【論述に強くなる!財表理論講座】第15回:資産除去債務



全31回のプログラムで、税理士試験・財務諸表論に強くなる! 
論点ごとに本試験に類似したミニ問題を用意しました。まずは問題1にチャレンジし、文章全体を何度か読み直したところで問題2(回によっては問題3も)を解いてみましょう。そして、最後に論述問題を解いてください。


長島正浩
(茨城キリスト教大学経営学部教授)

まずは問題にチャレンジ!

資産除去債務は,( ① )の取得,建設,開発又は通常の使用によって( ② )した時に負債として計上する。資産除去債務は,( ③ )日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き,( ④ )の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示する。( ③ )日後1年以内に資産除去債務の履行が見込まれる場合には,( ⑤ )の区分に表示する。

問題1
文中の空欄( ① )から( ⑤ )にあてはまる適切な用語を示しなさい。

問題2
太字部「資産除去債務」とは何か,説明しなさい。

解答

問題1

① 有形固定資産
② 発生
③ 貸借対照表
④ 固定負債
⑤ 流動負債

問題2

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。

基本的な考え方

・資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上する。

・有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう(一時的に除外する場合を除く)。除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれない

・有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。

論述問題にチャレンジ!

資産除去債務を引当金処理せずに資産負債の両建処理する理由は?

引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分である。資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含めることで、当該有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。この結果、有形固定資産に対応する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するものといえるから。

除去費用を有形固定資産とは別の資産にしなかったのはなぜか?

除去費用は、法律上の権利ではなく財産的価値もないこと、また、独立して収益獲得に貢献するものではないことから、別の資産とはしていない。当該除去費用は、有形固定資産の稼動にとって不可欠なものであるため、有形固定資産の取得に関する付随費用と同様に処理するため。

土地の原状回復費用は?

土地に関連する除去費用(土地の原状回復費用等)は当該土地が処分されるまでの間,どのように費用計上するのかが問題となるが,土地の原状回復等が法令又は契約で要求されている場合の支出は,一般に当該土地に建てられている建物や構築物等の有形固定資産に関連する資産除去債務であるため,当該有形固定資産の減価償却を通じて各期に費用配分されることとなる。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

※ 本記事は、会計人コース2020年1月号別冊付録「まいにち1問 ポケット財表理論」を編集部で再構成したものです。

〈バックナンバー〉
第1回:キャッシュ・フロー計算書
第2回:1株当たり当期純利益
第3回:金融商品会計①
第4回:金融商品会計②
第5回:金融商品会計③
第6回:棚卸資産会計①
第7回:棚卸資産会計②
第8回:収益認識会計
第9回:固定資産会計①
第10回:固定資産会計②
第11回:ソフトウェア会計
第12回:研究開発費会計
第13回:繰延資産
第14回:退職給付会計


関連記事

ページ上部へ戻る