【編集部から】
公認会計士試験合格後のキャリアとして真っ先に思いつくのは、監査法人への入所でしょう。中には、会計士の高い専門性から、ビジネス社会全体に活躍の場を広げ、「組織内会計士」というキャリアを選択する人も多くいます。
そこで、この対談企画では、ライフプランナーであり公認会計士の菊池諒介先生(プルデンシャル生命保険株式会社:写真右)をコーディネータとし、公認会計士資格と様々なキャリアとの親和性や多様性などについて語っていただきます。
第5回のゲストは、暗号資産取引サービスを提供するコインチェック株式会社常務執行役員CFO 兼 CROの竹ケ原圭吾氏(写真左)です。
<全3回>
第1回:暗号資産業界で活躍する公認会計士
第2回:公認会計士を目指したきっかけ
最終回:公認会計士×CFOの魅力と強み
公認会計士×CFOの魅力と強み
菊池 第1回で暗号資産業界特有のお話をお聞きしましたが、もう少し広い意味では公認会計士がCFOを務める魅力や強みはどういうところにあるのでしょうか。
竹ケ原 企業のステージによってCFOの役割はさまざまで、創業当初の企業であれば営業も広報も人事も担う何でも屋です。むしろ数字ばかり見ていると会社が潰れてしまいます。
あるいは、上場準備に入った企業であれば経営管理部長としての役目を果たす要素が強く、証券会社や監査法人とのコミュニケーションが求められます。
さらに、上場後であれば資本市場と向き合い、IRの要素が強くなるでしょう。
自分自身がどの方向のキャリアに進むのかは、さまざまなタイプに派生しますが、お金を切り口とした部分で責任を持つ点は共通しているのではないでしょうか。さらにいえば、お金に関する会社のトラブルや困り事があれば、最終責任をもつ役割です。会社のトラブルシューターであり、時には社長に「ノー」を言う役割なのだろうと思います。
菊池 そういう意味では、監査の仕事はダメなものはダメと伝えなければいけない仕事ですからね。
竹ケ原 そうなんですよね。監査の経験はそこがすごくいい経験になりました。「go」か「no-go」かをスパッと決められる胆力と思慮深さが鍛えられたと思います。
菊池 確かに、公認会計士は試験勉強や合格後に通う補習所時代から、全体的に「大前提として悪いことをしてはいけないよね」という価値観のコミュニティなのかもしれませんね。
竹ケ原 そういう価値観って企業文化としてもすごく大事です。以前、人事担当だった時にコインチェックの「カルチャーブック」を作ったのですが、特に金融業という特性からか、“正しい行動が大きな事業を作る”という一線を引くことが、CFOとしての役割としてもあるのではないかと思っています。
その選択はリスクか、デンジャーか
菊池 そういった特性を踏まえて、公認会計士がCFOに就くことがマッチするのはどのような業界だと思われますか?
竹ケ原 そうですね。結局のところ会社や社長との相性が一番大きいといえますが、よりパブリックに近いところ、つまり、ステークホルダーが多く利害関係の調整が必要なジャンルがよりマッチすると思います。
逆に、SaaSはファイナンスに強い投資銀行系がマッチするといったことがあるかもしれません。特にアーリーステージのエクイティファイナンスは足下の数字と将来の姿をバランス良く投資家に伝える必要がありますが、公認会計士はその仕事柄、現実に向き合う事が多いため、魅力的に将来を語るということが弱い傾向があると思います。自社のミッションは何で、こういう未来を作りたいということを見せないと、投資家もお金を出そうと思えないので、ここは頑張りたいと思うところですね。
菊池 ビジネスの場でも相手の感情が動かないとなかなか意思決定に繋がらないこともありますからね。会計の仕事だけをしていると希薄になりやすい面もあるかもしれませんが、そういう意識やソフトスキルがある会計士は重宝されるでしょう。コミュニケーション能力や自社の魅力をアピールする力もスキルの1つであり、元々苦手な方でもしっかりと場数をこなしていけば身についてくると思います。
ちなみに公認会計士としてのこれまでの経験が、今の仕事に生きているなと思うところは何でしょうか。
竹ケ原 得たスキルそのものとプロセスそのものに分かれますが、スキルは会計、リーガル、マネジメント、監査で培ったリスクアプローチなどがあります。それらを通して、暗号資産という新たなアセットクラスの実態を見極めて、それを扱う事業でどういうリスクがあって、それをどうコントロールするか、に活かしています。
ただ重要なのはむしろプロセスのほうだと思っていて、例えば公認会計士試験を受験することは、当たるか当たらないかわからないことに何年間も挑戦する胆力が身につきましたし、前職ではハードな局面での意思決定が鍛えられました。突き詰めるとリスクの取り方が上手くなったとも言えます。
菊池 すごく共感します。これは投資でも同じだと思いますが、リスク(不確実性)とデンジャー(危険)は違うんですよね。デンジャーは避けた方がいいけど、どこかでリスクはとらないとリターンはありませんから。
キャリアを通じてリターンを得ようとすれば、相応のリスクを取るべきタイミングが必ずきます。。何者にもなれないリスクをとって公認会計士試験に挑戦したことを考えれば、会計士になってからのリスクはたいしたことないはずです。
竹ケ原 そうですね。リスク(不確実性)は食べ物でいうとカロリーのようなものかも知れません。食べ過ぎれば太って病気にもなりますが、全く食べないと成長できないし、人は生きていけません。適度に良質なリスクを取り挑戦すること。ただ、この国は失われた30年でリスクの取り方を忘れてしまったのではないかと最近ふと思います。大人ほどリスクを避け、ゼロであることを望みますが、それではリターンはありません。
人の人生も同じで、ゼロリスク思考をとりはらって、バラエティに富んだ人生を送りたいですね。
コインチェックは現在、ナスダック上場を目指しているので、英語を使ってIFRSで決算書を作ることもあり、私自身は最近英語を学び始めたばかりなのですが、それもやれば意外となんとかなるなと思っています。
だから、英語は苦手、ITは苦手と避けるのではなく、とにかく動いてみるといいのではないでしょうか。
公認会計士試験では天井まで積み上がるような分量の教材をこなしたおかげで、仕事で膨大な資料を見ても嫌悪感をまったくいだかないですし、散らばっている情報を集約させて、数値に落とし込んだり分析したりすることも厭いません。これは受験勉強のおかげで身についたことなのかもしれませんね。
大事なのは「動く」こと
菊池 少し話題を変えますが、これからのテクノロジーの発展と会計人材についてはどのように考えていますか。
竹ケ原 人間の仕事の仕方そのものは変わってくるだろうと思います。急速に自動化が図られ、その空いた時間をどうするか、次の産業にどう備えるかは人間にしかできません。既にビジネスの現場ではChat GPTの活用方法を巡って競争が行われています。
どのような関わり方をするにせよ、公認会計士であれば、次の未来を創るちょっと不確実なところに身を置きたいと私自身は思っています。
公認会計士としてこれまでに培ったスキルや経験があれば、社会の転換点で、どの産業においても力を発揮していくことができると思っています。
菊池 不確実性の高い世の中をチャンスと捉えていきたいですよね。今日は様々なお話を聞かせてくれて、本当にありがとうございました。最後に、受験生や若手会計士にアドバイスを頂けますか?
竹ケ原 記事を見て何か思っても足を使わなければ意味がないので、ぜひ具体的なアクションを起こしてほしいですね。なので、誰か先輩に声をかけて、ご飯を食べに行って、奢ってもらいましょう!
大事な縁はSNSだけでつながっているのではなく、会うからこそ生まれるものなのだなと思います。私自身はただフットワークが軽かっただけだったかもしれませんが、「人と会って話す」ことは今、最も価値があることだと思います。
ぜひ、微妙に距離があるけど話を聞いてみたかった人に「再来週、ご飯どうですか?」と声をかけてみてください!
(全3回おわり)
【対談者のプロフィール】
◆竹ケ原圭吾(たけがはら・けいご)
コインチェック株式会社常務執行役員CFO 兼 CRO
2012年、大学在学中に公認会計士試験合格。大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。幅広い業種の監査及び上場支援業務、財務DD等の関連業務に従事。その後、2018年11月にコインチェック株式会社入社。経理財務部門の責任者として、暗号資産交換業という新たな事業分野における会計の要件定義や内部統制構築等に加え、財務会計・管理会計・税務業務に従事する。その他、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)において、税制検討部会の副部会長を務め、暗号資産に関連する自主規制の各種ルールメイキングにも関与する。2020年9月に執行役員、2022年6月に常務執行役員に就任。2023年4月より常務執行役員CFO(最高財務責任者)兼CRO(最高リスク管理責任者)。
◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)
プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。
MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。
個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi
【バックナンバー】
ライフプランナー/会計士・菊池諒介、事務所経営者の素顔に迫る
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