【経済ニュースを読み解く会計】 日本企業の社外取締役①―報酬はどれだけもらっているのか?


【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

大阪公立大学准教授・井上謙仁

みなさん、こんにちは。大阪公立大学の井上謙仁です。

普段は財務会計や経営分析を教えています。先日、金属製のギターを買いました。

研究では、国際財務報告基準(IFRS)や経営者報酬に関する実証分析を行っています。また、社外取締役にも関心があり、研究を進めています。今回は、その社外取締役に関連した話をしようと思います。

社外取締役の人材不足

最近、社外取締役に関連する報道が目につきます。

たとえば、2026年6月20日の日本経済新聞朝刊[1] では、全上場企業の社外取締役(約11,000人)のうち、3社以上の兼任をしている社外取締役が417人であり、これは5年前の5割増加であると報じられました。この原因として、経営の経験やスキルを有する人材の不足が指摘されています。

2015年に施行されたコーポレートガバナンス・コードによって、上場企業は2人以上の独立社外取締役の選任が求められました。その求めに応じるように、各社は社外取締役を選任しており、社外取締役は年々増加しています。

社外取締役は経営者の「お目付け役」としてモニタリングを行うことで、株主の利害に一致するように経営者の行動を調整することが求められます。つまり、経営に精通していないといけないわけです。

そのような能力を有する人は貴重と考えられます。どうしても人材不足となり、他社で社外取締役を勤めている人にオファーするになるのかもしれません。

社外取締役の報酬は高い?

社外取締役のなり手が貴重だということは、社外取締役の報酬は高額になるかもしれません。日本企業の社外取締役の報酬は有価証券報告書に開示されているので、それを確認してみましょう。

たとえば、日立製作所は2026年3月期に社外取締役11人に対して、4億2,600万円の報酬があったと報告しています(図1)。1人あたりの報酬はおおよそ3,900万円となります。

図1:日立の報酬
(出典)株式会社日立製作所「第157期有価証券報告書(自2025年4月1日至2026年3月31日)」98ページ。注は除いている。

また、時価総額の大きさで話題[2]になったキオクシアでは、社外取締役と社外監査役をあわせた「社外役員」の報酬総額は1億3,800万円とあります。社外役員は4人とあるので、1人平均約3,450万円となります(図2)。なかなか夢のある金額にみえてきます。

図2:キオクシアの報酬
(出典)キオクシアホールディングス株式会社「第8期有価証券報告書(自2025年4月1日至2026年3月31日)」90ページ。注は除いている。

日本全体ではどう?

これらの企業は、比較的業績がよい企業である点に注意が必要です。そのために、社外取締役に高額な報酬が支払われているのかもしれません。

日本全体ではどのような傾向にあるのでしょうか。ここでは、日本企業の社外取締役の報酬について、実態調査を行った筆者らの研究を紹介します(井上・藤谷・𠮷田 (2025))。この研究では、2012年4月決算期から2024年3月決算期までの日本企業を対象に、社外取締役と社外監査役の報酬について調べました。

ただし、日本企業では、社外取締役と社外監査役の報酬を役職別に開示している企業(役職別企業)よりも、キオクシアのような「社外役員」として合算して開示している企業(合算企業)のほうが多いです。そこで論文では、役職別企業の社外取締役と社外監査役の報酬の比重を計算し、それを合算企業での報酬比重として利用しました。そのため、以下に示す合算企業での結果は、こうした仮定にもとづいている点に注意してください。

では、日本の社外取締役の平均報酬はどのような傾向にあるのでしょうか。まず、2023年度[3]で役職別企業の平均報酬額は約732万円、合算企業の平均報酬額は約411万円でした。日本全体では日立やキオクシアほど報酬が支払われていないことがわかります。
また、ほとんどの企業の報酬は固定報酬のみで構成されていました。一方、業績連動報酬のような業績と連動させる報酬を支払っている企業は少数にとどまりました。

報酬のトレンドもみてみましょう。社外取締役の設置が求められた2015年度の平均報酬は、役職別企業で671万円、合算企業で518万円でした。ここから2023年度までに、役職別企業では平均報酬が増加していますが、合算企業ではむしろ減少していることがわかります。

さらに、アメリカ企業の社外取締役との比較もされています。フランスを本拠地に置く世界的なビジネススクールであるINSEADのファン教授たちの研究によると、アメリカの社外取締役の平均報酬が2000年には133.93千ドル(約1,537万円)、2020年では342.03千ドル(約3,549万円)と報告しています[4](Fang and Huang (2024))。この期間、報酬はおおよそ2.5倍増加していることになります。

また、日本企業では、2020年度で役職別企業で約719万円、合算企業で約420万円でした。つまり、日米で報酬の差額がおおよそ5〜8倍あることがわかります。

社外取締役は十分な報酬をもらっているのか?

井上・藤谷・𠮷田 (2025)からは、日本の社外取締役の報酬がそれほど高額でないことがわかりました。さらに、それらの報酬は固定報酬で構成されており、業績との連動の部分は低いことも明らかとなっています。

社外取締役は経営者の行動をモニタリングし、株主の利害を一致させることが求められています。この役割にインセンティブを与えるために、報酬を高額にしたり、業績と連動させたりするという方法が考えられます。しかし、日本の社外取締役は報酬がそれほど高額でなく、かつ業績との関連があまりないという状況でした。この結果が示唆することは、日本の社外取締役にはそこまでインセンティブを与えられておらず、社外取締役の役割が十分に果たされていないという可能性です。

社外取締役の役割が十分でない可能性は、役員等賠償責任保険(Director’s and Officer’s Liability Insurance: D&O保険)からも考えることができます。
次回はD&O保険についての話をします。

(注)
[1] 「社外取 3社以上兼務400人 経営人材の不足続く 2社以上1881人、担い手増が課題」2026年6月20日付日本経済新聞朝刊、3ページ。調査は岡三証券によるもの。2025年12月末時点。
[2] たとえば、「キオクシア時価総額、一時60兆円超え、1週間で10兆円上積み」2026年6月23日付日本経済新聞朝刊、19ページ。
[3] 年度は当年4月はじまり、翌年3月おわりの期間で設定されている。
[4] 円換算は毎年12月の平均為替レートで行っている。

(参考文献)
井上謙仁・藤谷涼佑・𠮷田政之. 2025.「社外取締役のインセンティブ —報酬とD&O保険の実態調査—」『産業經理』85(3): 130–145.
Fang, L., and S. Huang. 2024. The Governance of Director Compensation. Journal of Financial Economics 155: 103813.

【この記事を書いてくれた人】
井上謙仁(いのうえ・けんと)
大阪公立大学大学院経営学研究科准教授。2018年に大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了、博士(経営学)。研究では、会計情報や株価情報を用いた統計的手法による実証分析を行っている。詳しい経歴等はウェブページにて参照可能。
主な著書に『経営者報酬の理論と実証』(編著、中央経済社、2024年)、『会計学の実証分析入門』(編著、中央経済社、2026年)などがある。


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