藤原 靖也
(和歌山大学経済学部准教授)
【編集部から】
今日から7月となり、本試験も間近に迫ってきましたね。
受験生の中には、緊張や不安でたまらないという方もいらっしゃるかと思います。
特に、会計科目(簿記論・財務諸表論)の受験生は、「税理士試験自体がはじめて」という方も多く、なおさらそうかもしれません。
そこで今回は、会計科目の受験生の皆さんの直前期の不安を少しでも取り除くことができるよう、和歌山大学経済学部准教授の藤原 靖也先生にアドバイスをいただきました。
藤原先生は、日商簿記1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格され、現在は研究活動を行いながら、ご自身の経験を活かして受験指導にも力を入れられています。
直前期の今だからこそ知っておきたいお話が満載です!
私は直前期に思い悩む初学者の方をたくさん見てきました。
難しい問題を引っ提げて「この論点がわからないので教えてほしい」といった、学生の方からの相談にも数多く乗ってきました。
直前期に不安になる気持ちは、痛いほどわかります。
とはいっても、私は直前期になると、基本的には難しい問題は教えないようにしています。特に初学者の方には「それよりもやることがある」とアドバイスすることが多いです。
では何をすればいいのでしょうか?
直前期に取りかかるべき教材の1つに、会計人コースBOOKS『税理士試験 直前予想問題集』があります。問題のバランスが非常によく、本稿で紹介する「取捨選択」と「時間配分」を身につけるのに適しています。
本稿では、こちらの『税理士試験 直前予想問題集』を使って、税理士試験簿記論・財務諸表論に合格するための“解答戦略”をお話しします。
直前期こそ原点に立ち戻ろう
まず合格の法則をお伝えするならば、「基本問題+α=合格」です。これは揺るぎません。
「基本問題」とは、いわゆるA論点のことです。どのテキストにも載っており解けなければならない問題をいいます。
一方で「+α」とは、いわゆるB論点・C論点のことです。少し応用的な論点を指します。私は、基本問題に上乗せして解くべき問題のことを、こう表現しています。
この「基本問題+α=合格」という法則を常に意識しておくことは、税理士試験の簿記論・財務諸表論で合否を分けるほど重要です。
問題の分量が多く制限時間内に解ききれないなかで合格点に達するためには、「基本問題」をもれなく解き、少しレベルの高い「+α」を上乗せするというスタンスで試験に臨みましょう。
大事なのは、難しい問題をいくつ解けたかは合否に直結していないということです。盤石な基礎が合否を決します。
直前期は焦りがちですが、まずは原点に戻ってほしいと強く思います。
「取捨選択」と「時間配分」
「インプットを十分にしたはずなのに、直前期になかなか点数がついてこない!」という方や、問題の分量の多さに圧倒され、頭が真っ白になる方もいらっしゃると思います。
その原因は明らかで、解答戦略が定まっていないだけです。巷でよく言われる「取捨選択」と「時間配分」ですね。
ここで強調しておきたいのは、実力が足りていないわけではないということです。効率的に解くスキルを少しだけ身につければ、点数は飛躍的に上昇します。
取捨選択=「問題のランク付け」
「取捨選択」とは、捨てることではなく目安をつけることです。「問題のランク付け」と言い換えてもよいでしょう。
これに慣れるために、まずは日商簿記2級・1級あるいは専門学校の簿記論・財務諸表論(計算)のテキストを横に置き、『直前予想問題集』の問題文をすべて読み、問題にランクを付けてみることをお勧めします。
『直前予想問題集』の問題のなかに、テキストの例題そのまま、あるいはそれに近い問題はありませんでしたか? 逆に載っていない問題はありませんでしたか?
・テキストに例題として載っている基本的な設問=「A論点」
・類題は載っているが時間がかかる/少しひねった設問=「B論点」
・類題も載っていない/難解な設問=「C論点」
このように問題文と対話して問題をランク付けすることが、解答戦略を立てるためには重要です。これを繰り返して慣れることで、解答のスピードアップができるようになるでしょう。
時間配分=「解く順番を決めること」
「時間配分」は、「解く順番を決めること」と言い換えましょう。
A論点→B論点→C論点の順に解答時間を振り分ける作業のことです(時間切れになるようであればC論点から捨てていきます)。
例として、以下を見てください。私が令和3年度版『税理士試験 直前予想問題集 財務諸表論』の「学者×実務家コラボ模試」の第3問を10分間で解いたときの下書きの一部です。
そのうえで、解答した箇所は以下のとおりです。
私が真っ先に解いたのは、すべて基本問題(A論点)です。そのなかでも、以下の特に計算量の少なく解答箇所が多い問題を狙って解きました。
・賞与引当金:基本中の基本(賞与引当金繰入額を含めて2ヵ所うまる)
・現金及び預金:日商簿記2級の基礎(「長期性預金」も解答可能で2ヵ所うまる)
・破産更生債権等:1つしか出てこない(貸倒引当金関連を含め3ヵ所うまる)
・ソフトウエア:基本中の基本(販売費及び一般管理費の内訳を含め3ヵ所うまる)
解答までに10分しか使っていません。しかし、これらの解答箇所のみで10点くらいは取れているはずです。
点数は難解なところだけではなく、勘定科目の金額が動く箇所に振られます。だからこそ原点に戻って基本問題を解ききれるか、上乗せする論点は適切かを判断することが重要です。インプットが一通り終わった皆さんならできると思います。
合格の王道とは
そもそも私は、試験勉強において完璧などなく、むしろみんな“時間切れ”で本試験を迎えるものだと思っています。
だからこそ直前期には、基本問題の取りこぼしはないかをしっかりとチェックし、自分と向き合ってください。あまりにも難しい問題にのめり込む必要はありません。
大事なのは、合格点に達することです。盤石な基礎が合否を決する。そのためには、基本問題(いわゆるA論点)を完璧にしてください。実は、税理士試験の会計科目は基本問題が圧倒的に多いです。基本問題を制する者が合格します。これが、合格の王道です。
【執筆者紹介】
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。
中央経済社編
定価:2,640円(税込)
発行日:2021/04/13
B5判 / 244頁
ISBN:978-4-502-38441-7
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中央経済社編
定価:2,640円(税込)
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