【新連載】ざっくりわかる新リース会計基準【第1回】なぜ、新リース会計基準ができたのか?


登川雄太
(CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師)

【編集部より】
2024年9月に公表された新リース会計基準。
新聞紙上などでも大きく取り上げられるなど、現在最も注目されている会計論点の1つです。
実務への影響はもちろんですが、会計士・税理士試験、簿記検定などでも今後出題範囲となることから、その考え方は押さえておきたいところですね。
本連載では、登川雄太先生にポイントを全4回で解説していただきます。

第1回 なぜ、新リース会計基準ができたのか?
第2回 基本的な会計処理を押さえよう!
第3回 現行リース会計基準と新リース会計基準ではどこが違う?
第4回 オフバランス処理ができるケースと貸手の会計処理

ニュースなどで見聞きした方も多いと思いますが、新しいリース会計基準が2024年9月に公表されました。

そうです、近々、リース会計は改正されるのです。

日商簿記検定、公認会計士試験、税理士試験など会計に関する試験は様々ありますが、リース会計はいずれの試験でも頻出論点です。一方で、リース会計は内容が難しく、かつ、細かい規定も多いため受験生泣かせの論点といえます。

そんなリース会計がこの度改正されることになりました。実務への影響はもちろんのこと、受験生に与える影響も非常に大きいです。

そこでこの連載においては、リース会計の改正についてざっくり解説をします。この連載を見てもらえれば、概要を知ることができるのはもちろん、新しいリース会計の基本的な計算問題も解けるようになるでしょう。

※1 今回は現在のリース会計がわかっているという前提で解説をします。
※2 特に断りがない限り、借手側の会計処理を解説します。

改正のあらまし

いま現在は、2007年3月に公表された「リース取引に関する会計基準(以下、現リース基準)」が適用されています。現リース基準は、公表された当時において、国際的な会計基準と整合的なものでした。
しかし、その後、IFRS(国際財務報告基準)のリース会計基準が改正される運びとなり、2016年にIFRSの新しいリース会計基準(IFRS第16号)が公表されました。また、米国会計基準も同様に改正されました。
この結果、日本の現リース基準と国際的な会計基準との間で違いが生じることとなりました。

この違いを解消するために、2024年9月に「リースに関する会計基準(以下、新リース基準)」が公表されたのです。

今回の改正はこのような趣旨であるため、新リース基準は、IFRSにおけるリース会計とほとんど同様のものとなっています。

改正の概要

現リース基準の特徴は、リース取引をその経済的実態に基づいてファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の2つに分類する点です(以下、デュアルモデル)。
リース取引のうち、ファイナンス・リース取引に分類された場合は、売買処理を行い、リース資産とリース債務を貸借対照表に計上します(オンバランス)。
一方、オペレーティング・リース取引に分類された場合は、賃貸借処理を行います。賃貸借処理では、当期のリース料を費用計上するのみで、リース資産とリース債務は貸借対照表に計上されません(オフバランス)。このように、現リース基準では、リース取引のうち一部は、オフバランスされることになります。

一方、新リース基準では、デュアルモデルではなく、使用権モデル(シングルモデル)が採用されました。使用権モデルでは、「すべてのリースは、借手が使用権を取得する取引」とみなします。そして、取得した使用権とそれに伴う債務を負債として認識します。つまり、新リース基準では、すべてのリースをオンバランス処理するのです。

この結果、従来は賃貸借処理されオフバランスされていたリース取引も、新リース基準ではオンバランスされることになります。

使用権モデルに移行した理由

現リース基準は、「リース取引の経済的実質が、購入であれば購入として会計処理し、賃貸借であるのなら賃貸借処理する」というものであり、一見すると何も問題がないように思えます。実際のところ、IFRSも2016年までは同様の処理を行っていました。

しかし、この方法には問題点があります。それは、本来ファイナンス・リース取引に該当するはずのリース取引が、オペレーティング・リース取引に分類される懸念があることです。

ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引のどちらに分類するかは、本来、経済的実質に基づくべきですが、適用指針において数値基準(現在価値基準と経済的耐用年数基準)が判断基準の指針として定められています。これを逆手にとって、契約条件を操作することで実質的にはファイナンス・リース取引に該当するリース取引をオペレーティング・リース取引に分類させることができてしまうのです。

本来、オンバランスすべきものがオフバランスされてしまうのは問題です。そこでデュアルモデルの問題点を克服すべく、使用権モデルを採用し、リースの会計処理を一本化することにしたのです。

新リース基準の適用時期

新リース基準は、2027年4月1日以後開始する事業年度(2028年3月期)から強制適用されますが、2026年3月期からの早期適用が認められています。

公認会計士試験では、早期適用中から試験範囲になるため、新リース基準は2025年5月短答式試験以降から試験範囲に入ります(現リース基準も試験範囲)。

一方、日商簿記検定では、早期適用中は試験範囲とならない旨が公表されているため、おそらく2027年度から試験範囲になると思われます。

税理士試験の受験案内はまだ公表されていませんので、注視しておく必要があります。

【執筆者紹介】
登川 雄太
(のぼりかわ・ゆうた)

CPA会計学院公認会計士講座講師、CPAラーニング簿記検定コース講師。専門は財務会計論
1986年生まれ。慶應義塾大学3年次に公認会計士試験に合格。慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人トーマツを経て、現職。CPA会計学院では、簿記入門講義(簿記3級の内容)から公認会計士試験の財務会計論まで広く教えている。「楽しくわかる、わかるは楽しい。」をコンセプトにした簿記・会計をわかりやすく解説するウェブマガジン『会計ノーツ』を運営。

<主な著書>
世界一やさしい 会計の教科書 1年生』ソーテック社、2021年
この1冊ですべてわかる 財務会計の基本』日本実業出版社、2024年

Xアカウント:@nobocpa


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