藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)
【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!
ゴールデンウイークや出願期間も終わり、いよいよ本試験が近づいてきたことを実感する時期になりました。
この時期、一喜一憂することも増えるはずです。これへの対策が上手くできるかは、合否に関わるほど重要です。その正体は何であり、どうすれば良いかを考えましょう。
<今月のポイント>
・「不安」は厄介なもので試験まで消えないし、回避できない。うまく向き合うべきものだという意識を持とう。
・日々の学習を通じて「自分なりの解答アプローチ」を身につけることは、解き方のほかに、不安への対抗手段を身につけるという大きな目的がある。
・これから気をつけたいのは、枝葉末節ばかりを追いかけて余計に不安になること。簿記・会計の学習は「積み上げ式」だから、基礎から応用的な論点までが積み上がっているのかを確かめることが何よりも大事。
「冷静に解く難しさ」の正体は”不安”
ここまで学習を続けてきた皆さんなら、答練や模試の問題と向き合ったとき「手も足も出ない問題ばかりだ」という感覚はあまりないと思います。ある程度、取れる箇所はあるはずです。
この問題は後回しにしようという取捨選択や、問題全体を見てこの問題にはこれだけの時間をかけようという時間配分も練習すればある程度はできるようになっているはずです。
それなのに、冷静に問題を解き、点数を重ねる難しさも実感しているはずです。時にはスランプに陥ることもあるでしょう。
このように、受験生の誰もがインプット〜アウトプットを繰り返す中で、「問題が解ける・解けない」とは別の面で、様々な困難に直面するものです。
その正体は「不安」です。これこそが、受験の最後にやってくる、とてつもなく高い壁なのです。
不安はなくそうとするより、向き合うもの
「不安」は、放っておくと皆さんの焦りやミスを誘発し、また皆さんが普段なら持っている冷静さを奪います。また、厄介なことに頑張れば頑張るほど、増していくものです。
これに関しては、まず「不安からは逃れられないのが当たり前、みんな不安の中で勉強している」という意識を持ちましょう。
「難関試験になるほど、不安から逃れることは困難である。」
これくらいの心構えでよいと思います。逆に、今の時点で不安にならないほうが怖いくらいです。
それよりも、「不安は消えない。では、それとどう向き合うか、試行錯誤してみよう」と考え方を前向きに転換しましょう。
不安は払拭できないから自分なりの「型」を作り対抗する
本試験問題はすべて初見であり、思わぬ問題が出る可能性があるからこそ今から対策を考えておいてほしいのです。だからこそ、今から対策を考えておいてほしいのです。
その方法は人それぞれかもしれません。ただ1つ言えるのは、不安を超えるだけの心の余裕が対抗手段として必要である、ということです。
この点、特に直前期に試行錯誤し、自分なりの解答アプローチを身につけてほしいと先月号の最後に書いたのには、明確な理由があります。
自分なりの試験への挑み方や解答アプローチができてくると、心にも余裕ができます。この心の余裕こそが不安に対する唯一の対抗手段だからです。
ケアレスミスで悩んでいる方も、ケアできる余裕ができれば、ミスは自然と減るはずです。だからこそ、いま自分なりの「型」を作り不安と対抗する策を講じておいてほしいです。
直前期は基礎を徹底的に見直せと言われる理由
かといって、不安を払拭しようとやみくもに学習することだけはやめましょう。一番悪い学習法は、すべてを網羅しなければと些末な論点ばかりを追いかけ、あれもこれもと手を広げすぎ、余計に不安になっていくことです。これを行うと負のスパイラルに陥ります。
「直前期で伸び悩んでいる方は基礎を見直して下さい」とよく言われると思います。誰もが学んだ論点を総復習することのほうが、直前期の学習を考えるとよほど的を射ています。
これは、本連載の第1回で「会計学は積み上げ式の学問だ」という意識が重要だと書いたことと同じです。試験問題を作るにしても、試したいのは平たく言えば合格水準にまで簿記論や会計学の知識・思考の枠組みが積み上がっているかどうかです。安易なテクニックではありません。
特に応用問題は無限に作ることができますが、その基礎となる知識は有限です。そのうえで基礎を見直すという方針に首肯するのは、「基礎はどこか」に着目する癖をつけると、A論点を取り切る力が向上し、心にも余裕が芽生えてくるからです。
うまく不安に対抗できる解答アプローチを会得するまでのプロセスは本当に苦しいのですが、日々の学習を通じて徐々に身につけましょう。それが合格を呼び込んでくれるはずです。
念を押しますが、重点的に確かめるべきは枝葉末節ではないことには、くれぐれも気をつけてください。
最後に:もし、自分なりの解答アプローチがうまく作れないなら
自分なりの解答アプローチが身につかない場合、基礎の総復習を徹底的にしてみましょう。どこかに抜けがあると取捨選択や時間配分に狂いが生じ、「型」を上手く作れない可能性が高いからです。
その際、新しい教材を使って補うべきどうかは、人それぞれでよいと思います。教材は手段ですし、それも自分なりのアプローチです。
具体的には、完璧に積み上げるべき基礎部分が仕上がっているかにつき自分で説明できるかを確かめてみてください。
たとえば、帳簿組織とはどのようなものか、本支店会計・連結会計において未実現利益の消去をなぜ行うのか、そもそも簿記一巡の手続きとはどのようなものか、といった基本的なことです。真正面から問われると意外と完全に説明できる方は少ないのではないでしょうか。
簿記・会計の試験では、絶対に外せない論点があります。もし問題が上手く解けないなら、また焦りや不安を感じるなら、ぜひ試してみて下さい。
〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。
<本連載バックナンバー>
第1回(9月掲載):会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!
第2回(10月掲載):何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!
第3回(11月掲載):基礎期の「間違った箇所」は、絶対に見逃さないように!
第4回(12月掲載):モチベーションを維持するために心掛けてほしいこと
第5回(1月掲載):過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!
第6回(2月掲載):長い問題文の中で「どこがA論点なのか」を見抜く力を養おう
第7回(3月掲載):「どの問題に、どれくらい時間配分するか」判断力を養おう
第8回(4月掲載):自分なりの解答アプローチを身に付けるために試行錯誤しよう!
第9回(5月掲載):本試験に対する「不安」とうまく向き合うには
第10回(6月掲載):直前期の学習スタンスとして心がけたいこと
第11回(7月掲載):「今は自信をつける時期」という意識で学習を続けよう!