【連載】簿・財「独学」合格者の大学教員が月イチアドバイス~過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!


藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)

【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!

2024年、いよいよ皆さんが受験する年になりました。本連載が皆さんの合格に微力でもお力になれれば幸いです。

さて、今回は「過去問対策について」です。

1月の今こそ過去問に当たるために最適な時期だと思います。

ある程度インプットが進み、何が何だか分からなかった本試験問題の難易度や傾向・分量などが具体的に理解できる頃であるはずだからです。

今回は「過去問を用いてこれからの学習にどのように活かすべきか」を考えてみましょう。

<今月のポイント>
・インプットがある程度進んだ今こそ、「過去問」を解こう!
・過去問は、その活用目的によって様々な利用の仕方ができる!
・有効活用するためにも、「過去問対策とは何か」を理解したうえで、合格に向けて着実に進もう!

過去問対策とは何をすることか

過去問は簿・財の実際の問題に触れることができる唯一無二の教材です。

とりわけ税理士試験の簿・財はほかの簿記・会計の試験とは少し異なる癖があります。実際の本試験問題をうまく活用しない手はありません。

ただ、意外なことに、過去問を有効活用できていない方が多いです。特に貴重な情報源である過去問を流し見するだけでは、非常にもったいないです。

そのためにも、まず過去問対策とは何をすることかを確認しておきましょう。

過去問対策とは、「本試験ではどんな問題が出題されているかを知り、本試験に対応するためには現在の実力とどの程度の隔たりがあるのかを確認し、自らが抱える課題を炙り出すことで、合格の可能性を高めるために行うもの」です。

過去問を活用して何ができ、何をすべきか

過去問を最大限に活用するためには、どんな目的で活用するのかを明確にすることが極めて重要です。

少なくとも過去問は以下のことに用いることができます。

  1. 出題傾向・出題論点を知る
  2. 個別論点の得点力を高める
  3. 総合問題への対応力を確かめる
  4. シミュレーション(予行演習)をする

そして、目的により過去問をどのように取り扱うべきかは異なります。

例えば、「何年分の過去問に当たればよいのか」・「最新年度の過去問から遡るべきか、どうか」「過去問を解くならば全問を通して解くべきか」・「その際の制限時間はどうすべきか」といったことです。

では、次からは具体的に過去問対策としてどんなことができるか、あるいはすべきかを見ていきましょう。

1.「出題傾向・出題論点を知る」ために用いる

インプットがある程度終わったのちに過去問を見ると、簿・財の出題論点や解答要求事項がよく分かると思います。良く分析しましょう。必ずこれからの糧になってくれます。

また、その根底にある出題の趣旨は、国税庁のホームページ上で開示されています。必ず確認しましょう。貴重な情報源です。

なお、税理士試験の試験傾向も出題される論点もその出題方式も、時代や会計基準の変化とともに変わっています。例えば財務諸表論の理論問題の出題形式も十数年前までの個々の会計基準中の文言の穴埋め・記述を主とした形式から、分野横断的な出題へと変わった印象を受けます。

よって、「知る」という目的で過去問を活用するならば、なるべく新しい年の本試験問題を用い、最新年度の問題から遡って出題論点等を分析すべきです

2.「個別論点の得点力を高める」ために用いる

これは、本試験問題から個々の論点を抜き出し、「自分の持っている知識をどの程度得点に変えることができるか」を確かめるために活用することです。
言い換えれば、本試験問題をまるで個別問題集のように活用する方法です。

これはアウトプットの初期に試してほしいことです。せっかく学習した個々の論点に係る知識を得点に変えることが出来なければ、当然ながら合格できないからです。

この場合、あくまでも対応できるかに力点を置き、過去問を論点ごとにバラバラにして活用するのがベストです。現行基準が通用する問題ならば何回目の試験かは関係ありません

また、レベル感を体感することが目的ですから制限時間も設けないほうがベターです。その問題に対応できるか、対応できなかった場合は何が足りなかったのかに重きを置きましょう。

例えば簿・財の試験で頻出の売上債権に関する計算問題1つをとっても、正答を導くための手数や得点のしやすさは毎回異なります。

各年の本試験問題によって同じ勘定科目でも得点のしやすさは違うこと、このような出題形式ならばどれだけの手数がかかるかを体験することも過去問対策です。

「これに手を出していては時間が足りなくなる」という感覚も、ほかでもない今、体感しておいて欲しいことです。この感覚は、必ずこれからのアウトプットの指針になってくれます。

3.「総合問題への対応力を確かめる」ために用いる

これは、「2時間という制限時間内で本試験問題にどれだけ対峙できるか」を体験するために活用することです。アウトプットに慣れつつある頃に行うと効果的でしょう。

この場合は、なるべく直近の問題を用い、そのすべてを通して解くことが望ましいです。制限時間は必ず設け、形式に慣れるためにも解答用紙に書き起こしましょう。

本試験問題を上手に点数に変えることは合格のためには避けては通れないですが、実際に行うのは至難の業です。とくに制限時間がある中で解こうとすると勝手が全く変わります

とりわけ簿・財の問題を解くにあたっては、時間配分と取捨選択が必須です。しかし、これらの力を付けるためには相当な時間がかかります。

1月時点で上手にできなくとも構わないと思いますが、アウトプット力がしっかりと付いているか、を確かめるためにはこの方法が最適です。

4.シミュレーション(予行演習)をする

最後は、試験をクリアするためのイメージを膨らませるために行うものです。「こういう問題ならば、ここからこう解いていく」という道筋を即座に見分け、本試験でもこれまで培ってきた力を発揮するために行うものです。

この目的で行うのは、今ではなく直前期になると思います。ただ、最後に行うイメージ・トレーニングは重要です。何よりも例えば「緊張してうまく解けなかった」、といったメンタル面からのミスや焦りを防いでくれます。

過去問を有効活用しつつ、合格に向け着実に進もう

過去問の活用方法については様々なことが言われていると思います。これは、個々人が置かれている状況や、進捗状況等が違うからです。どれも間違いではないと思います。

ただ、過去問は試験合格には切っても切り離せません。先に触れてきた使い方の他にも、本試験独特の表現に慣れる必要もあります。

過去問は色々な使い方ができますし、使い方によっては想像以上に多くのことを学ぶことができます。

せっかくの過去問を最大限に活用しつつ、本試験に向けて克服すべき弱点を洗い出しながら、着実に合格に向けて進みましょう。

〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)

和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。

<本連載バックナンバー>
第1回(9月掲載):会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!
第2回(10月掲載):何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!
第3回(11月掲載):基礎期の「間違った箇所」は、絶対に見逃さないように!
第4回(12月掲載):モチベーションを維持するために心掛けてほしいこと
第5回(1月掲載):過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!
第6回(2月掲載):長い問題文の中で「どこがA論点なのか」を見抜く力を養おう
第7回(3月掲載):「どの問題に、どれくらい時間配分するか」判断力を養おう
第8回(4月掲載):自分なりの解答アプローチを身に付けるために試行錯誤しよう!
第9回(5月掲載):本試験に対する「不安」とうまく向き合うには
第10回(6月掲載):直前期の学習スタンスとして心がけたいこと
第11回(7月掲載):「今は自信をつける時期」という意識で学習を続けよう!


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