読み、考え、分からなければ調べ、それでも分からなければ別の角度から考え、自分で理解できるところまで持っていく、という方法を身につけたということです。

実務に出れば、講師の先生はいませんし、初めて見る取引や制度、判断に迷う問題にも数多く出会います。そんなとき、受験勉強で培った「分からないものを、分かるところまで持っていく力」は大きな武器になります。

自分で時間をつくる力

さらに、受験生活を通じて身についているのが「自分で時間をつくる力」です。

一日が24時間なのは、受験生でもそうでない人でも同じです。その中で勉強時間を確保するために、朝早く起きたり、通勤時間を使ったり、昼休みに問題を解いたり、休日の予定を調整したりした方も多いでしょう。

「時間ができたらやる」のではなく、「やるべきことのために時間を確保する」。これは専門家としても非常に重要な能力です。

忙しい中でも優先順位を考え、限られた時間を何に使うのかを決めるという訓練を、皆さんは受験生活を通じて何度も繰り返してきています。

思うようにいかなくても、また取り組む力

そして、個人的にはこれも非常に大切な力だと思います。受験勉強は、思うようにいかないことの連続です。何度解いても間違える問題があったり、模試の成績が振るわなかったり、予定どおり勉強できない時期があったり。それでも、その都度またテキストを開き、問題を解いてきたのではないでしょうか。

専門家としての業務でも、思ったような結果が出ないことや、自分の力不足を感じることがあります。そんなときに、「では、次に何をすればよいか」と考えてもう一度取り組めることは、とても大切です。

受験勉強は、知識だけでなく、うまくいかない状況からもう一度取り組む経験も与えてくれています。

合格発表までに、「その先」も考えてみる

試験後の今だからこそ、少し考えてみてほしいことがあります。

それは、「合格したら何をしたいのか」「どのような専門家になりたいか」ということです。

受験中は、どうしても「合格すること」が最大の目標になります。しかし、資格は取得した瞬間に価値が決まるものではないですし、持っているだけでお金が入ってくるものでもありません。その資格や知識を、その後どこで、どのように使うかによって、キャリアは大きく変わります。

公認会計士であれば監査法人だけでなく、事業会社、コンサルティング、独立、会社役員などさまざまな道があります。税理士も、税理士法人や会計事務所、事業会社、独立開業など働き方は一つではありません。さらに、何を専門にするのか、どのような顧客に関わるのかによっても、5年後、10年後の姿は大きく違ってきます。

ですから、「資格を取ったらどこに就職するか」だけでなく、「この資格を使って、どんな仕事をしてみたいか」「どんな専門性を持ちたいか」「自分が○歳になったときに、どんな働き方をしていたいか」まで、少し視野を広げてみてください。

今すぐ答えが出なくても構いません。自分の大事にしている価値観を振り返ってみたり、これまで関わったことのない分野の先輩に話を聞きに行ってみたりするのも良いかもしれません。

もし不合格だったとしても、選択肢は「もう一年受験する」だけではない

もう一つ、どうしても考えなければならないのが、「もし今回合格していなかったらどうするか」です。

もちろん来年また受験するのも一つの選択肢ですが、勉強を続けながら会計・税務に関係する仕事に就く、いったん実務経験を積んでからもう一度挑戦する、あるいは受験勉強で身につけた知識を活かして別のキャリアへ進む、という選択肢もあります。

「合格ならこちら、不合格ならこちら」という二つの道しかないわけではありません。自分がここまで積み上げてきたものを客観的に見つめて、次はどこにつなげるのかが大切です。

結果がどうであっても、勉強した事実はなくならない

もちろん、資格試験である以上、合格することは大切です。皆さんがこれまで努力してきたからこそ、良い結果になってほしいと思います。

一方で、万が一、今回の結果が望んでいたものではなかったとしても、これまで勉強したものが「ゼロ」になるわけではありません。

覚えた知識も、勉強を続けた経験も、時間の使い方も、難しいことを理解する方法も、皆さんの中に残っています。

そして再挑戦するのであれば、それらは次の受験の土台になります。別の道に進むことを選んだとしても、長期間、一つの難しい目標に向かって努力した経験は、その後の仕事や人生のさまざまな場面で活きてくるはずです。

試験が終わった今、「この受験生活を通じて、自分には何が身についたのだろう」と、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

一年前の自分にはできなかったことや分からなかったことが、今の自分にはできるようになっているはずです。それは、合格発表を待つまでもなく、皆さんが既に手にしている成果ではないでしょうか。

<プロフィール>

大杉 泉(おおすぎ・いずみ)

1985年、神奈川県横浜市生まれ。
横浜市立横浜商業高校(Y校)卒業後、最短で資格を取得するべく、大学には通わず大原学園に通う。高卒のまま公認会計士試験に合格。あずさ監査法人(現 有限責任 あずさ監査法人)横浜事務所へ入所し、主に東証一部上場の鉄道会社やゲームメーカーなどの会計監査や内部統制監査を経験。
現在では、社外監査等委員・監査役、社会福祉法人監事を務めているほか、各種協会・機関での執筆活動や講演、日本公認会計士協会 社外役員会計士協議会委員、組織内会計士協議会組織内・社外役員会計士調査研究専門委員会専門委員、同神奈川県会幹事としても活動している。また、2017年より、日本初の監査役のためのニュースブログ「監査役ニュース」を立ち上げ、監査役の業務上有用なニュースを厳選した情報提供も行なっている。
著書に、『ベンチャー企業・中小企業のための 監査役・監査等委員の教科書〔第2版〕』(税務経理協会)、『はじめてのJ-SOX・内部監査・監査役等監査Q&A』(共著、中央経済社)がある。

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