髙橋 創
コロナウイルス騒動、すごいですね。
なかなか全貌がわかりませんので実感がわかない部分もありますが、顧問先の飲食店からは悲痛な叫びが聞こえてきますし、楽しみにしていたイベントやライブも中止になったなど残念な話が耳には入ってきます。
何はともあれ、皆さんも周りの方々も無事でいらっしゃることを祈るばかりです。
まさかの1ヵ月延長でした
そんななか、我々の業界でも驚きの出来事がありました。それは確定申告期限の1ヵ月延長。
今までも災害時などに延長されることはあったのですが、それはあくまで被災地に限ったお話。今回は全国規模の話なので当然なのかもしれませんが全国一律です。
最初に聞いた時の個人的な感想は、「ちょっと大げさすぎるのではなかろうか……」というものでした。
何週間か税務署自体を閉鎖するのであればわかるのですが、そこは通常営業。そうであれば病気で大変な人だけを対象にすればいいのではないかなと考えたわけです。
実際に法律でも、期限内に申告書の提出がなかった場合であっても、「正当な理由」があると認められる場合は罰金を科さないというルールもあります。
しかし、そこまで考えてちょっと気になったのが、期限までに申告できなかった原因が病気である場合でもこのルールを使えるのか。調べてみたところ、そこを論点とする事例がありました。
「正当な理由」の代表格は災害
あるとき税務署は、病気を理由に半月ほど申告が遅れた納税者に対して罰金を科しました。納税者は自らの病気が申告に間に合わなかった「正当な理由」に該当するとして罰金は不当と訴えたのですが、最終的には負けてしまいました。
判断の基準となったのは、その病状が「法定申告期限までに確定申告書を提出することができないほどの重篤な状態にあったとは認められない」というものでした。裏を返せば重篤な状態であれば「正当な理由」に該当するものとも読めますが、そこはなかなか判断が難しいところ。
「税理士に依頼すれば良かったのでは?」と言われてしまえばそれまでな気もしますし。コロナウイルスの場合には外を出歩くことが禁じられる期間があるよなぁ、と思いましたが、それは例年のインフルエンザでも同様。そう考えると今回このルールを使うのは難しかったのかもしれません。
そこで1ヵ月延長という思い切った策に出たのかもしれませんが、現場作業をしている我々はそこでだれてしまってはいけません。やはり期日までに終わらせるという気概を持って申告作業に取り組みたいものです(本日は2020年3月6日)。
うちの事務所は確定申告の打ち上げの日程を決めてしまっていますので、スタッフみんなと美味しくお酒を飲むためにも頑張ろうと思います。
〈執筆者紹介〉
髙橋 創(たかはし・はじめ)
税理士
税理士講座の所得税法講師、会計事務所勤務を経て、新宿で独立開業。新宿ゴールデン街のバー・無銘喫茶のオーナーでもある。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』、『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(ともに中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本 19-20年版』(ナツメ社)がある。YouTubeで『二丁目税理士チャンネル』を運営中。
※ 本稿は、『会計人コース』2020年5月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。
記事一覧
第1回:家族旅行を経費にしようとしてはいけません
第2回:絶妙な言い訳なのか、苦しい言い訳なのか
第3回:世の中は「原則」と「特例」だけでできている?
第4回:悩み多きユーチューブ
第5回:有名人の話は妄想がはかどります
第6回:タイミングは大事というお話
第7回:I Love サンゴ礁
第8回:「ごめんなさい」で許される?
第9回:税金もウイルスには勝てないようです
第10回:おしゃれオフィスに引っ越したいけれど
第11回:テレワークの最大の敵は布団
最終回:次は酒場でお会いしましょう