【『財務会計講義』を読もう!】第1回:時価(洗い替え方式・切放し方式)


時価とは何か?

アワビの話はさておき、現代においては、企業会計上、「時価」という用語が頻繁に登場する。それでは、「時価」とは何なのだろうか?

まずは、連載のコンセプトに沿って、『財務会計講義』で「時価」とある部分を抜粋してみよう。お手元に『財務会計講義』がある人は、該当ページを広げて確認していただき、今は手元にはないという人は、学習ポイントだけでも眺めていただければ十分である。

索引をみると、「時価」という項目は、p.87、p.89、p.100、p.103に登場する。

p.87

【内容】
……金融資産は、現在の市場価格を中心とした時価で評価される。 ……時価に代えて、公正価値という用語が用いられることもある。

【学習ポイント】
資産評価基準として金融資産には時価基準が適用される。 観察可能な市場価格がないときは公正価値を用いる。

p.89

【内容】
時価ないし公正価値については、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」が、その概念や算定方法を規定している。

【学習ポイント】
企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」の規定を学ぶ。

p.100

【内容】
……これらの有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、…… 決算時に時価評価した有価証券のその後の会計処理方法には、洗い替え方式と切放し方式の2通りがある。

【学習ポイント】
有価証券を時価評価する場合の時価とは何か。 売買目的有価証券の時価評価として2通りの会計処理方法を学ぶ。

p.103

【内容】
この種類の有価証券については、期末に計上した評価差額を翌期首に戻し入れて元の帳簿価額を復元する洗い替え方式が適用される。

【学習ポイント】
その他有価証券の時価評価方法として、全部純資産直入法と部分純資産直入法を学び、評価差額については洗い替え方式によることを知る。

「時価」の定義

『財務会計講義』で「時価」とあるページを確認し、学習ポイントも押さえたところで、いよいよ「時価」の定義を明らかにしていきたい。

時価……、文字面からすれば「その時の価額」ということになりそうだが、上場会社の株式のように時価が株価のようにわかりやすいものもあれば、満期保有目的債券のように償却原価もその時の価額であるから時価評価といえるのかどうか、はっきりしないものもある。

また、商品のように時価評価は求められないが、取得原価よりも正味売却価額が下落している場合は、当該正味売却価額で評価しなければならない。この場合、正味売却価額は時価ではないのか。

商品には、購入市場から仕入れる場合の購入時価と、売却市場で販売する場合の売却時価がある。他にも、時価なのかどうなのかがはっきりしないものがある。

そこで、2019年7月4日、企業会計基準委員会は、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価会計基準」という)を公表した。

時価会計基準の適用範囲は、(1)企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」における金融商品と、(2)企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に限定される(3項)。

そして、「時価会計基準」においては、次のように時価を定義している。

「『時価』とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。」(5項)

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