藤原靖也(和歌山大学経済学部准教授)
【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケート結果によると、税理士試験簿記論・財務諸表論受験生には「独学」の人が一定数おり、その多くが情報の少なさから、勉強方法に対する不安を持っているようです。
そこで、本連載では、独学で税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格したご経験があり、現在は大学教員として研究・教育の世界に身を置かれる藤原靖也先生(和歌山大学准教授)に、毎月、その時々に合わせた学習アドバイスをしていただきます(毎月15日・全11回掲載予定)。
ぜひ本連載をペースメーカーに本試験に向けて正しい勉強法を続けていきましょう!
2月に入ると、うまく総合問題が解けない、得点が思ったようについてこないと悩む受験生が増えます。
特に総合問題で点数を伸ばすためには経験と慣れが必要です。かといって、がむしゃらに多くの問題をこなすだけでは点数は頭打ちになります。
成績が伸びないことで心が折れそうになる方も多いでしょう。
そこで、今回は総合問題に向き合う際に当たる壁と、乗り越える方法を考えましょう。
<今月のポイント>
・出題形式は無限にある一方、基礎となる論点は限られている。とくに、税理士試験はA論点(平易な問題)からC論点(難解な問題)までを織り交ぜて総合的な実力を試してくる。
・「どこがA論点で、どこが応用問題なのかを見抜けるか」が合否を分ける大きなポイントとなる。
・巷ではよく「取捨選択が大事」といわれるが、まずは問題を正しく読めないと身につかない。この段階で躓いている受験生も多い。
問いかけ
総合問題を解くにあたり、こんな問いから始めましょう。
Q:総合問題を一目見たとき、どれが基本を試すものであって、どれが応用的な問題であるかを見抜けますか?
インプット段階で分かっていたとしても、点数に転嫁できない、点数が伸び悩む。つまり、アウトプット段階で結果が付いてこないときは、必ず来ます。
アウトプットの際に点数が付いてこない大きな原因は、難しそうに見えて実は基本的な問題を取りこぼすことであり、また応用的な論点にのめりこみ過ぎ、答えを出せずに時間を浪費することです。
この壁こそが、「アウトプットの壁」です。
がむしゃらに問題に当たったとしても、点数の伸びが鈍化してしまう原因はここにあります。
アウトプット段階ではその壁と対峙し、乗り越えなければなりません。
問題は天が与えるものではなく、実力の程度を測るために「作られる」もの
その壁を乗り越えるにあたって、まずは忘れてはならないことがあります。
それは、本試験問題を含め、すべての問題は天から与えられるものではありません。すべて人が作っている、ということです。
本試験問題の出題形式は無限にあり、どんな切り口の問題でも作ることはできます。
会計処理の理解も逆算推定で問うたり、間違いを誘発するためにわざと判断に悩む項目を入れたりすることもできます。記号選択問題を論述問題にすることもできるはずです。
一方、9月号で書いた通り、試験合格に絞ればその基本となる知識は有限です。簿記論あるいは財務会計論の基本書、あるいは簿・財のテキストで必ず掲載されている事項です。
簿・財の試験は、一方では基本的な知識を試し、他方で論点や解答形式を応用的にして問うことで、総合的な実力を試すとともに点差が付くように問題のレベルは作問者により操作されているのです。
A論点を見抜くための「問題との対話」の重要性
これがどう「壁」を乗り越えることにつながるのか?と考える方も多いかもしれませんが、「問題は人が作るものだ」、という原点に返ることは重要です。
みなさんも、この問題で取りこぼしてはならない「A論点」はこの箇所である、という事をきっと聞いたことがあるでしょう。
「A論点」の正体は、基本的な知識から試されている問題のことです。ただ、意図的に惑わす出題にもできたはずですし、より応用的にも出題できたはずです。
応用的に問えるにもかかわらず、わざと基本的な問題としたのも、他ならぬ人です。
だとすれば、「どこで点数を取って欲しいと、この問題は語りかけているのか」を冷静に正しく受け取り解答していくことが、アウトプットでは極めて重要なのです。
これを、私は「問題との対話」と呼んでいます。
「問題との対話」で身につくこと
総合問題で点数が伸び悩む大きな原因は、「問題との対話」に慣れていないからです。
問題への正しい対応方法に慣れるためにも「総合問題に当たるにあたっては、問題・作問者とキャッチボールをする意識を持ってください。」と私はアドバイスをしています。
今解いている問題では出題者側はこの論点の分量・難易度を上げ、この部分は簡単にしたのだなというメッセージを受け取り、解答を投げるイメージです。
十分なインプットができており、一生懸命頑張っているのに成績が伸び悩んでいる方にこそ、このイメージを持ってほしいです。
「問題との対話」が上手にできるようになれば、合格にとって重要だと言われるA論点を落とさない、「取捨選択」ができるようになります。
確かに時間はかかりますが、「問題と対話」をする力を身につけ、取捨選択ができるようになりましょう。
取捨選択の会得には時間はかかるが合格には不可欠
そのためにも、騙されたと思って総合問題に向き合う際、まずは以下の3点を意識することから始めてみてください。
1.すぐに問題に取り掛からず、まずは冷静になる
2.どの論点の問題が出題されているかをざっと眺める
3.基本的な知識を試している箇所はどこかを判断する
個別問題も本試験問題を解く際のベースとして重要です。しかし「A論点を見抜く」という取捨選択は総合問題を解くことでしか身につきません。
なぜなら、それは初見の総合問題と正しく対峙した経験の積み重ねによって身につくものだからです。
ただし、取捨選択とは、決して最初から難しい問題を捨てることではありません。あくまで、解答順序を決めることだ、ということには気をつけてください。
このことの意味は、次月に掲載する「時間配分」等との兼ね合いで解説をしたいと思います。
総合問題も活用しながら、試験合格に必要なスキルや思考力を徐々に会得していきましょう。
おわりに:「A論点」を確実にとるために
アウトプットを進めるにあたって必ず言われることは、難問を後回しにすることだと思います。とくに税理士試験では平易な問題から難解な問題までを織り交ぜて出題がされます。
ならば、合格点に達するためには、「正しく」問題と向き合うことが極めて重要です。
特に簿・財では、出題論点が多い中で「どこが「A論点」か?」を見抜く力が合否を分けます。
もしもA論点が見抜けても解けなければ、インプットに戻り、本当に理解・暗記できているかを確かめましょう。
どこが基本論点を問うているかを見抜く力を養い、確実に得点できるように練習を重ね、合格に近づきましょう。苦しい時期だと思いますが、応援しています。
〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。
<本連載バックナンバー>
第1回(9月掲載):会計の学習は‟積み上げ式”を意識しよう!
第2回(10月掲載):何をどこまで学習すればよいか、「到達目標」を確認しよう!
第3回(11月掲載):基礎期の「間違った箇所」は、絶対に見逃さないように!
第4回(12月掲載):モチベーションを維持するために心掛けてほしいこと
第5回(1月掲載):過去問を有効活用し、合格に向けて着実に進もう!
第6回(2月掲載):長い問題文の中で「どこがA論点なのか」を見抜く力を養おう
第7回(3月掲載):「どの問題に、どれくらい時間配分するか」判断力を養おう
第8回(4月掲載):自分なりの解答アプローチを身に付けるために試行錯誤しよう!
第9回(5月掲載):本試験に対する「不安」とうまく向き合うには
第10回(6月掲載):直前期の学習スタンスとして心がけたいこと
第11回(7月掲載):「今は自信をつける時期」という意識で学習を続けよう!