ライフプランナー/会計士・菊池諒介、事務所経営者の素顔に迫る File4:株式会社アクリア代表・川崎勝之氏・平石智紀氏①


【編集部より】
税理士法人や会計事務所はたくさんありますが、いざ自分の就職先として選ぶ場合、どういう点に特徴があるのかわかりにくいこともあるかもしれません。そこで、本企画では日頃からライフプランナーとして、さまざまな会計事務所等と関わりを持つ菊池諒介先生(公認会計士/写真右)が、いま注目の法人・事務所経営者の素顔に迫ります。
File4は、株式会社アクリア代表取締役の川崎 勝之先生(公認会計士・税理士/写真左)・平石 智紀先生(公認会計士・税理士/写真中央)との鼎談です。
<全3回>
第1回 経営で大切にしていることや事務所の雰囲気
第2回 会計士を目指すきっかけや経営当初のこと
最終回 これからの会計事務所や受験生へのメッセージ

共同代表としてそれぞれのキャリアを活か

菊池 会計事務所経営者の素顔に迫る本企画。今回は株式会社アクリア共同代表の川崎さんと平石さんにお話を伺います。

実は僕、受験生の時に、平石先生の簿記の授業を受けて公認会計士になった世代なんです。受験生時代はVTR受講だったので直接お会いしたことはなかったのですが、その後、補習所での宿泊研修の時に、たまたま担当の方の代理で平石先生が僕らのグループの講師を務めてくださることになり、それをきっかけに直接お話させて頂くようになりました。
そんな思い出もあって、個人的にも今回は感慨深く、いろいろなお話を伺えるのをとても楽しみにしております。

では、まずはお二人それぞれにご経歴を教えて頂きたいと思います。公認会計士としてのキャリアは川崎さんのほうが長くていらっしゃるとのことですが、川崎さんは試験合格から現在までどのようなキャリアを積まれてこられたのでしょうか。

川崎 はい。私は1999年に公認会計士試験に合格し、当時のセンチュリー監査法人(現在のEY新日本有限責任監査法人)に入所しました。約6年弱、監査をはじめ、さまざまな経験を積みましたが、会計の知識をもう少し活かして、よりプレイヤー側の仕事がしたいと思い、インターネット広告などを行うIT企業に転職しました。

当時、その会社はジャスダックに上場したばかりで(現在はプライム市場)、決算業務から最終的には管理部門全体の統括責任者を務めました。変化の大きな会社で、その中でも成長過程に立ち会えたということは今でも自分の基礎になっていると思っています。

その事業会社で働き続けることも魅力的ではあったのですが、40歳を過ぎた頃に「事業をやってみたい」という自分の理想が強くなるなかで、偶然、平石さんと出会い、「一緒にやりましょう」という話になり現在に至ります。

菊池 すでに掘り下げたいポイントがたくさんありますが、後ほどゆっくりお聞きしたいと思います。それでは、平石さんにもご経歴を伺ってよろしいでしょうか。

平石 はい、私は2002年に公認会計士試験に合格をしました。実はなかなか試験に受からなくて、4回目の受験でした。

当初は、合格したら監査法人に行こうと思っていたのですが、受験4年目の年に専門学校のほうから「講師をやらないか」とスカウトされたのです。どうしようか迷ったものの、尊敬する先輩から「誰にでもあるチャンスではないからやってみたら」と言われ、引き受けることにしました。

合格後の1年目は講師業のみ、2年目からは講師業も続けつつ、EY新日本有限責任監査法人で4年弱、その後、準大手の監査法人で1年ほど、監査法人アヴァンティアでは設立時から9年半ほど非常勤として経験を積ませて頂きました。

講師業は2年程度で辞める方が多かったので私自身も2年経過時点でキャリアチェンジを考えましたが、講師業をもっと続けたいという想いが強く、長く続ける意思決定をしました。同時に、公認会計士として監査やコンサルティングの実務経験を積む重要性を感じておりましたので、講師業については平日夜や週末の時間帯に主に業務をしながら、平日の日中は監査法人での業務や他のコンサルティング業務に力を注いでおりました。

菊池 冒頭で申し上げたとおり、僕は受験時代に平石先生の授業を受けて公認会計士になった世代なのですが、当時の先生の授業からはものすごい熱意をいつも感じていました。講師業の魅力というのは、どんな点にあるでしょうか?

平石 勉強の成果はご本人の努力なので、あくまで主役は受験生の皆さん自身なのですが、自分が努力したり工夫することで受験生の皆さんの理解につながり、勉強への取組みがさらに前向きになったり、喜んで頂けたりする姿を間近で見られることが嬉しく、そして私の力ではなく受験生自身の努力ではあるのですが、勉強の過程や結果が出た時に感謝して頂けることも多くありました。

菊池さんのように、今でも私の授業を受けていたという人にアクリアのクライアントやメンバーを通じて出会うことがあり、当時は想像できませんでしたが、講師時代の接点があるからこそ初対面でも親近感をもって頂けるきっかけになり助かっています。

講師業自体は、公認会計士としてはいわゆる王道とはいえないかもしれません。しかし、当時の私にとっては足りない実務経験を埋めたいという適切な危機感が原動力になっていました。講師業に魅了される一方で、私自身のキャリアとしては「監査や実務面での幅をできる限り広げたい」と考えていました。

そこで、フリーランスのような形で、ベンチャーの経営企画のような仕事から会計コンサルティング、大学の非常勤講師、企業研修まで、信用する方から声がかかれば「何でもやります」と様々な仕事を受けていました。当時、周りの先輩からは「ミスター安請け合い」と言われることもありました(笑)。私自身は頼まれるということは自分に機会を与えてくれた方がいて、できると思うからこそ頼んでくれているという考え方で夢中になって仕事をしていたと思います。

アクリアを立ち上げる際には、自分がフリーランス的に積んできた経験やスキル、ノウハウすべてを集約しようと思いました。そうすることで、事業会社で経験を積んだ川崎さんのノウハウと良い相乗効果を発揮し、お互いの強みを経営に活かすことができると考えたからです。

経営者として大切にしている価値観

菊池 川崎さんは事業会社でのご経験もあるということですが、事務所経営者として現在、大事にされている価値観を教えていただけますか。

川崎 そうですね。まず「お客様と同じ目線でその企業の課題を共有したい。一緒に机を並べて同じ目線を持ちたい」ということが、そもそもの出発点にあります。
さらに言えば、対お客様でも、対メンバーでも、長く一緒にお仕事をするために丁寧に信頼関係を築くことを重視しています。

もちろん、アクリアとしてやりたいことやすべきことは伝えますが、ピンチの時には助けたり、相談してもらえたりする存在であることをしっかり追求していきたいです。相手が困っている時に助けを求められたり、対等に話せたりすることを、アクリア全体ではもちろん、社内のチーム単位でも実践していきたいと考えています。

平石 私自身は監査法人の非常勤に加え、コンサルティング業務をフリーランスとして経験を積んで行く中で多くの先輩方に機会を提供頂き少しずつ自分のできることを増やしてきました。

その経験を、多くのメンバーに伝えて、その人たちが私よりも短時間で経験できるようにしたいと考えています。そうすることで、メンバー側もできることが増えるし、信頼関係も高まり、チームワークも良くなってくるからです。個人よりチーム、チームよりファームという構図ですね。

そこで大事にしたのが、「機会を提供すること」と「ノウハウをシェアすること」です。個人だけを考えれば機会は自身が享受しノウハウも自身に蓄積することになりますが、機会をメンバーに提供し自身のノウハウを惜しみなくシェアすることで他のメンバーの成長を促進することができます。また、与えるばかりでなく他のメンバーから機会を提供され、ノウハウのシェアを受けることができればお互いに成長できます。

そういった文化を形成すればチーム力が向上しファームとしてもクライアントに価値があるサービスを提供できるようになると考えました。自分一人では無理でも、チームやファームで協力して課題解決できますし、その姿勢がお客さんの信頼をつかむことにもなります。

プロフェッショナルとして自立する、課題解決するということは第一にありつつ、チームやファームとしての信頼関係を構築することでより高い価値をクライアントにも感じて頂いています。

菊池 会計事務所の中には、経営戦略としてクライアントとドライな関わりをするところもあると思いますが、アクリアさんはどちらかと言うと、プロフェッショナルだけれどもある意味ウェットな関係性を心がけていらっしゃるのですね。

川崎 事業会社の中にいたからなのかもしれませんが、仮に契約の主たる業務から若干外れる追加依頼であったとしても、単に「これは契約の範囲外です」ということではなく、信頼関係のあるクライアントからの依頼であれば、基本的なスタンスとしては、まずはできる限りのサポートをしたいと思っています。

ただ、本当に必要な時、たとえば長中期的にみてアクリアのビジョンとは合わないと判断する場合などは、お断りすることや柔らかくそれをお伝えすることもありますけどね。

ミッション・ビジョン・バリュー

菊池 社内における価値観の共有や人材育成の方針などについてはどのような取組みをされておりますか?

川崎 そうですね。個々人が実力をつけたうえで、会社全体として、その個人の魅力をより一層発揮することができる、そういう組織でありたいと考えています。なので、メンバーが自発的に行動できるような環境づくりが根本にあります。ベンチャー企業などでは当たり前のように行われていることかもしれませんが、アクリアでは「単に会計だけやっていればいい」ということではなく、各メンバーとカルチャーや理念までもしっかりと共有できるように心がけています。

そこで、会社としての「ミッション・ビジョン・バリュー」を掲げ、毎月2回、メンバー皆で「ブランディングタイム」というミーティングの場でディスカッションをしています。ここでは、単純に僕や平石さんが「こうだ」と方向性を決めるのではなく、メンバー皆で会社の将来を考える機会をつくっています。

平石 このブランディングタイムはメンバー関連の話、クライアント関連の話、会社の未来の話まで幅広く中長期目線で話したいテーマを社内で募集したり、役割を持つ経営企画室が考えて成り立っています。業務上は専門家として納期を順守するとともに、日々タイムリーにプロフェッショナルな対応を求められますので、どうしても時間も埋まっていきますし、短期課題にフォーカスされがちです。

その中で、前もって会社として重要な時間であるというメッセージとともに、月に4時間時間を確保し、常勤メンバー全員参加で実施しています。オンラインにて経営企画室のメンバーのファシリテーションでグループに分かれてディスカッションしています。もちろん、川崎さんや私が冒頭や最後にコメントしますが、基本的にはメンバー同士で話す時間が中心ですね。

菊池 社内の雰囲気も風通しが良さそうですね。

平石 採用面接で応募者から質問されることもありますが、メンバーは「フラットだ」とか、「優しい人が多い」、「聞きやすい」、「みんな助けてくれる」と答えてくれています。
でも、これは本当にいい人にたくさん入ってもらったことが大きな要因かなと思っています。もちろん、こういう雰囲気を作りたかったのですが、運もよかったですね。

採用では、メンバー皆が自分の言葉でアクリアの魅力を語り、自分がその人と一緒に働きたいかを見てくれています。
最終的なジャッジには私と川崎さんも一応入るものの、同時に、一緒に働くことになるメンバーを皆が決めるという側面もあるので、その積み重ねでよい形になったのかなと思っています。

菊池 当初から具体的な指針をお持ちだったのでしょうか。

平石 創業からしばらくは「メンバーと向き合い、クライアントと向き合い、長く信頼関係を蓄積することで全員がハッピーになる」という今でも大事にしている方向性は決まっていたものの、私も川崎さんも具体的にどのくらいの規模を目指してというものは設定していませんでした。

ただ、規模が拡大するにつれて、アクリアの将来について聞かれる機会も増え「今後のために今まで大事にしてきた価値観を言語化しよう」という話になりました。

そこで、今役員になっているメンバーや経営企画に入っている若い20代のメンバーたちが中心になり、当時のメンバー全員で1年にわたりディスカッションをしてミッション・ビジョン・バリューを完成させました。

菊池 お話をお聞きしていると、人間性や会社としての在り方を大切にされる風土の事務所という印象がますます強くなりました。

川崎 人柄を含めて人間性は、かなり重視して採用しています。採用に携わるメンバー一人一人にも、スキルはもちろんではありますが、その求職者の方の内面やアクリアのカルチャーへの共感度などはしっかり検討してもらいたいと伝えていますね。

菊池 第1部では経営で大切にされていることや事務所の雰囲気などについてたっぷりお聞きしました。第2部ではお二人のキャリアヒストリーなどについて伺いたいと思います。

つづく

<鼎談者紹介>

川崎 勝之

公認会計士・税理士

株式会社アクリア代表取締役・税理士法人アクリア代表社員
1995年東京経済大学経済学部卒業。1999年公認会計士二次試験合格、センチュリー監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)入所。2003年4月公認会計士登録。
2005年株式会社デジタルガレージ入社、2006年同社業務執行役員、2009年同社上級執行役員。2012年株式会社アクリア 代表取締役、税理士法人アクリア代表社員就任。この他にも、数社の監査役等を務める。

平石 智紀

公認会計士・税理士

株式会社アクリア代表取締役・税理士法人アクリア代表社員
2001年慶應義塾大学経済学部卒業。2002年TAC株式会社入社、公認会計士二次試験合格。
2003年新日本監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人) 入所。2007年公認会計士登録。
2008年監査法人アヴァンティア入所。2011年株式会社アクリア代表取締役就任。2014年税理士法人アクリア代表社員就任。2015年日本公認会計士協会東京実務補習所運営委員会副委員長。この他にも、数社の取締役・社外監査役等を務める。


◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)

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プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士

2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)6年連続入会、2022年はCOT(Court of the Table)入会基準を達成。その他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。

MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。

個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi

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