髙橋 創
最近、俄然脚光を浴びているのがテレワーク。うちの事務所でも緊急事態宣言の間は出勤調整をし、その期間は原則としてテレワークを導入しています。会計事務所におけるテレワークには色々な問題があると言われていますが、今回のような事態ではそんなことも言っていられません。
みんなどうやって集中力を維持しているのだろう
テレワークを始めるときには色々心配事はあったのですが、今のところは大きなトラブルもないように感じています。問題があるとすれば、すぐにパソコンの前を離れて布団に向かってしまうことくらいでしょうか、私が。人目がないところで自分を律するのはホント難しいもんです。
そんな中、スタッフたちは果たしてしっかり頑張れているのだろうか。私と同じようなことになってしまってはいないだろうか。そんなこともたまに気になったりもします。テレワークでもちゃんと管理している会社も多いと思いますが、うちはもう野放しですので。
そこでちょっと思い出したのが、スタッフに支払う給料を経費にする場合には「ちゃんと勤務実態があるかどうか」が問われることがあるということ。タイムカードなどがあればわかりやすいのでしょうが、完全に自己申告のうちのような場合には不明確になりがちです。
勤務実態がない架空人件費は脱税の王道
税金を減らすために小狡い経営者がよく考えるのは架空人件費の計上です。
架空の従業員をでっち上げてその人に給料を支払ったことにすれば経費は増えますし、そのお金はひっそりと自分のポケットに入れられます。そのためには努力を惜しまない方も多く、過去の裁判例では、給料を支払った根拠として給料袋、タイムカード、履歴書、源泉徴収票などまで用意している人もいました。完全犯罪への並々ならぬ意欲を感じます。
しかしこの作戦は、元の経理担当者の証言によって崩されることとなります。証言によってこの給与に関して調査がされ、架空の勤務実態や給与の計上が明るみにでました。そうなれば、もうこの給与は経費とはなりませんので追徴課税が発生し、嘘をついた分だけ重い罰金も課されます。どんなに証拠を整えたところで、そのことを知っている人が口を割ってしまえば台無しです。悪が栄えるためしはあまりありませんので、後ろ暗いところのないようやっていきたいものです。
さて、テレワーク。勤務をしているかどうかの実態を把握するのが難しいことを考えると、それを逆手にとって税金逃れに使おうとする方も出てくるものと推測されます。そういうところにもしっかり手当をしていかなければならないんでしょうが、私はまず自分を律しないといけないですね。
〈執筆者紹介〉
髙橋 創(たかはし・はじめ)
税理士
税理士講座の所得税法講師、会計事務所勤務を経て、新宿で独立開業。新宿ゴールデン街のバー・無銘喫茶のオーナーでもある。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』、『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(ともに中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本 19-20年版』(ナツメ社)がある。YouTubeで『二丁目税理士チャンネル』を運営中。
※ 本稿は、『会計人コース』2020年7月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。
記事一覧
第1回:家族旅行を経費にしようとしてはいけません
第2回:絶妙な言い訳なのか、苦しい言い訳なのか
第3回:世の中は「原則」と「特例」だけでできている?
第4回:悩み多きユーチューブ
第5回:有名人の話は妄想がはかどります
第6回:タイミングは大事というお話
第7回:I Love サンゴ礁
第8回:「ごめんなさい」で許される?
第9回:税金もウイルスには勝てないようです
第10回:おしゃれオフィスに引っ越したいけれど
第11回:テレワークの最大の敵は布団
最終回:次は酒場でお会いしましょう