関口高弘
(公認会計士)
【編集部より】
会計人コースWebの読者アンケートによると、「連結会計」をマスターしたいという声がちらほら。日商簿記2級でも定番論点の一つとなり、会計士・税理士試験など会計系資格の合格を目指す人にとって避けて通ることのできない論点です。
そこで、本連載では、『連結会計の計算に強くなる3ステップ式問題集』の著者である関口高弘先生(公認会計士)に、「連結会計」の仕訳問題を週1回のペースで出題していただきます(毎週金曜日掲載予定)。
本連載で出題する問題は、連結会計に関する日商簿記2級レベルのインプット学習が一通りできた人を対象に、日商簿記1級や税理士試験・公認会計士試験にステップアップを目指す人にとって「土台」となる内容を想定しています。なお、毎回のテーマによって出題数は変動します。
もし本連載でつまずいた問題があれば、もう一度テキストでしっかり復習しましょう!
「本連載のねらい」はコチラをご覧ください。
さらに問題を解きたい方は、『連結会計の計算に強くなる3ステップ式問題集』をチェック!
今回のポイントー前期末の棚卸資産に含まれる未実現損益の消去・実現(アップ・ストリーム)
今回のテーマについて、以下のポイントを確認して仕訳問題を解いてください。
Point1.前期末の棚卸資産に含まれる未実現損益の消去・実現(アップ・ストリーム)
期末に保有する棚卸資産は、通常、翌期に販売します。親会社が子会社から仕入れた棚卸資産を連結外部に販売した時に、連結上、未実現損益が実現します。
(1)株主資本等変動計算書の勘定科目を用いない場合
① 前期末の未実現利益の消去の仕訳を再実施
(借) | 利益剰余金 | ×× | *1 | (貸) | 商品 | ×× | |
(借) | 非支配株主持分 | ×× | (貸) | 利益剰余金 | ×× | *2 |
*1 前期末商品に含まれる未実現利益
*2 前期末商品に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
② 前期末商品に含まれる未実現利益の実現
(借) | 商品 | ×× | *1 | (貸) | 売上原価 | ×× | |
(借) | 非支配株主に帰属する当期純損益 | ×× | (貸) | 非支配株主持分 | ×× | *2 |
*1 前期末商品に含まれる未実現利益
*2 前期末商品に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
(2)株主資本等変動計算書の勘定科目を用いる場合
① 前期末の未実現利益の消去の仕訳を再実施
(借) | 利益剰余金当期首残高 | ×× | *1 | (貸) | 商品 | ×× | |
(借) | 非支配株主持分当期首残高 | ×× | (貸) | 利益剰余金当期首残高 | ×× | *2 |
*1 前期末商品に含まれる未実現利益
*2 前期末商品に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
② 前期末商品に含まれる未実現利益の実現
(借) | 商品 | ×× | *1 | (貸) | 売上原価 | ×× | |
(借) | 非支配株主に帰属する当期純損益 | ×× | (貸) | 非支配株主持分当期変動額 | ×× | *2 |
*1 前期末商品に含まれる未実現利益
*2 前期末商品に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
Point2.前期末の土地に含まれる未実現損益の消去(アップ・ストリーム)
棚卸資産とは異なり、土地は基本的には翌期以降も使用し続けるため、連結外部に売却しないのが通常である。そのため、土地に係る未実現損益は翌期に実現しないため、翌期の連結修正仕訳では開始仕訳のみを行います。
(1) 株主資本等変動計算書の勘定科目を用いない場合
① 前期末の未実現利益の消去の仕訳を再実施
(借) | 利益剰余金 | ×× | *1 | (貸) | 土地 | ×× | |
(借) | 非支配株主持分 | ×× | (貸) | 利益剰余金 | ×× | *2 |
*1 前期末土地に含まれる未実現利益
*2 前期末土地に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
(2) 株主資本等変動計算書の勘定科目を用いる場合
① 前期末の未実現利益の消去の仕訳を再実施
(借) | 利益剰余金当期首残高 | ×× | *1 | (貸) | 土地 | ×× | |
(借) | 非支配株主持分当期首残高 | ×× | (貸) | 利益剰余金当期首残高 | ×× | *2 |
*1 前期末土地に含まれる未実現利益
*2 前期末土地に含まれる未実現利益(*1)×非支配株主持分比率
問題(全4問)
下記の各取引について仕訳しなさい。なお、勘定科目は、設問ごとに最も適当と思われるものを選ぶこと。
(なお、スマホでご覧の方は「画面をヨコ」にすると仕訳や表が見切れないのでオススメです。)
問1.
大阪商事株式会社は、東京商事株式会社に対して売上総利益率30%で商品を販売している。東京商事株式会社に対する×4年度中の売上高はなかった。×3年度末の東京商事株式会社の商品在庫のうち、大阪商事株式会社からの仕入分が¥1,000存在するが、当該商品は×4年中に連結外部に¥1,200で販売済みである。なお、東京商事株式会社は、×2年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の60%を取得して支配を獲得している。×4年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。
〔勘定科目〕
売上高 | 資本剰余金 | 売上原価 | 商品 |
資本金 | のれん | 非支配株主持分 | 非支配株主に帰属する当期純損益 |
(1)前期末棚卸資産の未実現利益の消去及び実現と非支配株主への負担計算
(借) | 利益剰余金 | 300 | (貸) | 売上原価 | 300 | *1 | |
(借) | 非支配株主に帰属する当期純損益 | 120 | *2 | (貸) | 利益剰余金 | 120 |
*1 大阪商事株式会社から仕入れた前期末商品1,000×売上総利益率30%=300
*2 300(*1) ×非支配株主持分比率40%=120
問2.
東京商事株式会社は、大阪商事株式会社に対して仕入原価の15%の利益を付加して商品を販売している。大阪商事株式会社に対する×4年度中の売上高はなかった。×3年度末の大阪商事株式会社の商品在庫のうち、東京商事株式会社からの仕入分が¥920存在するが、当該商品は×4年中に連結外部に¥980で販売済みである。なお、東京商事株式会社は、×2年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の90%を取得して支配を獲得している。×4年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。
〔勘定科目〕
売上高 | 資本剰余金 | 売上原価 | 商品 |
資本金 | のれん | 非支配株主持分 | 非支配株主に帰属する当期純損益 |
(1)前期末棚卸資産の未実現利益の消去及び実現と非支配株主への負担計算
(借) | 利益剰余金 | 120 | (貸) | 売上原価 | 120 | *1 | |
(借) | 非支配株主に帰属する当期純損益 | 12 | *2 | (貸) | 利益剰余金 | 12 |
*1 大阪商事株式会社から仕入れた前期末商品920÷1.15×0.15=120
*2 120(*1)×非支配株主持分比率10%=12
問3.
×3年度に大阪商事株式会社は土地(帳簿価額¥150)を東京商事株式会社に¥450で売却し、代金は現金で受け取っている。なお、東京商事株式会社は、×2年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の55%を取得して支配を獲得している。×4年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。
〔勘定科目〕
非支配株主持分 | 土地売却損 | 資本剰余金 | 土地売却益 |
土地 | 利益剰余金 | 非支配株主に帰属する当期純損益 | 現金 |
(1)土地に含まれる未実現利益の消去と非支配株主への負担計算
(借) | 利益剰余金 | 300 | (貸) | 土地 | 300 | *1 | |
(借) | 非支配株主持分 | 135 | *2 | (貸) | 利益剰余金 | 135 |
*1 売却価額450-帳簿価額150=土地売却益300
*2 300(*1)×非支配株主持分比率45%=135
問4.
×3年度に大阪商事株式会社は土地(帳簿価額¥1,000)を東京商事株式会社に¥800で売却し、代金は現金で受け取っている。なお、東京商事株式会社は、×2年度末に大阪商事株式会社の発行済株式数の85%を取得して支配を獲得している。×4年度末の連結財務諸表作成上、必要な仕訳を答えなさい。
〔勘定科目〕
非支配株主持分 | 土地売却損 | 資本剰余金 | 土地売却益 |
土地 | 利益剰余金 | 非支配株主に帰属する当期純損益 | 現金 |
(1)土地に含まれる未実現損失の消去と非支配株主への負担計算
(借) | 土地 | 200 | (貸) | 利益剰余金 | 200 | *1 | |
(借) | 利益剰余金 | 30 | *2 | (貸) | 非支配株主持分 | 30 |
*1 売却価額800-帳簿価額1,000=土地売却損200
*2 200(*1)×非支配株主持分比率15%=30
*
今回のトレーニングは以上です!
次回は8月18日(金)に公開予定です。それまでにしっかり今回の復習をしておきましょう!
【執筆者紹介】
関口 高弘(せきぐち・たかひろ)
1976年5月神奈川県生まれ。1998年10月公認会計士試験合格。1999年3月中央大学商学部会計学科卒業、2001年3月中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。公認会計士試験合格後、大手監査法人で上場企業を中心とした会計監査に従事。2002年4月公認会計士登録。日商簿記検定試験(商業簿記・会計学)、税理士試験(簿記論・財務諸表論)、公認会計士試験(財務会計論)の受験指導歴17年。現在は、中央大学経理研究所専任講師、中央大学商学部客員講師、朝日大学経営学部非常勤講師、高崎商科大学商学部特命講師他を務める。
<連載バックナンバー>
【第2回】資本連結:支配獲得日の会計処理①
【第3回】資本連結:支配獲得日の会計処理②
【第4回】資本連結:支配獲得後の会計処理①
【第5回】資本連結:支配獲得後の会計処理②
【第6回】成果連結:債権債務の相殺消去(資金取引)、期末貸倒引当金の調整
【第7回】成果連結:債権債務の相殺消去(ダウン・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第8回】 成果連結:期末未実現損益の消去(ダウン・ストリーム)
【第9回】成果連結:債権債務の相殺消去(アップ・ストリーム)、期末貸倒引当金の調整
【第10回】 成果連結:期末未実現損益の消去(アップ・ストリーム)
【第11回】 資本連結:開始仕訳①
【第12回】 資本連結:開始仕訳②株主資本等変動計算書の勘定科目
【第13回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(ダウン・ストリーム)
【第14回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(ダウン・ストリーム)
【第15回】成果連結:前期末貸倒引当金の調整(アップ・ストリーム)
【第16回】成果連結:前期末未実現損益の消去・実現(アップ・ストリーム)
【第17回】成果連結:応用論点(仕入未達取引)
【第18回・完】成果連結:応用論点(連結会社振出の手形の割引・裏書)
<もっと問題が解きたい人へオススメ問題集>
『会計士・税理士・簿記検定 連結会計の計算に強くなる3ステップ式問題集』
(関口高弘 著・中央経済社)
重要論点の1つである連結会計。苦手な受験生も多いですが、本試験で頻出なため避けては通れません。攻略の決め手は圧倒的な演習量。本書でとことん解きまくりましょう!