【誰かに話したくなる税金喫茶】第7回:I Love サンゴ礁


髙橋 創

寒いですね。あまりリゾートに興味がない私ではありますが、これだけ寒いと南の島の浜辺でトロピカルカクテルでも飲みながらのんびり過ごしたくもなります。青い空、白い雲、サンゴ礁。素敵ですね。

などと仕事から逃避していたのですが、繁忙期に逃避してばかりではいけません。やはり税に関する研鑽に結びつけたいところ。というわけで税法のデータベースで思いついた言葉を検索してみました。まず「青い空」。該当なし。次に「白い雲」。こちらも該当なし。まあそりゃそうか。ちなみに「青空」にすると青空駐車場にまつわるあれこれが出てくるのですが、私が求めている青空はそんなものではありません。最後にサンゴ。税とまったく関係なさそうですので何の期待もせず検索してみたところ、そこには1件の事件。

変動が激しい方にオススメな制度

日本の所得税は利益が多くなるほど税率があがっていく「超過累進税率」を採用しています。たとえば3年間で3,000万円稼いだ場合。毎年1,000万円ずつ稼いだ方の3年分の所得税は530万円ほどですが、1年だけ3,000万円を稼いで他の2年は無収入だった方の所得税は920万円ほどになります。トータルの利益は変わらないのにこれだけ差が出るのはいかがなものか、ということで年々の変動が激しい収入に関しての税負担が重くならないような制度が設けられています。これを平均課税制度といいます。

生物学も勉強しないとですかね

法律上、この平均課税制度を使うことができる対象は限定されているのですが、そのうちの1つに「漁獲」があります。そしてサンゴが問題となったのは「サンゴ漁は漁獲に該当するのか?」という点でした。「サンゴ漁って何?」という疑問が頭をかすめますが、それはさておき、サンゴ漁を平均課税の対象とした納税者に対し税務署は、「サンゴは自ら移動しないので水産植物と同様。しかも採取されたサンゴのほとんどは死滅した枯れ木」などとして、「水産動物を捕獲すること」という所得税基本通達における「漁獲」とは別物と主張しました。これに対し国税不服審判所は、サンゴは生物学上は動物に分類されることから「漁獲」であるとして、平均課税制度の適用はOKと結論づけました。

税理士というと税務や会計について調べたり考えたりするものだと思うのですが、この件に関する判断の決め手は「生物学上は動物」。普通は知りませんよ、そんなこと。ですが、それを知っていることでお客さんの税金が安くなることがあると思えば知っておく必要があるのか……。税理士業は果てしない旅路だ……などと考えながら、とりあえず南の島はあきらめ寒さに耐えながら確定申告業務を頑張ろうと思います。

〈執筆者紹介〉
髙橋 創(たかはし・はじめ)
税理士
税理士講座の所得税法講師、会計事務所勤務を経て、新宿で独立開業。新宿ゴールデン街のバー・無銘喫茶のオーナーでもある。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(ともに中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本 19-20年版』(ナツメ社)がある。YouTubeで『二丁目税理士チャンネル』を運営中。

※ 本稿は、『会計人コース』2020年3月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。


記事一覧
第1回:家族旅行を経費にしようとしてはいけません
第2回:絶妙な言い訳なのか、苦しい言い訳なのか
第3回:世の中は「原則」と「特例」だけでできている?
第4回:悩み多きユーチューブ
第5回:有名人の話は妄想がはかどります
第6回:タイミングは大事というお話
第7回:I Love サンゴ礁
第8回:「ごめんなさい」で許される?
第9回:税金もウイルスには勝てないようです
第10回:おしゃれオフィスに引っ越したいけれど
第11回:テレワークの最大の敵は布団
最終回:次は酒場でお会いしましょう


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