【税理士を目指すなら】簿記検定を勉強する? しない? 現役税理士が伝える「選択」のヒント  


税理士 梨井 俊


【編集部から】
令和4年度税制改正大綱では、以下のように「税理士試験の受験資格要件の緩和」が公表されました。

税理士試験の受験資格について、次の見直しを行う。
① 会計学に属する科目の受験資格を不要とする。
② 大学等において一定の科目を修めた者が得ることができる受験資格について、その対象となる科目を社会科学に属する科目(現行:法律学又は経済学)に拡充する。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日から施行する。

従来、税理士試験を受験するにあたっては、「学歴」による受験資格や「職歴」による受験資格がない場合、「資格」による受験資格として、日商簿記検定1級や全経簿記検定上級に合格する必要がありました。

しかし、そんな受験資格が見直されることとなった今、気になるのは、税理士を目指すにあたって簿記検定を勉強したほうがよいのかどうか。

もちろん、受験資格の有無にかかわらず簿記検定に合格してから税理士試験に進む方が多いと思いますが、最初から税理士試験にチャレンジすることも不可能ではありません。

そこで今回は、税理士に興味のある方に向け、これからの学習の進め方を考えるヒントとなるよう、大手専門学校の税理士講座で講師も務める税理士の梨井俊先生にアドバイスをいただきました。


簿記検定の知識が税理士試験の役に立つ!

一般的に「簿記検定に合格してから税理士試験の会計科目へ」とは、よく言われることです。

それは、試験範囲で重複している部分があるのはもちろん、従来の受験資格の関係から「大学卒業見込みまでは簿記検定の勉強」 というように、まず簿記検定の学習をして自身の興味関心がどこにあるのかをじっくり見極め、そのうえで「税理士試験に挑戦するのか、それとも他の資格か、または別の道か」 と次のステップを考える方が多いからです。

実際に私も大学入学当初、大学内で受講できる簿記検定のオプション講座から簿記検定の学習を始めました。

公立高校の普通科を卒業し、簿記に触れる機会もなかったため、「簿記ってそもそも何?」というところから学習はスタートしました。

簿記検定と税理士試験の会計科目との学習内容は重複している部分も多く、「簿記検定の勉強をしたことがその後の税理士試験の勉強に役に立った」のは事実です。

具体的にどこが重複しているのかというと、

  • 日商簿記3級:簿記一巡の流れ・経過勘定項目・金銭債権の基本処理
  • 日商簿記2級:上記3級の範囲に加え、有価証券・有形固定資産・リース会計など

です。 このあたりは、先に簿記検定の学習をしていると、税理士試験における導入部の難しさもいくらか軽減されると思います。

さらに2級では特殊商品売買、外貨建取引、純資産会計の基礎といった実務上そこまでなじみのない論点についても触れるため、やはり「簿記検定の知識が税理士試験の勉強の役に立つ」といえます。

とはいえ、もう1つの考え方もあります。

「はじめから税理士試験」も1つの選択肢

もう1つの考え方。それは「税理士を目指すなら、はじめから税理士試験」です。

「簿記検定から始めるのは、むしろ時間がもったいないのでは?」という意見もあります。

私自身も、いきなり税理士試験の学習に進むのも、1つの選択肢だと感じています。理由としては、

  • 重複しない学習内容もある
  • 受験資格が緩和され会計科目が受験しやすくなる

といったところです。

簿記検定の学習を経験した方に比べると各項目の導入理解に多少の息苦しさは感じるかもしれませんが、そこを乗り越えれば、税理士試験の合格につながる深度まで学習をすばやく進めることができます。

税理士試験に必要のない項目の学習に時間を使うこともありません。受験資格が緩和されるのであれば、なおさら、より早い時点から税理士試験合格のための準備ができるのです。

また、試験対策という観点で話すと、相対試験である税理士試験ではよりシビアに「解答スピード」が求められ、会計処理を「暗記」するだけではなく「理解」することも必要になります。

「ここの数字をここに飛ばす」ではなく、「こういった場合に、ここの数字をここに飛ばす」としっかり理解していないと、税理士試験では合格ラインになかなか届きません。

実際に私も「簿記検定の学習が役に立ったのは事実」ではありますが、そもそも学習しただけで3級にも2級にも合格していません。大学入学後、学生気分のまま“適当に”講座に参加していただけです。

いま振り返ると、簿記検定を学習していた時点では、各項目の名前だけ聞いても処理の意味や効果は一切理解できていなかったと思います。税理士試験の勉強を“本気で”進めていくなかで、ようやく「知識」に変えることができた印象です。

もちろん今でも知識が十分かと問われると疑問ではありますが、税理士として働くなかで、それがどの勘定科目や表示科目なのか、少なくとも「資産の部なのか費用の部なのか」「負債の部なのか純資産の部なのか利益の部なのか」と迷うことが少ないのは、税理士試験の学習のおかげだと思っています。

簿記検定に合格するメリット

現在、簿記検定をしっかり学習して合格するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 「簿記検定合格」という成果物が残る
  • 税理士試験の会計科目では学習しない工業簿記の知識が手に入る
  • カリキュラム上、一通りの学習を終えるまでの期間が短い。

これらは、「税理士試験に短期で合格するため」というより、「長期的に学習を続けるにあたってモチベーションを維持するため」、「就職・転職を有利にするため」というイメージが強いです。

実際に、受験資格に税理士試験のような制限がない公認会計士試験では、短答式試験の受験後、合格発表を待つ期間で、論文式試験と対策と並行して簿記1級を受験する方も多いです。これも「力試し」や「履歴書に書きたい」といった理由を挙げる方が多いですね。

最後に

学生時代は簿記初心者だった私も、今では税理士として「仕訳」「試算表」「元帳」といった専門用語を目にする毎日を送っています。

税理士という資格や仕事に対するネガティブな意見やニュースを耳にすることも多いです。大変なときも、つらいときも、もう税理士を辞めたいと思ったことも一度や二度ではありません。

それでも税理士という仕事は楽しく、これといった後悔もしていません。むしろ他の仕事では、これほど自由に休みを取ることもできなかったでしょうし、ここまでお客さまに感謝の言葉をいただけることもなかったのかな、と感じています。

これから税理士試験の受験資格も緩和され間口も広がっていきます。

いま税理士に興味のある方は、税理士試験を「第一希望」として最初からまっすぐ向かっていくのも選択肢であれば、簿記検定など他の学習を経験しながら向かっていくのも選択肢です。

まずは、簿記検定を税理士試験のために学習しなければいけない「ハードル」ではなく「選択肢」の1つとして、自分の目標や将来を考えてみてください。

【執筆者紹介】
梨井 俊(なしい・しゅん)
税理士
大手専門学校で相続税法の講師を務めるかたわら、月次顧問を主な業務とする開業税理士。大学受験の学習塾で英語講師を8年間務めた経験から、学習法や覚える仕組みを資格試験の勉強にもあてはめ、活用法や座学と実務の違いなど、積極的に情報発信も行っている。


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