髙橋 創
自営業の素敵なところは自分自身でスケジュールを決められるところ。開業当初、一人で仕事をしているときなどは、いつでも休めました。しかし、スタッフが増えてきてしまった今、なかなか自由には動けません。事務所にいない時間についてはそれなりの理由が必要となります。
いつの間にかアイドル好きになっていました
先日、アンジュルムというアイドルグループのリーダーの卒業コンサートがありました。コンサート自体は夜なのですが、昼から現場に行かなければならない事情もあり、その日は終日仕事どころではありません。しかし事務所で共有しているスケジュールに「卒業コンサート(涙)」などと書こうものなら私自身が事務所から卒業させられてしまいます。そこで単に「外出」という不自然な記載だけ残して私は日本武道館に出動したわけです。この記載は「決して嘘をついている訳ではない。しかし事務所における私の立場を悪くするものではない」という絶妙なものであったはずなのですが、その後なんとなく目を通していた所得税についての判決文によって大いに反省させられることとなりました。
税理士に伝えなかったことに悪意はあるか
ある納税者は不動産の賃料収入があるにもかかわらず申告をしていませんでした。その申告書は税理士が作っていたのですが、税理士にも不動産収入があるという事実を伝えていなかったため不動産収入がない状態の申告書が作成されてしまっていました。
その後の税務調査により不動産収入の存在が明らかとなり、追加の税金と重加算税という罰金が科せられることとなりました。この重加算税は事実を「隠蔽又は仮装」したときに課されるものですので、税務署はこの納税者が事実を「隠蔽」したと認定したわけです。これを不満に思った納税者は裁判で争ったのですが、結果としては重加算税の課税は正しいとされました。
納税者は「税理士に不動産収入について伝えていなかっただけのことであって、隠蔽したわけではない」と主張しています。先日の私の「武道館に行くとは伝えなかったけれど、決して嘘をついているわけではない」という思考によく似ています。「ごまかしているかもしれないけれど嘘をついているわけではないので私は悪くない」という考え方。しかしこの納税者の言い分が通らなかったことを考えると、税金の世界では(現実社会でもでしょうか)そういう言い訳は通用しないようです。私も襟を正さなければいけませんね。
さて、そういう言い訳が必要なのは今回だけではありません。きっと。どうやったら波風たてずにこそっと事務所を抜けられるか、しっかり考える必要がありそうです。
〈執筆者紹介〉
髙橋 創(たかはし・はじめ)
税理士
税理士講座の所得税法講師、会計事務所勤務を経て、新宿で独立開業。新宿ゴールデン街のバー・無銘喫茶のオーナーでもある。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』、『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(ともに中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本 19-20年版』(ナツメ社)がある。YouTubeで『二丁目税理士チャンネル』を運営中。
※ 本稿は、『会計人コース』2019年9月号に掲載した記事を編集部で再編成したものです。
記事一覧
第1回:家族旅行を経費にしようとしてはいけません
第2回:絶妙な言い訳なのか、苦しい言い訳なのか
第3回:世の中は「原則」と「特例」だけでできている?
第4回:悩み多きユーチューブ
第5回:有名人の話は妄想がはかどります
第6回:タイミングは大事というお話
第7回:I Love サンゴ礁
第8回:「ごめんなさい」で許される?
第9回:税金もウイルスには勝てないようです
第10回:おしゃれオフィスに引っ越したいけれど
第11回:テレワークの最大の敵は布団
最終回:次は酒場でお会いしましょう