本試験、合格発表、「その先」のこと―輝ける未来への一歩


玉井照久(公認会計士)

【編集部より】
8月には税理士試験、公認会計士論文式試験が実施され、11月には両試験とも合格発表があります。税理士受験生の場合は次の科目の受験勉強を始めている人もいますが、いずれにせよ合否のわからない状況を数か月の間過ごすことになります。 本試験や合格発表、「その先」を見据えて、今何を考えておくとよいでしょうか。経験豊富な実務家の方々からメッセージをお寄せいただきました。

合格を知った瞬間

早朝に電話が鳴る。

「はい、玉井です。」

そう言って出ると、電話の向こうから「玉井照久さんですか? 合格されていますよ!」

それが、私が公認会計士試験第二次試験の合格(今で言う論文式試験の合格)を知った瞬間でした。37年前のことです。

当時は財務局に合格者のリストが張り出され、それを見に行かないと合否が分かりませんでした。各監査法人のリクルーターが、そのころは珍しかった携帯電話を持って財務局に行き、合格者の受験番号と名前を読み上げ、事務所で待機しているリクルーターがそれを控えて、手分けして合格者に電話していました。

それから時は経ち、試験制度も合格発表方法も大きく変わりました。しかし、視界がモノクロからカラーに変わるような合格の瞬間のときめきは、今も変わらないのではないでしょうか。なお、私は公認会計士ですので以下ではその立場からお話ししますが、資格の信用や学び続ける価値など、多くは税理士にも共通すると思います。

公認会計士になれてよかった!

合格を目指して、長く苦しい受験生活を送ってきたわけですから、公認会計士になれてよかったと感じるのは当然です。実際に監査法人に入って監査業務をスタートすると、これまで勉強してきたことが実務に直結することに大きな喜びを感じました。

さらに数年間経験を積むと、専門学校のパンフレットに書いてあったことが、本当だったと分かります。

  • たくさんの会社の内部事情を見ることができる
  • 監査や会計だけでなく、プロジェクトマネジメントやコミュニケーションなど、仕事の基本を身につけることができる
  • 会計アドバイザリー業務、税務、M&A関連業務、不正対応業務、コンサルティング、事業会社の経理や経営企画、独立、起業など、進路の選択肢が豊富

ここまでは、皆さんもよく聞かれていると思います。しかし、30年以上監査業務にどっぷりと浸かっていた人の話を聞く機会はあまりないかもしれません。私は4年前に退職するまで大手監査法人に33年勤務し、うち17年はパートナーとして監査責任者も務めましたが、今でも公認会計士になってよかったとつくづく感じます。そんな話をご紹介します。

30年以上経験して分かる、公認会計士になってよかったこと

社会的な意義が明確な仕事

財務諸表を適正と認め、パートナーとして監査報告書にサインするのは、とても重いことです。最初にサインするときには、これで負うことになる責任を思うと手が震えました。

しかし、監査は企業の新規上場や上場後の財務報告を支える重要なインフラです。非上場企業でも、監査を受けた財務諸表が銀行からの資金調達などに利用されることがあります。

私が公認会計士試験に合格してからの37年間は、監査厳格化の歴史でした。大型の企業不祥事などがある度に監査手続が強化され、外部からの検査も受けるようになりました。37年前の監査法人は知る人ぞ知る存在でしたが、今では頻繁にニュースに登場するようになり、不正を見つけられないと「何をしていたんだ!」とお叱りをいただくようにもなりました。

監査がどんどん大変になってきたことは確かですが、監査業界に対する声は一貫して「もっとしっかり監査をしてくれ」という社会からの期待です。ニーズがなくなってしまう仕事もある中で、これだけ強く求められ続けているのは幸せなことだと思います。

ずっと成長し続けられる仕事

公認会計士や税理士を含む士業には、「ここまで到達すれば大丈夫」というゴールはありません。会計や監査の基準は変更され、法令や判例も移り変わります。士業として第一線で活躍するためには、知識をアップデートする不断の努力が必要です。

本試験を終えられたばかりの皆さんや来年に向けて勉強しておられる皆さんにとっては、「合格後も勉強なのか……」と気が重いかもしれませんね? ただ、これはいつまでも成長するのびしろがある、ということでもあります。努力は必要ですが、努力が報われる仕事であるとも言えます。

私は今は監査法人を離れ、監査業務には関与していませんが、監査や会計の最新情報をnoteで発信したり、監査法人のアドバイザーを務めたりするために勉強は続けています。SNSやオフラインで若い公認会計士たちと議論することは、とても刺激的だと感じています。

資格があることによる信用

私が4年前に監査法人を退職し、個人開業したときには、仕事は一つもありませんでした。正確には、すぐにXやnoteでの発信をはじめたのですが、収入にはつながりません。実質的に無職だったわけですが、「玉井公認会計士事務所 代表」という肩書きを名乗ることができました。

もちろん、資格がなくても「玉井〇〇研究所」などと名乗ることはできますし、一人で会社を設立して社長になることも可能です。ただ、その場合はその看板の下で何をやっているかが問われます。これに対し、「公認会計士の玉井です。玉井公認会計士事務所の代表をしています」と自己紹介すると、特に士業以外の方には、詳しい事業内容を説明しなくても納得していただけるようです。

また、監査法人の元同僚や部下の誰に聞いても、独立後に食いっぱぐれている公認会計士は周りにいない、と言っています。おおっぴらに言わないだけで苦労している人もいるかもしれませんが、独立後成功している可能性はかなり高いと考えられます。これも、資格があることによる信用によって後押しされている影響が大いにありそうです。

もし不合格になったら……

これまで「合格したら」という話ばかりしてきましたが、今の段階では不合格だった場合のことを心配されている方も多いですよね。合否にかかわらず今回が最後、と決めておられる方もいらっしゃるかもしれません。

世の中には、「公認会計士や税理士を目指していましたが、途中で別の道を選びました」という方も大勢いらっしゃいます。難関試験ですから、そうした選択をすることは決して珍しいことではありません。

そんな方々も、事業会社の経理など、さまざまな場所で活躍されています。管理職となり、部下の中に公認会計士がいることも普通です。私としても、かつて勉強されていたことで親近感を抱くことはあっても、ネガティブな感情を持つことはありません。合格発表のタイミングでは明暗を分けたかもしれませんが、そこでノーサイド。以後は、進路は違っても優劣などないのです。

世の中には、会計人材は不足しています。採用に苦労している経理部門はたくさんあります。AIによって仕事の内容は変化するでしょうが、皆さんは指示どおりに作業する側ではなく、会計スキルを背景にAIを使いこなす側に回れる可能性が高いと思います。

また、難しい資格試験に挑んだ経験も財産です。試験勉強に本気で取り組む過程で、合格レベルを知り、答練によって自分の弱点を知り、それを克服する計画を立てて、根気強く計画を実行する。また何度も答練を受け、計画を調整する。このパターンはあらゆる仕事に生かせますし、ビジネスの基本でもあります。

資格による後押しは得られなかったとしても、試験に挑戦した過程で身につけた知識や、目標から逆算して努力を続ける力まで失われるわけではありません。それらは、次の仕事や新しい挑戦でも必ず生きてくるはずです。

おわりに

監査法人の若手スタッフのために『会計士監査 現場の教科書』(中央経済社)を出版しています。合格発表まで不安で仕方なかったり、試験勉強中にモチベーションが続かなかったりしたときには、買わなくてもよいので書店で手に取って、ページをめくってみてください。試験より先の世界が見えると、乗り越えるべき合格の壁が少し低く感じます。

人生は山あり谷あり。合格は数ある山の一つでしかなく、不合格は数ある谷の一つでしかありません。合格しても慢心せず、不合格でも悲観しすぎず、合格発表からしばらくは思いっきりはしゃいだり泣いたりしてもよいですが、その後は輝ける未来に向けて一歩を踏み出してください。

<執筆者紹介>

玉井照久

玉井公認会計士事務所代表・公認会計士
1989年に公認会計士試験第二次試験に合格し、サンワ・等松青木監査法人(現・有限責任監査法人トーマツ)にて勤務開始。途中4年間の米国駐在をはさみ、一貫してグローバル企業の監査を担当。2005年パートナー就任。2022年に退職、個人開業し「てりたま」としてXやnoteにて監査をポジティブに語るとともに、監査法人のアドバイザーを務める。著書に『会計士監査 現場の教科書』(中央経済社、2024年)。関西学院大学経済学部卒。

<オススメ書籍>

会計士監査 現場の教科書

関連記事

ページ上部へ戻る