【編集部より】税理士法人や会計事務所はたくさんありますが、いざ自分の就職先として選ぶ場合、どういう点に特徴があるのか見出しにくいこともあるかもしれません。そこで、本企画では日頃からライフプランナーとして、さまざまな会計事務所等と関わりを持つ菊池諒介先生(公認会計士/写真右)が、いま注目の法人・事務所経営者の素顔に迫ります。
File2は東京・福岡・ニューヨークに展開するユニヴィスグループ代表・森 陽平先生(公認会計士・税理士/写真左)との対談。今回の記事では、人材育成とこれから求められる人について伺います。
時代の変化と事務所の立ち位置や人材育成
菊池 前回の記事では、事務所を創業したきっかけから組織化するに至るまでについて伺いました。ユニヴィスさんの強みとして、「多様性」というイメージがあります。今後、時代も変化する中で、会計業界での事務所の立ち位置や人材育成などについてどのようにお考えですか。
森 こういう事務所にしたい、こういうのを専門にしたいというよりは、分野を広げていったところでも、「その業界のトップファームと競合になれるように頑張ろう」とは考えています。というのも、マネージャーにしっかりした権限を与えているので、そのマネージャーが「ここの分野で伸ばしたい」と言えば、「それでいこう」というスタンスなんです。
もちろん、会計はベースとしてありますけど、「会計」は色々な要素と掛け算がすごくしやすいんですよね。たとえば業種、業界から、経営企画、税務、法律、さらには地域や海外など、「会計×〇〇」の〇〇の部分を掛ければ掛けるほど専門性が増しますし、それにパーソナリティ的な要素として、営業力やソフトスキルも掛け合わさると可能性が無限大に広がります。
掛けるものは何でもいいので、いろいろなセグメントを縦横で捉えて、「何を掛けて、何が自分の強みで、動機がどのくらいあって」という意思を明確に持っている人が僕は好きですし、そっちのほうが仕事も楽しく長く続けられます。そのほうが、「自分がやりたいからやってるんだ」という話になりますから。逆に「仕事でやる」、「こういうものだからやる」っていう姿勢だとあまり長続きしませんよね。
菊池 そうですよね。何かを始める最初のきっかけとして「お金を稼ぎたい」という要素は多かれ少なかれあると思うんですけど、結局、「日々をどれだけ楽しく面白く過ごすか」が大事で、お金を稼ぐことだけがモチベーションになると、長距離走には向かないですよね。
森 それは本当に向かないと思いますね。だから、ユニヴィスの育成方針としては、まずチャレンジさせてみることです。たとえば、お客さんには実際には出さないんですけど、一度資料を作らせてみて、「パワポの資料2ページ作るのに10時間かけました」みたいなことを聞きつつ、上司であるマネージャーがレビューして、完成するまでテイク20とかまで付き合ったりしていますよ。
未経験で入ってくる人が多いから、マネージャーも自分の新人時代を重ねて思い出して親身になれるんですよね。でも、実は重ねられるのも3~5年くらいが限界です。さすがに、僕が今「新人の頃を思い出せ」って言われても、もう10年以上も前なので時代も変わっていますし難しいですよね。3〜5年くらい前のことだったら当時つらかったこととかも思い出せるので、そのループをずっと崩さないように意識しています。
菊池 ユニヴィスのメンバーの皆さんは、いろんな得意分野を持っている方が多いですよね。その人たちって独立しても充分やっていけるスキルがあると思いますが、そんな優秀な方々が「ユニヴィスのメンバーとして仕事したい」と思っている理由は何だと思いますか。
森 そういう人は一緒に働く人や環境を重視する人なんだと思っています。菊池くんが言うように、ユニヴィスのマネージャークラスは独立してもすぐに1人でやっていける実力の持ち主ばかりです。でも、いざ独立したら、最初は営業をして、クライアントともうまくやって、スタッフ採用もして、さらには会社の資金繰りを気にするという難しい現実があって、メンタルの負荷も含めて大変なんですよね。
だから、ユニヴィスは「誰と働くか」を重視しています。特に採用時期も決めていませんし、好きなメンバーを集められるように、マネージャーに採用合否の権限も与えています。他にも、マネージャーが「この人はそろそろ給料を上げよう」、「この人には誰かを下につけてあげよう」、「このクライアントを任せよう」というように、部下のことを考えて育てられるようにしていて、理不尽な異動も起きないように配慮しています。
独立するより2割程度は収入が落ちるかもしれませんが、オフィスなども含めてこちらが用意した環境で、独立に近い感覚でマネージャーは仕事ができているはずです。
菊池 そういう人の繋がりとか働きやすさみたいなところはすごく大事ですよね。
若い世代の価値観に合わせていく
菊池 他に、ここ数年で感じていらっしゃる環境の変化などはありますか。
森 意識の高い若い人たちの中には優秀な人が本当に多くて、将来的にはそういった人たちが主流になっていくので、自分達がそちらにどんどん合わせたほうがいいなと思っています。先ほどお話しした、平均年齢28〜29歳は崩さないということも、そうしないとどんどんマイノリティになっていくのでそこは崩さないほうが健全だろう、という考えです。結局、何事も多数決で決まりますし、こちらの価値観に従わせるよりもこちらが合わせたほうが楽ですからね。
菊池 合わせた方が楽、と思えるのは森さんの素晴らしいところだと思います。押さえつけたがる会社もありますよね。
森 それって、真面目な人なんだと思いますよ。押さえ続けるって、大変ですから。
菊池 なるほど。今の若い世代に合わせるのに、意識的に行っていることはありますか。
森 意識的にやっていることと言えば、各チームの年齢層はすごく気にしています。年下の先輩とか、年上の後輩はあまり作らないようにはしているのと、あと、会社全体で見ると僕が今37歳なんですけど、22歳くらいまでの全世代に空白がないようにしています。隙間を作ると断絶が始まるので、同じ年でも3〜4人はいると思います。
菊池 それでも、幅広い世代をバランス良く揃えるって難しいですよね。
森 難しいですね。1つの目安として、たいてい30歳前後で大きなライフイベントを迎えるので、30歳までにマネージャーになっていることを目指し、時間を切り売りする働き方じゃなくて、マネジメントで働くようにしてもらうようにしています。
後輩スタッフの管理をやれるようになれば、たとえば育休も取りやすいなとか、家にいてもマネジメントだけだったらできるなとか考えられるようになるでしょうから。だから、30歳までにマネージャーになれる人を採って、「マネジメントさえできていればOKだよ」という雰囲気にしています。
菊池 そういう話って、もう採用の時にするのでしょうか。
森 いえいえ、この話を23、24歳の人に言っても響かないですからね。シニアになったくらいの人とか、結婚が近づいてきている人とかに話しています。
仕事とライフイベントは切り離せませんから。たとえば、結婚したら男性社員とその奥さんと会社という3階層の社会が生まれますけれども、会社と奥さんの2つに挟まれてプレッシャーがかかると倒れてしまいますよね。あと、人が辞めるきっかけって大体そういうところが多いと思いますから。
菊池 めちゃくちゃ気を遣われていますね。ユニヴィスさんの魅力を改めて知った気がします。
会計事務所と保険外交員との関わり方
菊池 あと、僕目線でお聞きしたいことで、会計事務所と僕ら保険外交員は関わることも多くありますが、僕らも当然、お客様の役に立ちたいし、信頼してもらいたいし、貢献したいなっていう気持ちがあるんですよね。
会計事務所側から見て、どんな保険外行員と付き合いたいかというのがあれば教えていただきたいのですが、どうでしょうか。
森 付き合える、付き合えないはわからないですけど、菊池くんに求めることというか、すごい助かっているのは、会計事務所や会計士のクライアントワークをしてる人に比べて、人に会う回数が圧倒的に大きくて、経営者や会計士、他士業の人とか、そのマッチング能力に長けていて、繋がりをつくってくれるのは大きいですよね。
保険って、正直なところ誰から買っても商品は同じで、「誰から買うのか」が大事。それに、保険のいいところってライフイベントを迎えるごとに見直しが入るから、いろんな人とずっと長く接点を持てますよね。
あとは、信用もあるので、変なつなぎ方をしないじゃないですか。菊池くんは会計スキルもわかるんでしょうけど、その強みに振り切っているから会計知識に関して公の場で何か言ってるのを見たことがないですからね。
菊池 そうですね〜、会計関係の情報発信は僕じゃなくても優秀な方々がたくさんいらっしゃいますからね。
森 中小企業の社長なども絶対にそこまでのつながりはもってないでしょうから、いかに人と会って信頼関係を築くかっていうところが大事なんだと思いますよ。
菊池 森さんのような方から、そう言っていただけると、自分の道は間違っていないのかなと思えます。
森 逆に微妙なのはゴリゴリの営業の人ね。場合によってはうまくいくんでしょうけども、それを会計事務所や会計士相手にやると見抜かれます。だから、そこはスタイルを変えたほうがいいんじゃないかなとは思います。
むしろ、「これとこれは全然変わらないですよ」とか、「ちょっと、こっちのほうが不利ですね」と本音を言ってもらえるほうが信頼できますね。
菊池 商品力に大きな差がない以上、僕は知識専門職としての付加価値が大事だと思って仕事をしています。それを雰囲気でごまかすみたいな感じの営業スタイルではこれからの時代厳しいかもしれませんね。
これから会計業界を目指す人へ
菊池 では、最後に受験生や若手へのメッセージとして、今後、どういう人が会計業界では求められると思いますか。
森 「独立するには全部経験したほうがいいですよね」というように、最短距離で進もうとする人が本当に多いです。でも、その経験っていろんな業務の大分類の項目でしかなくて、その下には中分類があって小分類があるんですよね。
いろんなパターンや業種、関わり方があるから、そこで自分の身近な先輩の話を聞いただけでわかった気になってしまっている人もすごく多いですが、それよりも、とりあえず案件に触れる、現場に行くというように行動するといいと思います。
監査法人とベンチャー企業で違いを感じたこともあって、社長はゴリゴリの営業スタイルで会社でものすごく詰めてくるタイプの人なのに、監査法人や対外的にはすごいにこやかに対応していたんですよね。
監査法人にいると、相手の一面しか見ないこともあって、事業会社で実際に働かないとわからなかったり、実際に経験しないとわからなかったりすることも多いです。「なんでこの業界、うまくいかないんだろう」と思うこともたくさんありますが、それは実際にその業界の中に入ってみないと仕組みが見えて来ないこともあります。
実際にやってみないとわからないですし、それはどこにも書いていません。やりながら学んでいくしかない部分ですから、そういったところを大事にしたほうがいいですね。
心が弱くて「失敗したくない」、「無駄なことしたくない」という気持ちもあるし、あとは、試験勉強で正解があることに取り組んできたから正解を探しに行くんですけど、正解って人によってそれぞれで違います。自分に合った正解はありません。
いろんなことに興味を持って、まず1回、素直にやってみる。これが大事なのではないでしょうか。やりながら、聞きながら、チャレンジしないと、準備のためにずっと聞いていても、何も起こらない気がしますし、結局、そういう人のほうが伸びる気もしますね。
菊池 前回の記事でも、右脳と左脳の話がありましたけど、左脳で戦略を立てたり、情報収集をするというのと、右脳で感情面や現場感というところのバランスがいい人が伸びてくるのでしょうね。
森 そうですね。ただ、試験を受けた時点とか、受けようと思っている時点で、左脳が強いというのはあるから、意識的に右脳のほうに寄せてもいいのかもしれませんね。
だから、まずは「これはこうすべきだ」、次に「それを自分はしたいか、したくないか」というように、2段階で考えるといいのではないでしょうか。
これはやるべき、でもしたくない。もしくは、これは続けられないってなったら、「やらない」が正解だと思います。そこで無理やりやろうとするからストレスを感じるわけなので、ある程度まで切る自信が必要です。
ベストは、「すべき」と「やりたいこと」が一緒であることなんですけどね。なかなかバシッと一発で一致しないことのほうが多いですが、相対比較ですからそのうち一致するのが見つかるでしょう。消去法の中で、「最後に残ったのが確かだ!」という感じで決めていくのが1番いいのではないかと思いますよ。
菊池 今日は、なかなかこうした場に出てくれない森さんが、これだけ色々とお話をしてくださったので、すごく楽しかったですし嬉しかったです! 1人でも多くの会計人材に読んでいただきたい記事になったと思います。ありがとうございました!
<対談者紹介>
◆森 陽平(もり・ようへい)
ユニヴィスグループ代表
公認会計士 ・税理士
立教大学経済学部を卒業後、有限責任あずさ監査法人に入社。その後、国内有力ベンチャー企業にて財務・経理の最高実務責任者としてIPO準備に従事した後、株式会社ユニヴィスコンサルティング(UNIVIS)の取締役に就任。UNIVISでは、主に企業価値算定、デューデリジェンス、M&Aにおけるソーシングを担当し、金融機関、ファンド、買い手企業候補等と多数のネットワークを構築している。
◆菊池 諒介(きくち・りょうすけ)
プルデンシャル生命保険株式会社 東京第三支社
コンサルティング・ライフプランナー
公認会計士
1級ファイナンシャルプランニング技能士
2010年公認会計士試験合格。約3年間の会計事務所勤務を経て、「自身の関わる人・企業のお金の不安や問題を解消したい」という想いで2014年、プルデンシャル生命にライフプランナーとして入社。MDRT(下記参照)5年連続入会の他、社内コンテスト入賞や長期継続率特別表彰など、表彰多数。2016年より会計士の社会貢献活動を推進するNPO法人Accountability for Change理事に就任。公認会計士協会の活動として組織内会計士協議会広報専門委員も務める。趣味はフットサル、カクテル作り、カラオケなど。
MDRTとは
1927年に発足したMillion Dollar Round Table(MDRT)は、卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織です。世界中の生命保険および金融サービスの専門家が所属するグローバルな独立した組織として、500社、70カ国で会員が活躍しています。MDRT会員は、卓越した専門知識、厳格な倫理的行動、優れた顧客サービスを提供しています。また、生命保険および金融サービス事業における最高水準として世界中で認知されています。
個人ページ:https://mylp.prudential.co.jp/lp/page/ryosuke.kikuchi
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File1:税理士法人ブラザシップ代表・松原 潤氏① ② ③(全3回)
File2:ユニヴィスグループ代表・森 陽平氏【前編】 【後編】
File3:RSM汐留パートナーズ株式会社代表取締役社長CEO・前川研吾氏&同税理士法人パートナー・長谷川祐哉氏① ② ③(全3回)
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