【連載】社労士事務所のAI活用ガイド~第5回:実務パターン(OK/NG比較)


【編集部より】
生成AIの発達が目まぐるしい現在。社労士事務所ではどう活用できる?本連載では、『社労士事務所のDXマニュアル』(中央経済社)著者で、デジタル士業®×資格ソムリエ®の林雄次先生にやさしく教えていただきます。

第1回はコチラ
第2回はコチラ
第3回はコチラ
第4回はコチラ

はじめに

今回は、社労士の現場でよくみられる三つの場面を取り上げ、生成AIの“よくある失敗”と“使える仕上がり”を対比していきます。

ポイントは単に文体の好みの問題ではなく、法的根拠の扱い、対象者(読者)への視線、そして使い続けて運用できる文章かどうかの分かれ目です。

AIは速く書けますが、それがしっかり“伝わる”とは限りません。

それでは、違いを具体的に見ていきましょう。

ケース1:就業規則の改定案—「それっぽい条文」から「運用できる改定」へ

新しい制度導入に伴い、顧問先の就業規則を改定することになったとします。

AIに「改定案を出して」とだけ頼むと、もっともそれらしく見えるのは、整った言い回しの条文案が数本並んだ文書です。

このNGパターンでは、導入の背景が語られないまま条文だけが提示され、一見するとそのまま使えそうではあります。

しかしよく考えてみると、どの条文と整合させるのか、どの付随規程を同時に直すのか、周知や同意はどう進めるのかといった運用の段取りが抜け落ちていることに気づくでしょう。

根拠も「関係法令」程度のぼかした表現に留まり、条番号や通達名は曖昧です。

読み手は“それらしい”文章に納得するかもしれませんが、中身の薄さに気付く人もいるでしょう。

結局、後で一から書き起こし、手作業で影響範囲を洗い直す羽目になります。

AIが作ったのは規則の形をした“作文”であって、事実にも実務にも接続していないからです。

OKパターン

対照的にOKパターンでは、最初に改定の理由が簡潔に説明されます。

今回の改定はいつ何が変わったことに対応するのか、対象者は誰か、現行条文のどこに齟齬が生じているのかが、関係する条番号と合わせて示されます。

続いて、改定条文案が提示されるのと同時に、就業規則全体の中で整合させるべき箇所、関連する協定や規程、周知・同意の順番、経過措置の必要性が段取りとして描かれます。

仕上げには、参照した法令名と施行期日、通達の見出しや番号が列挙され、レビューの起点が明確です。

こうなると、読み手は即座に差分を理解し、周知の準備に移れます。AIの文章が“運用可能”になる分かれ目は、条文の形の良し悪しではなく、理由・根拠・手順が一つの流れとしてつながっているかどうかにあります。

ケース2:助成金スクリーニング—「断定口調の安心感」から「前提付きの判断材料」へ

新しい顧問先から「うちが使えそうな助成金を教えてほしい」と相談を受けた場面を想像してください。

そのまま聞いたNGパターンのAI出力は、まるで営業資料のように明るい断定口調で始まります。

「該当する可能性が高い助成金はAとBです。活用しましょう。」

一見前向きで頼もしいのですが、読み進めると、要件の突合が甘く、企業規模や雇用形態、直近の措置状況などの前提が確認されないまま例示が並びます。

必要な書類の列挙も汎用的で、期限や注意点が「等」で終わる。

結局、依頼者が本当に知りたい「自社に当てはめると、どこが詰まるのか」「次に何を準備すればいいのか」に到達しません。断定の安心感は一瞬で、最初の聞き取りや資料回収のやり直しが発生します。

OKパターン

OKパターンの書き方は、むしろ控えめです。

冒頭で会社属性を前提として固定します。

従業員数、雇用形態の内訳、直近の配置転換や教育訓練の履歴、就業規則や協定の有無といった条件を仮置きし、その前提に照らす形で候補を“可能性の高低”順に提示します。

各候補の説明では「要件表のこの項目とこの項目は満たしているが、ここは追加確認が必要」「不足資料はこの二つ」「期限はいつで、社内のどの部署にヒアリングすればよい」と、次の行動に直結する書き方になります。

最後に「要件充足の最終判断は別途一次資料で確認する」「具体的な申請可能性は面談後に再評価する」と明記して、下書きの限界を示しておくと、依頼者の期待値も適切に調整されます。

AIの役割は「当て勘の断定」ではなく、「前提を固定して論点を抜き出すこと」。

その切り替えができた瞬間から、スクリーニング結果は初回面談の質疑の土台に変わります。

ケース3:ニュースレター—「知識の展示」から「行動を促す通信」へ

顧問先向けに毎月のニュースレターを配信する場面でも、NGパターンは簡単に生まれます。

AIに「最新の労働関係のニュースをまとめて」と頼むと、専門用語が整然と並んだ、どこか百科事典のような文章が出てきます。

内容は間違っていないのに、最後まで読むと、受け手は“だから自分は何をすべきなのか”が分からない。文体は丁寧でも、社内の誰に回せばよいか、何の準備が必要かが見えません。

さらに、顧問先の規模や業種に合わない一般論で語られていたりすると、他のメールに埋もれて読まれなくなっていきます。

OKパターン

OKパターンでは、冒頭のリードで今回の便りの核心を一文で言います。

今月の改正や論点が、顧問先の誰に・いつ・何に影響するのかが、最初の段落で掴めるように書かれます。

本文は、三つの要点を“見出し付きの短い段落”として展開し、それぞれに「対象」「影響」「初期対応」が自然に含まれます。

たとえば「管理職の残業上限の運用注意」なら、対象は管理監督者を含むライン長、影響は特定の時期の労働時間管理の見直し、初期対応は来月の会議体での説明と勤怠システム設定の再確認、という具合です。

文章の終わりには、受け手が具体に動ける導線が置かれます。

相談窓口、添付のチェックリスト、参考資料のタイトルと公表日、次回の配信予定。

ここまで用意されていれば、読み手は転送先を想像し、社内の担当者に手渡す行為に移れます。

ニュースレターの目的は知識の展示ではなく、顧客の社内で小さな行動を起こしてもらうこと。

AIの草稿に、読者の職種・規模・決裁フローという“現実の動線”を重ねることで、初めて成果につながります。

どこが分かれ目になるのか

前提を言語化すること

今回お伝えした三つのケースに共通するのは、NGパターンが“言葉の羅列”だけに終始しているのに対し、OKパターンは“現実の工程”に繋がっている点です。

就業規則では、理由・根拠・手順が一連で記され、助成金では、前提固定と不足情報の提示がなされ、ニュースレターでは、対象者の特定と初期対応の導線が明示されます。AIに任せるのは文の生成であっても、価値を生むのは工程設計です。

したがって、AIに投げる前の段階で、

・対象読者
・目的
・必要な根拠表示の形式
・次に起こそうとしている行動

といった、「こちらの前提」を自分で言語化しておいて、プロンプトに含めることが品質差を決めるのです。

必ずしも“綺麗な文章”を要求しないこと

また、もう一つ強調しておきたいのは、OKパターンでは必ずしも“綺麗な文章”を要求しないことです。

むしろ、過度な修辞や専門用語の多用を控え、根拠と手順といった「内容」に紙幅を割く方が、現場を動かすために役立ちます。

AIの速度と社労士の判断が出会う地点を、意図的につくっていく。

これが、生成AIを“使って良かった”という実感に変える最短ルートです。

【プロフィール】
林雄次(はやし・ゆうじ)

はやし総合支援務所代表。IT関連企業に勤務後、「はやし総合支援事務所」開業。中小企業診断士、社労士、行政書士、情報処理安全確保支援士等として企業向け支援を行いつつ、「資格ソムリエⓇ」「デジタル士業Ⓡ」としてさまざまなメディアで活躍中。僧侶の資格も持つ。保有資格・検定は約600を超える。著書に『社労士事務所のDXマニュアル』(中央経済社)、『資格が教えてくれたこと 400の資格をもつ社労士がみつけた学び方・活かし方・選び方』(日本法令)、『かけ合わせとつながりで稼ぐ 資格のかけ算大全』(実務教育出版)など。


関連記事

ページ上部へ戻る