会計基準原文学習のススメ:「急がば回れ」の学習法(後編)ー実際に会計基準の原文を読んでみよう

学習法 会計基準 原文

小阪敬志(日本大学法学部・准教授)

【編集部より】
ほかの受験生がどんな勉強をしているか、気になりますよね。日本大学法学部准教授の小阪敬志先生は、自身が公認会計士試験に合格した経験をもとに、会計資格取得を目指す学生に対して、「会計基準の原文に触れるべき」というアドバイスをすることが多いといいます。というのも、会計基準は全文によって1つの体系として成立しているため、全体像をとらえるような理解の仕方も重要とのこと。どのような学習方法なのか、2回にわたって解説してもらいます(前編はこちら)。

1.原文を読み始める前に~「本文」と「根拠」を区別しよう~

後編の今回は、実際に会計基準の原文を利用した学習方法を紹介します。まず前提として、会計基準の基本的な構造を把握しましょう。会計基準には、会計処理規定や表示方法などを実際に規定する部分(以下、「本文」)と、「本文」のような取扱いを採用するに至った理由を説明する部分(以下、「根拠」)があります。

 前回も触れたように、現在我が国の会計基準には、設定主体に応じて2種類の基準が存在しています。すなわち、企業会計審議会が設定した会計基準(以下、審議会基準)と企業会計基準委員会が設定した会計基準(以下、委員会基準)です。

審議会基準と委員会基準では、「本文」と「根拠」の構成に違いがあります。まず審議会基準では、基準本体より前に『〇〇会計基準の設定(または改訂)に関する意見書』という形で「根拠」部分が示され、その後に続けて「本文」部分が注解とともに示されます(「根拠」部分はその配置箇所から、「前文」と呼びます)。これに対して委員会基準では、まず目次が示されます。その中で「会計基準」として「本文」部分が、さらに続けて「結論の背景」として「根拠」部分が示されます。

会計基準の原文は、ただ読み下せばよいというものではなく、「本文」と「根拠」では、読み方も変える必要があります。2つの会計基準を読み進める際も、「本文」と「根拠」の配置の違いに注意しましょう。 なお、審議会基準は漢数字と算用数字(裸数字、括弧書き数字、丸囲み数字)で、規定のカテゴライズが行われているのに対し、委員会基準では、規定のパラグラフごとに「項」番号が振られていることも、違いの1つです。

2.原文の読み方を工夫しよう

(1)「本文」と「根拠」の読み方の違い

「本文」では、規定の詳細な意味合いを意識した読み込みが必要です。例えば、「~しなければならない」のような強制や「原則として」といった原則的取扱いのような表現、「~できる」のような容認規定の違いを把握することは、非常に重要です。

それから、接続詞の使い方にも注意が必要です。例えば、「A又はB」と「AおよびB」や「AかつB」では、AとBの一方なのか双方なのかという範囲の違いがあります。また「ただし」、「なお」といったような、条件を付すような接続詞にも注意が必要です。

これらの点は、会計士試験における財務会計の理論問題だけでなく、近年の税理士試験における財務諸表論にもみられる択一式の問題において、ひっかけのポイントとして使われやすい部分でもありますので、押さえておくことが有効です。

一方「根拠」では、「本文」で示される特定の会計処理や表示方法を採用した理由の理解が最重要です。加えて、「本文」では採用されなかった取扱いや、その根拠が示されていることもあります。「根拠」への理解は、短答式試験などの択一形式より、論述式の問題にて多く問われます。会計士の論文式試験では試験用法令基準集が配布されますが、その中には「根拠」部分がないこともあり、「根拠」部分を問うような出題が多いです。また、税理士試験ではそもそも会計基準等の配布はありませんが、「本文」の取扱いおよびその「根拠」を、セットで問うような問題が見受けられます。

(2)「木」と「森」の双方を見る視点も重要

「木を見て森を見ず」という諺がありますが、会計基準の原文通読においても、同様のことが言えます。つまり、個別の規定の詳細(=木)を見るだけでなく、基準全体(=森)を概観することが重要です。会計基準を読みながら、一定のカテゴリーごとに、その中でどのような記述がなされていたかをまとめていくことで、会計基準を「森」を眺めるように引いた視点でまとめてみましょう。


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