【『財務会計講義』を読もう!】第1回:時価(洗い替え方式・切放し方式)


有価証券の時価評価を学ぼう

売買目的有価証券の評価

ここからは、有価証券の時価評価において、時価がどのように取り扱われているか、会計処理の観点から考えていくことにする。

まずは、売買目的有価証券の時価評価は、「金融商品に関する会計基準」で次のように定められている。

「時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(以下「売買目的有価証 券」という。)は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理す る。」(15項)

売買目的有価証券の時価評価における会計処理方法

【設 例】
×1年2月1日に取得した下記の売買目的有価証券について、各期の時価評価の会計処理を、①切放し方式と②洗い替え方式でそれぞれ示してみよう。

銘柄:X株式
取得原価:1,000円
×1年3月31日期末時価:1,200円
×2年3月31日期末時価:900円

① 切放し方式

×1年2月1日取得時
(借)売買目的有価証券 1,000
 (貸)現金預金 1,000

×1年3月31日決算時
(借)売買目的有価証券 200
 (貸)有価証券運用損益   200 *

×2年3月31日決算時
(借)有価証券運用損益 300 *  
 (貸)売買目的有価証券      300

*1 1,200円-1,000円  
*2 1,200円-900円

切放し方式では、常に決算日を繰り越した時価がそのまま帳簿価額として残り、原始取得原価1,000円は、いったん時価に更新されたら二度と帳簿に戻ってくることはない。

すなわち、切放し方式は、原始取得原価が最初の時価評価で切放されてしまう会計処理方法であることがわかるだろう。

② 洗い替え方式

×1年2月1日取得時
(借)売買目的有価証券 1,000 
 (貸)現金預金  1,000

×1年3月31日決算時
(借)売買目的有価証券 200 
 (貸)有価証券運用損益  200

×1年4月1日再振替時
(借)有価証券運用損益 200  
 (貸)売買目的有価証券   200

×2年3月31日決算時
(借)有価証券運用損益 100 *  
 (貸)売買目的有価証券    100

×1年4月1日再振替時
(借)売買目的有価証券  100  
 (貸)有価証券運用損益  100

*3 1,000円-900円

洗い替え方式では、時価をもって決算日を繰り越したら、すぐ期首(4/1)に元の原始取得原価1,000円に振り戻される。

洗い替え方式は、期首時点では常に原始取得原価に帳簿価額を洗い直される会計処理方法である。

したがって、毎期原始取得原価の1,000円を基準にして運用損益が測定される。

ただし、売買目的有価証券の会計処理は、切放し方式か洗い替え方式のどちらかを選択適用するのであるが、売買目的有価証券は日常的に売買を繰り返しているものであるから、切放し方式のほうが適用しやすいだろう。

洗い替え方式はその他有価証券のように売却を予定しないものに適している。

よって、その他有価証券の時価評価の会計処理方法は、洗い替え方式しか適用できないことになっている(「金融商品会計基準」18項)。

〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。


連載スケジュール(毎月1回・最終週の水曜日にアップ予定)

第1回(2020年12月)…「時価(洗い替え方式・切放し方式)」
第2回(2021年1月)…「自己株式
第3回(2021年2月)…「引当金」
第4回(2021年3月)…「偶発債務」
第5回(2021年4月)…「減損処理」
第6回(2021年5月)…「償却原価法」
第7回(2021年6月)…「割引現在価値」

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