【論述に強くなる!財表理論講座】第14回:退職給付会計



全31回のプログラムで、税理士試験・財務諸表論に強くなる! 
論点ごとに本試験に類似したミニ問題を用意しました。まずは問題1にチャレンジし、文章全体を何度か読み直したところで問題2(回によっては問題3も)を解いてみましょう。そして、最後に論述問題を解いてください。


長島正浩
(茨城キリスト教大学経営学部教授)

まずは問題にチャレンジ!

退職給付債務から年金資産の額を控除した額を( ① )として計上する。
退職給付債務は,退職時に見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち,期末までに( ② )していると認められる額を割り引いて計算する。
勤務費用は,退職給付見込額のうち当期に( ② )したと認められる額を割り引いて計算する。
利息費用は,( ③ )の退職給付債務に割引率を乗じて計算する。
年金資産の額は,期末における( ④ )により計算する。

問題1
文中の空欄( ① )から( ④ )にあてはまる適切な用語を示しなさい。

問題2
年金資産について,太字部分のような処理をする理由を述べなさい。

解答

問題1

① 負債
② 発生
③ 期首
④ 時価

問題2

年金資産は退職給付の支払いのためのみに使用されることが制度的に担保されていることから,これを収益獲得のために保有する一般の資産と同様に企業の貸借対照表に計上することには問題があり,かえって,財務諸表の利用者に誤解を与えるおそれがあると考えられるから。

基本的な考え方

「数理計算上の差異」とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいう。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識数理計算上の差異」という。

「過去勤務費用」とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分をいう。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識過去勤務費用」という。

論述問題にチャレンジ!

退職給付とは?

退職給付とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付をいい、退職一時金及び退職年金等がその典型である。

退職給付の性格とは?

賃金後払説
従業員が提供した労働の対価として支払われる賃金給与の後払いである。

功績報償説
従業員の功績に対する褒賞としての報酬である。

生活保障説
退職後の従業員の生活保障のための給付である。

退職給付費用を費用として認識する論拠は何か?

退職給付は基本的に、従業員の勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生するものと捉えることができ、適正な期間損益計算を実施するため、その発生した期間に費用として認識する発生主義に基づくものである。

退職給付に係る負債を個別貸借対照表上に「引当金」として計上する論拠は何か?

退職給付は、その発生が当期以前の事象に起因する将来の特定の費用的支出であり、退職給付規程などからその発生の可能性は高く、その金額も合理的に見積ることができるため、引当金の計上要件を充たし、退職給付引当金を計上する。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

※ 本記事は、会計人コース2020年1月号別冊付録「まいにち1問 ポケット財表理論」を編集部で再構成したものです。

〈バックナンバー〉
第1回:キャッシュ・フロー計算書
第2回:1株当たり当期純利益
第3回:金融商品会計①
第4回:金融商品会計②
第5回:金融商品会計③
第6回:棚卸資産会計①
第7回:棚卸資産会計②
第8回:収益認識会計
第9回:固定資産会計①
第10回:固定資産会計②
第11回:ソフトウェア会計
第12回:研究開発費会計
第13回:繰延資産


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