【公認会計士論文式試験 財務会計論】超直前チェック 計算と理論の融合問題の特徴を押さえよう!


井上 修
(福岡大学講師・公認会計士)

現在の財務会計論の論文式試験は、旧試験の簿記論(計算)と財務諸表論(理論)が融合して今に至ります。皆さんもすでにご存じのように、財務会計論の論文式試験では、計算と理論が融合したような問題が出題されるようになりました。

計算と理論の融合問題というと「数値を使って論述する」といったものを想定しますが、実際にはそのような問題はほとんど出題されていません。なぜなら、その数値を出さないと、そもそも論述ができないからです。

最近の傾向をみるかぎり、1つの問題でも計算と理論が独立しあっていて、「計算問題を解かせる→関連する理論問題を解かせる」というパターンが多いです。

今から対策できるものとして例を挙げると、次の2つになります。

① 計算問題に登場した財務諸表に関する理論問題

② 会計上の変更に関する計算問題の後にくる理論問題

はじめに、計算問題に登場した財務諸表に関する理論問題についてみていきましょう。たとえば、キャッシュ・フロー計算書の計算問題の後にキャッシュ・フロー計算書の理論問題、株主資本等変動計算書の計算問題の後に株主資本等変動計算書の理論問題、といった感じです。特に、その財務諸表ができた経緯や背景が問われます。

この点、いまだ「包括利益計算書」に関する出題がありません。したがって、「包括利益計算書」には気をつけてもいいと思います。包括利益計算書の計算問題の後に包括利益計算書が導入された背景や目的が問われる可能性があります。そこで考えられる予想論点としては、次のものが挙げられます。

包括利益及びその他包括利益の内訳を表示する目的は何か?

包括利益の表示目的について問われた場合は、次の文言を参考にしてください。解答欄が2~3行程度なら、この文言が解答となります。

包括利益及びその他の包括利益の内訳を表示する目的は、期中に認識された取引及び 経済的事象(資本取引を除く。)により生じた純資産の変動を報告するとともに、その他の包括利益の内訳項目をより明瞭に開示することである。
包括利益会計基準21項

ただし、広い意味では続く次の文言も含まれます。設けられた行数しだいで解答をアレンジしてください。

包括利益の表示によって提供される情報は、投資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動について検討するのに役立つことが期待されるとともに、貸借対照表との連携(純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係)を明示することを通じて、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、また、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものと考えられる。
包括利益会計基準21項

包括利益はいかなる点で有用な情報といえるか?

包括利益の有用性について問われた場合は、先に取り上げた文言が解答となります。解答に重要な要素を抜き出してみます。

・企業全体の事業活動について検討するのに役立つ

・貸借対照表との連携(純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係)を明示することを通じて、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め

・国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資する

このうち「企業全体の事業活動」という文言に、包括利益の特徴が最も出ています。純利益だと「通常の営業活動」しか反映されませんが、包括利益だとその他有価証券の投資や在外子会社の為替換算も反映されます。つまり、時価や為替の変動といった企業外部の影響も踏まえた「企業全体の事業活動」を反映するものといえます。

「貸借対照表との連携」については、以前の状況と比較すると押さえやすいです。包括利益が開示されていない状況下では、その他有価証券評価差額金の純資産直入のように、資本取引でも損益取引(損益計算書を経由する取引)でもない取引によって純資産が変動してしまい、クリーン・サープラス関係が成立していませんでした。

包括利益の位置づけについて、当期純利益との関係から留意すべき点は何か?

この論点では、次の文言が参考になります。

包括利益の表示の導入は,包括利益を企業活動に関する最も重要な指標として位置づけることを意味するものではなく,当期純利益に関する情報と併せて利用することにより,企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めることを目的とするものである。本会計基準は,市場関係者から広く認められている当期純利益に関する情報の有用性を前提としており,包括利益の表示によってその重要性を低めることを意図するものではない。また,本会計基準は,当期純利益の計算方法を変更するものではなく,当期純利益の計算は,従来のとおり他の会計基準の定めに従うこととなる。
包括利益会計基準22項

解答となる要素は次のとおりです。

・包括利益は企業活動に関する最も重要な指標ではなく、当期純利益の計算方法を変更するものでもない

・あくまで当期純利益の有用性を前提としており、包括利益の表示はその重要性を低めるものではない

・当期純利益の開示を前提として、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めるという点で、追加的な情報としての有用性が認められる

リサイクリング(組替調整額)の必要性は何か?

この論点は過去にも出題されていますが、念のため確認しておきます。ただし、包括利益の表示に関する会計基準にはリサイクリングの必要性について記載がありません。一般的にリサイクリングの必要性は次の2点とされています。

・(当期)純利益を適正に算定するため

・純利益と株主資本のクリーン・サープラス関係を維持するため

リサイクリングをする/しないにより、純利益の額そのものが変わってきます。もし純利益をことさら重視する立場、すなわち投資の成果を正確に把握したい場合、たとえ過去に包括利益として計上された部分であっても、投資のリスクから解放されたのであれば、投資の成果として純利益として算入すべきです。

リサイクリングをしないと純資産の内部で評価換算・差額から利益剰余金に直接振り替えることになります(「土地再評価差額金」はこのような扱いとなります)。これは、資本取引でも損益取引(損益計算書を経由する取引)でもない取引によって純資産が変動してしまい、クリーン・サープラス関係が成立しなくなります。なお、なぜ土地再評価差額金がリサイクリングされないのかというと、再評価後の土地の金額を「新しい取得原価」と考えているからです。もちろん、時限立法で政策的に土地の再評価を認めているという点もあります。


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