村上翔一(敬愛大学准教授)
*総復習編では9回にわたり、本連載の復習を行います。
Q1 ディスクロージャー制度は投資家と経営者の間に生じている( ア )を緩和するために存在する。投資家は不確実な成果を予測して( イ )をする際、企業が資金をどのように投資し、実際にどれだけの成果をあげているかについての情報を必要としている。財務報告の目的は、投資家の( イ )に資するディスクロージャー制度の一環として、( ウ )とその成果を測定して開示することである。なお、この時、経営者が負うべき責任は基本的に( エ )であり、予測は投資家の自己責任で行われる。
A
ア 情報の非対称性
イ 意思決定
ウ 投資のポジション
エ 事実の開示
討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第1章pars.1-2、7
経営者自身による企業価値の開示は、証券の発行体が、その証券の価値に関する自己の判断を示して投資家に売買を勧誘することになりかねないことから、その役割は事実の開示となる。この結果、自己創設のれんの計上は認められない(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第1章18、第3章注14)。
Q2 財務報告の目的は、投資家による( ア )の予測と( イ )の評価に役立つような、企業の財務状況の開示にあると考えられるが、ディスクロージャー制度において開示される会計情報は、企業関係者の間の私的契約等を通じた( ウ )にも副次的に利用されている。その典型例は、( エ )、税務申告制度、金融規制などである。また、株主と経営者の間に生じる( ウ )は、会計上、( オ )機能として理解される。
A
ア 企業成果
イ 企業価値
ウ 利害調整
エ 配当制限
オ 受託責任解除
討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第1章序文、pars.11、21
会計の主目的は投資家の経済的意思決定に有用であることであるが、それのみに機能するのではなく、多様な活用方法が存在する。情報提供機能と利害調整機能は背反するのではなく両立する。なお、2018年に公表されたIASBの概念フレームワークには受託責任概念が明記されている。
Q3 投資家による企業成果の予測や企業評価のために、将来キャッシュフローの予測に役立つという会計情報の特質を( ア )と呼ぶ。( ア )は、( イ )と( ウ )という2つの下位特性に支えられる。( イ )とは、企業価値の推定を通じた投資家による意思決定に積極的な影響を与えて貢献することを指し、これは( エ )と( オ )によって支えられる。( ウ )とは、会計情報が信頼に足る情報であることを指し、これは( カ )、( キ )、( ク )によって支えらえる。
A
ア 意思決定有用性
イ 意思決定との関連性
ウ 信頼性
エ・オ 情報価値の存在、情報ニーズの充足(順不同)
カ・キ・ク 中立性、検証可能性、表現の忠実性(順不同)
討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章pars.1-7
情報価値とは、投資家の予測や行動が当該情報の入手によって改善されることを指すが、基準設定時には新たな会計基準に基づく会計情報の情報価値は不確かな場合も多いため、その場合には、投資家による情報ニーズの存在が、情報価値を期待させる(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章par.4)。
一部の関係者の利害だけに偏重しないことを指す中立性、測定者の主観に左右されない事実に基づくことを指す検証可能性、事実を会計上の分類項目に明確に対応させることを指す表現の忠実性が信頼性を支える(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章par.7)。
Q4 会計情報が有用であるために必要とされる最低限の基礎的な条件として、( ア )と( イ )がある。( ア )とは、ある個別の会計基準が、会計基準全体を支える基本的な考え方と矛盾しないことを指す。この場合、その個別会計基準に従って作成される会計情報は有用であると推定される。( イ )とは、同一企業を( ウ )で比較する場合や同一時点の会計情報を( エ )で比較する場合、それらの比較に障害とならないように会計情報が作成されることを指す。例えば、2つの取引の法的が異なっているが、実質が同じ場合には同じ会計処理が適用されることを( オ )と呼び、( オ )によって( イ )が保たれる。
A
ア 内的整合性
イ 比較可能性
ウ 時系列
エ 企業間
オ 実質優先
討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章pars.9、11、16、17、20
内的整合性は会計基準の採用に関わる要請であり、特定の会計手続を毎期継続的に適用されることを要請する首尾一貫性とは異なる(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章par.19)。
実質優先と表現の忠実性は重複しているが、表現の忠実性は、2つの取引の外形的形式が同一であるが実質が異なる場合に異なる会計処理が適用されることを包摂しているか否かが必ずしも明確ではないと考えられることから、形式と実質が分離している2種類の状況を比較可能性としてまとめている(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第2章par.20)。
Q5 討議資料「財務会計の概念フレームワーク」では、収益とは、純利益または少数株主損益を増加させる項目であり、特定期間の期末までに生じた資産の増加や負債の減少に見合う額のうち、( ア )から解放された部分であるとする。ここで( ア )は、投資の成果の不確実性を指す。投資にあたって期待された成果が事実として確定するパターンは投資内容によって異なる。( イ )投資では、( イ )のリスクに拘束されない独立の資産を獲得したとみなすことができるときに、( ア )から解放されたと考える。( ウ )投資では、事業の目的に拘束されず、保有資産の価値変動をそのまま期待に見合う事実として、( ア )から解放されたと考える。
A
ア 投資のリスク
イ 事業
ウ 金融
討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第3章pars.13、23、第4章par.57
従来わが国に存在した収益認識基準である実現の内容解釈には多義性があったことから、それらを包摂的に説明するため、「投資のリスクからの解放」という概念を用いている(討議資料 財務会計の概念フレームワーク、第4章par.58)。
本連載は、今日が最終回となります。
連載のはじめにも記載しましたが、税理士・会計士・日商1級等の難関資格試験の合否は基礎的な問題をいかに確実に得点していくかが大きなポイントになります。
8月の税理士試験、会計士論文式試験が目前の今、ぜひ基礎を今一度見直して本試験に臨んでいただければと思います。(編集部)
◎復習しましょう!
総復習① 棚卸資産
総復習② 有価証券
総復習③ 有形固定資産
総復習④ リース
総復習⑤ 引当金
総復習⑥ 税効果会計
総復習⑦ 連結会計
総復習⑧ 収益認識
【執筆者紹介】
村上 翔一(むらかみ しょういち)
明治大学大学院経営学研究科博士後期課程修了(博士(経営学))。明治大学専門職大学院会計専門職研究科教育補助講師、敬愛大学専任講師を経て現在敬愛大学経済学部准教授。
<主な論文>
「保有者における電子マネーの会計処理」『簿記研究』(日本簿記学会)第2巻第1号、2019年(日本簿記学会奨励賞)
「ICOに関する会計処理」『敬愛大学研究論集』第98号、2020年
「ブロックチェーン技術の進展と簿記」『AI時代に複式簿記は終焉するか』(岩崎勇編著)、税務経理協会、2021年
「コンセンサス・アルゴリズムの観点に基づく暗号資産の会計処理―マイニング、ステーキング、ハーベスティングの理解を通じて―」『敬愛大学研究論集』第100号、2021年 他
*本連載は、「会計人コース」2019年11月号「特集:勉強したくなる「習慣化」のススメ 7日間理論ドリル」を大幅に加筆修正したものです。