会計基準原文学習のススメ:「急がば回れ」の学習法(前編)ー会計基準の原文に触れる大切さを知ろう

学習法 会計基準 原文

小阪敬志(日本大学法学部・准教授)

【編集部より】
ほかの受験生がどんな勉強をしているか、気になりますよね。日本大学法学部准教授の小阪敬志先生は、自身が公認会計士試験に合格した経験をもとに、会計資格取得を目指す学生に対して、「会計基準の原文に触れるべき」というアドバイスをすることが多いといいます。というのも、会計基準は全文によって1つの体系として成立しているため、全体像をとらえるような理解の仕方も重要とのこと。どのような学習方法なのか、2回にわたって解説してもらいます。

1.「仕訳が説明できる」とは?

公認会計士や税理士などの試験合格者に、「財務会計ができるようになるコツは?」と聞くと、「仕訳を説明できるようになること」という答えが返ってくることが多いように感じます。私自身も20年ほど前に公認会計士試験の受験生でしたが、同様のことを感じていました。大学教員となり、指導を行う立場になった今でも、そのスタンスに変わりはありません。


このコラムをご覧になっている皆様は、会計士試験や税理士試験の受験生が多いと思いますが、多くの方は簿記から学習を始められたのではないでしょうか。ここで、次の仕訳を見てみましょう。

(借)リース資産 100 
 (貸)リース債務 100

これは、ファイナンス・リース取引開始時における借手の仕訳(売買処理)です。リース会計の基本を学習したことがある方であれば、この仕訳を見て「ファイナンス・リース取引の契約時において、借手が100でリース資産・リース債務を計上した」といった取引をイメージされたのではないでしょうか。

では、「なぜこのような仕訳になるのか?」と問われたら、説明できますか? 「リース資産」や「リース債務」といった勘定科目で処理するのはなぜなのか、なぜ「取引開始日」が記帳日となり、そして記帳額が「100」になるのか(つまり、リース料の現在価値やリース物件の見積現金購入価額が用いられるのはなぜか)。「仕訳を説明できる」とは、これらの問に答えられることを意味します。そして、その問に答えるために必要になるのが、各種の会計処理ルールを定めた会計基準に対する理解です。

2.原文に触れる機会は少ない


現在公表されている会計基準の数は、決して少なくありません(企業会計審議会と企業会計基準委員会の両主体が設定した基準は、あわせて30以上)。資格によって多少の差はあるものの、理論部分だけをとってみても必要な学習量は膨大です。受験予備校の教材や市販のテキストなどを見ても、紙幅が限られている以上、会計基準の原文をすべて載せるといったことはなく、会計基準の記述の中からエッセンスを抽出して作成されています。


普段の学習は、それらのテキストをベースに行われるわけですから、皆さんが会計基準の原文の記述に触れる機会は、非常に少ないのではないでしょうか。一部の重要な記述に触れることはあっても、全文に触れるという機会は、やはり少ないように思います。 


3.今から原文に触れることが大切


ここまで読まれた方の中には、「重要な部分が集約されているのがテキストなのであれば、それを読めば十分なのではないか」と感じられる方もいるかもしれません。確かに、知識としてはそれで足りるのかもしれません。しかし、会計基準というものは、その全文で1つの体系を構成しているため、たとえば1つの規定を「理解」するためには、その規定の基礎にある根拠だけでなく、会計基準そのものが設定(あるいは改正)されるに至った背景などについても、理解することが大切です。そしてそのために必要になるのが、会計基準の全文(=原文)の通読です。


原文に目を通すことで、会計基準の全体像が見えてきます。そうすれば、会計基準の規定に対する理解が深まるだけでなく、たとえば自分が使っている教材が「なぜ基準のこの部分だけを記載しているのか」を考えることで、その規定や根拠部分の重要性を理解することにもつながるでしょう。また、会計のプロフェッショナルである会計士や税理士にとって会計基準は重要な商売道具の1つですから、会計基準全文への理解は、職業上必須であるともいえます。そのことに鑑みても、早い段階から原文に馴染んでおくことには、意義があります。

4.原文はどうすれば読める?

現在、わが国で公表されている会計基準は、企業会計審議会が設定したものと、企業会計基準委員会が設定したものの2種類に大別できます。また、企業会計基準委員会は、会計基準に対する適用指針も開発しています。


企業会計基準委員会が公表している会計基準や適用指針については、こちら から閲覧することができます(「公表した基準等」より、各基準等の閲覧やPDF形式でのファイル入手が可能です)。他方、企業会計審議会が設定した会計基準については、WEBからの入手ができません(有志の方が作成されたサイトはありますが、ファイルダウンロードなどは不可です)。
両基準などの諸規定が所収されている紙媒体の刊行物としては、『新版 会計法規集』(中央経済社)があります。私が受験生だった頃も同書(『新版』になる前のものでしたが)を使用して学習をしていました。

5.「急がば回れ」の精神で!


先ほど紹介したように会計基準の数は多く、原文を全体的に読むとなれば、通読に要する時間だけでも相当になるでしょう。それでも私は、断片的な記述を何度も読み返すよりも全文を一度通読することによって得られる理解のほうが大きい、と考えています。


「テキストなどを何度も読み返しているけれど、なかなか理論が伸びない」といった方や「理解ベースで学習を進めたい」といった方にはオススメの学習法ですので、「急がば回れ」の心構えで一度試してみてください。
次回は、実際に会計基準の原文を用いた学習方法を紹介しますので、お楽しみに。

後編に続く)

<執筆者>小阪敬志准教授

<執筆者紹介>
小阪敬志(こさか・たかし)
日本大学法学部准教授。中央大学在学中に公認会計士試験に合格。中央大学大学院を経て2012年日本大学法学部助教に着任。その後,専任講師を経て2018年4月より現職。主な研究テーマは企業結合。『検定簿記講義1級(商業簿記・会計学 上/下巻)』『テキスト上級簿記(第5版)』(いずれも中央経済社)等を執筆。
小阪敬志


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