【論述に強くなる!財表理論講座】第30回:一般原則①


長島正浩
(茨城キリスト教大学経営学部教授)


全31回のプログラムで、税理士試験・財務諸表論に強くなる! 
論点ごとに本試験に類似したミニ問題を用意しました。まずは問題1にチャレンジし、文章全体を何度か読み直したところで問題2(回によっては問題3も)を解いてみましょう。そして、最後に論述問題を解いてください。


まずは問題にチャレンジ!

企業会計は,企業の( ① )及び( ② )に関して,真実な( ③ )を提供するものでなければならない。 企業会計は,( ④ )につき,正規の簿記の原則に従って,正確な( ⑤ )を作成しなければならない。

問題1
文中の空欄( ① )から( ⑤ )にあてはまる適切な用語を示しなさい。

問題2
「真実な」の意味を簡潔に答えなさい。

問題3
正確な( ⑤ )を作成するための要件を3つ箇条書きで列挙しなさい。

解答

問題1

① 財政状態
② 経営成績
③ 報告
④ すべての取引
⑤ 会計帳簿

問題2

絶対的真実性でなく、相対的真実性を意味する。

問題3

(1) すべての取引を網羅して記録すること。

(2) 検証可能な証拠に基づいて記録すること。

(3) 秩序よく組織的に記録すること。

基本的な考え方

・真実性の原則は、測定、記録及び報告(伝達)という会計行為全般の真実性を要請する包括原則であり、企業会計の最高規範ないし基本理念として位置づけられる。

・正確な会計帳簿とは、会計事象を信頼できる客観的な証拠に基づいて記録し、財務諸表作成に必要な記録を保存する帳簿を意味する。(仕訳帳元帳

・正規の簿記の原則は、記録原則とみることができる。ただし、記録の前提となる会計処理(認識・測定)をも含む包括原則とみる見解もある。

論述問題にチャレンジ!

真実性の原則がいう真実が相対的真実性を意味するのはなぜ?

【絶対的真実性】
相対的真実性の意味を語るには、その対立概念である「絶対的真実性」の意味から考えるのがよい。絶対的真実性とは、旧ドイツ商法に由来し、ある一定時点における物的ないし法的観点から実在する資産および負債を完全に網羅して計上する「貸借対照表完全性の原則」と、その資産の評価は換価価値による「真正価値の原則」とを意味する。すなわち、1つの会計事実に対して1つの会計数値しか存在しえない。

【相対的真実性】
絶対的真実性のもとでは、慣習や判断が介入せず、それらから独立しているが、今日の企業会計は、継続企業を前提とし、期間的に暫定的な計算を行わざるをえないことから、必然的に慣習や判断が介在する。また、取引について、複数の会計処理方法が認められている場合があり、採用する方法により、利益計算の結果は異なってくる。このため真実性の原則でいう「真実」とは、決して絶対的真実ではなく、会計基準の遵守によって達成される相対的真実を意味するのである。

正規の簿記の原則はなぜ正確な会計帳簿の作成を要求するのか?

網羅性・検証可能性・秩序性を備えた「正確な会計帳簿」を作成した上で、その帳簿記録を集計した結果に基づいて、誘導法によって財務諸表を作成する必要があり、帳簿記録と無関係に実地調査を行うような棚卸法で財務諸表を作成してはならない。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

※ 本記事は、会計人コース2020年1月号別冊付録「まいにち1問 ポケット財表理論」を編集部で再構成したものです。

〈バックナンバー〉
第1回:キャッシュ・フロー計算書
第2回:1株当たり当期純利益
第3回:金融商品会計①
第4回:金融商品会計②
第5回:金融商品会計③
第6回:棚卸資産会計①
第7回:棚卸資産会計②
第8回:収益認識会計
第9回:固定資産会計①
第10回:固定資産会計②
第11回:ソフトウェア会計
第12回:研究開発費会計
第13回:繰延資産
第14回:退職給付会計
第15回:資産除去債務
第16回:税効果会計
第17回:ストック・オプション会計
第18回:自己株式
第19回:準備金の減少
第20回:純資産の部の表示
第21回:株主資本等変動計算書
第22回:企業結合会計①
第23回:企業結合会計②
第24回:事業分離会計
第25回:連結会計
第26回:外貨換算会計
第27回:過年度遡及会計
第28回:包括利益
第29回:概念フレームワーク


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