
2024年1月から新NISAが始まり、読者の方の中にも証券会社に口座を開いて、新たに株式投資に取り組んだ方もいらっしゃるのでは。投資に際して企業の経営状況を正しく理解するためには、財務諸表の理解と分析が欠かせませんし、自社の経営戦略を考えるうえでも同様です。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の数字を読み解くことで、企業の収益性や安全性、成長性を見極めることができます。
本連載では、中央大学商学部で教鞭を執っている中村亮介教授に、財務諸表分析の基本から、実践的な分析手法までをわかりやすく解説してもらいます。財務諸表の数字をどう活用すればよいのか具体例を交えながら解説してもらい、資産運用にも役立つ知識を提供します。
中央大学教授・中村亮介
一度だけ、テレビに出たことがあります。
それは、大学の友達とニューヨークに観光に行った十数年前です。
タイムズスクエアでは、大晦日に年越しのカウントダウンが行われます。当初はそれにわれわれも参加しようとしたのですが、どうやら人が多すぎて数時間身動きできず、トイレにも行けないという噂を耳にし、断念しました(私は頻尿)。
その代わり、アメリカの年越しの十数時間前に、日本時間にあわせたカウントダウンがタイムズスクエアの同じ場所で行われると聞きつけ、それに参加しました。
そのイベントは、ほどよい人だかりで、日本のテレビ局のカメラもいました。これを見てテンションの上がった私は、事前に露店で買った自由の女神のヘッドバンドと、「2010」をかたどったサングラスをかけ、日本のテレビクルーに突っ込みました。
首尾よくインタビューを受けた私は、「KINGA SHIN-NEN!KINGA SHIN-NEN!」と何度も絶叫し、これが日本のテレビで何度か流れました。
後に、実母にこのニュース動画を自慢げにみせたら、
「日本の恥」
と言われました。
そこまで言わなくても…。

さて、2回にわたって企業価値の分析について説明しています。今回は、配当にフォーカスした分析指標を紹介します。
配当性向
配当金の支払額を損益計算書の親会社株主に帰属する当期純利益で割った指標で、以下の式で求められます[1]。

もしくは

この指標は、高いほどよいと考えるべきでしょうか。
仮に当期に稼いだ額が株主に配当されなかった場合、内部留保された資金は、そのまま留保されるか、再投資されることになります。投資機会が少ない企業であれば、企業内に資金が留保される可能性が高まり、配当をしてもらった方が望ましいと株主は考えるかもしれません。つまり収益性の高い投資機会に恵まれていない企業においては、配当性向が高いほうが望ましいと考える株主が多いでしょう。
一方で、投資機会に恵まれた企業であれば、再投資してもらったほうが、将来、より多くの利益を還元してもらえるでしょうから、配当性向は低いほうが望ましいと考える株主が多いでしょう。
このように、企業の置かれた状況によって「望ましい」配当性向は異なります。したがって、この指標は単純に「高いほうがよい」とか「低いほうがよい」と言えないのです[2]。

マクドナルドの配当性向は以下のようになります[3]。なお、ここでは他の財務指標との整合性を考慮し、連結ベースの親会社株主に帰属する当期純利益を用いて計算します。

株主資本配当率(DOE)
配当性向は、分母の当期純利益がマイナスになると計算ができなくなってしまいます。そこで、利益よりも比較的安定している株主資本を分母とした、株主資本配当率が重要指標として使われることがあります。

マクドナルドの2024年度末の配当総額が6,514百万円だとすると、株主資本配当率は以下のようになります。

配当利回り
1株当たり配当額を株価で割った指標で、以下の式で求められます。

もしくは

配当は株主への出資の見返りであり、銀行預金に対する利息に相当すると考えると、配当利回りは、利子率に相当します。ただし、配当と株価は変動するので、このリスクを考慮して意思決定を行わなければなりません。
マクドナルドの2024年12月末時点の株価が6,190円だとすると、配当利回りは以下のようになります。

キャピタルゲインとインカムゲイン
株式投資による利益は、キャピタルゲインとインカムゲインに分けられます。キャピタルゲインは株価の上昇によって得られる利益であり、一般にはその資産を売却した際の値上がり益を指します。インカムゲインは株式を保有することで得られる利益、具体的には配当のことを指します。
株式投資の意思決定は、この2つの利益を最大化させるように考えるとよいでしょう。
さて、前回と今回紹介した企業価値分析の指標のうち、ROE以外を整理すると、キャピタルゲインに関係する指標とインカムゲインに関係する指標に分けられます。前回紹介したPBRとPERは、現在の株価水準を評価し、将来のキャピタルゲインを考える際の参考となる指標です。一方、今回紹介した配当性向、DOE、配当利回りは、主としてインカムゲインに関係する指標です。

配当利回りを例にすると、同じ100の株価のA社の配当利回りが1%、B社の配当利回りが2%だとします。この限りではB社に投資するほうが、インカムゲインを得られると考えるでしょう。しかし、B社の株価が50に落ちると、キャピタルゲインが△50となり、B社への投資による損益は△48になってしまいます。A社の株価が100を維持しているならば(つまりキャピタルゲインは±0)、A社への投資による損益は1となり、A社に投資しておけばよかった、という結果になります。
このように、キャピタルゲインとインカムゲインを総合して株式投資をする必要があり、そのためには複数の財務指標を勘案して意思決定を行わなければならない、ということになるのです。「複数の財務指標」は、ROEなど株価・配当を含まない指標も含みます。

まとめ
・配当性向は、企業が稼いだ利益のうち、どの程度を株主への配当に回しているかを示す指標です。
・望ましい配当性向は企業の投資機会などによって異なるため、単純に高いほうがよい・低いほうがよいとはいえません。
・DOE(株主資本配当率)は株主資本に対する配当の割合、配当利回りは株価に対する1株当たり配当額の割合を示します。
・株式投資から得られる利益には、株価の値上がりによるキャピタルゲインと、配当によるインカムゲインがあります。
・株式投資意思決定の際には、PBRやPERなどの株価に関する指標と、配当性向、DOE、配当利回りなどの配当に関する指標を組み合わせて総合的に分析することが重要です。
財務指標の紹介は今回で終了です。次回以降は、実際の企業を取り上げて分析を実践します。



(参考文献)
石川博行(2010)『配当政策の実証分析』中央経済社。
中村亮介・木村晃久編著(2026)『全商財務諸表分析検定試験テキスト(第2版)』実教出版。
[1] 上場企業では、配当金は通常、個別財務諸表をもとに計算されます。なお、利益は単体の当期純利益が使われることもあります(付録のパネルBに記載された配当性向114.2%は単体ベース)。ここでは、企業グループ全体の収益に対する配当の水準を分析するため、連結の親会社株主に帰属する当期純利益を用いています。
[2] 急成長を遂げるGAFAの一角であるamazon.comも2026年現在、株主へ配当を行っていません。したがって、儲かっている企業であっても必ずしも配当を行わないケースもあるのです。こういった配当政策は、所属している国によっても異なります。日本企業は一期間の利益額に変動があっても、できる限り配当を維持しようとする配当政策(安定配当政策)を採用している傾向があります。ただし、固定化するのは配当性向ではなく、1株当たり配当金だといわれています。
[3] 企業が株主へ還元する方法として、配当のほかに「自社株買い」があります。自社株買いとは、過去に市場に対して発行した株式を自らの資金で買い戻すことです。これによって発行済株式総数が減少するため、1株当たり当期純利益(EPS)が高まる効果が期待されます。また、株主資本の金額が小さくなりますので、ROEの改善につながる場合があります 。この自社株買いの金額を配当性向の分子に合計したものが、総還元性向と言われる指標です。
<著者紹介>
中村亮介(なかむら・りょうすけ)
中央大学商学部教授。一橋大学大学院博士後期課程修了、博士(商学)。
『財務制限条項の実態・影響・役割―債務契約における会計情報の活用―』(2018年、共著、中央経済社)で日経・経済図書文化賞、日本経済会計学会学会賞受賞。そのほか、『全商財務諸表分析検定試験テキスト』(2024年、共著、実教出版)、『財務・非財務報告のアカデミック・エビデンス』(2025年、共著、中央経済社)など、著書・論文多数。
イラスト作成:おたまるこ
子育て支援誌の編集兼イラストレーターを経て、現在は動画用漫画や販促用漫画の制作に携わる。 インスタグラム(@otamaruko)で漫画を連載中。
【過去記事はこちらから】
【第1回】「財務諸表分析」って何をするの?
【第2回】 連結財務諸表の種類と入手方法
【第3回】財務諸表分析の方法と対象企業の選び方
【第4回】連結貸借対照表とは
【第5回】連結損益計算書とは
【第6回】連結株主資本等変動計算書と連結キャッシュ・フロー計算書
【第7回】収益性の分析① 資産利益率
【第8回】収益性の分析② 収益利益率と資産回転率
【第9回】収益性の分析③ 資本利益率
【第10回】安全性の分析① 短期の安全性(その1)
【第11回】安全性の分析② 短期の安全性(その2)
【第12回】安全性の分析③ 短期の安全性(その3)
【第13回】安全性の分析④ 長期の安全性
【第14回】 収益性・安全性の分析のまとめ
【第15回】企業価値分析の基礎
【第16回】企業価値分析① PBRとPER





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