つぶ問10-3(財務諸表論)―連結、のれん


【解答】

(問1)
  資本連結は、①親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去するとともに、②子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分へと振り替える、一連の手続きをいう。①の結果として消去差額が生じる場合、のれんまたは負ののれん発生益として処理する。(133字)

(問2)
 ダウン・ストリーム取引によって販売された、期末棚卸資産に含まれる未実現利益を消去する場合、当該未実現利益の金額だけ売上原価を増額するとともに、棚卸資産を減額する。他方、期首棚卸資産に含まれる未実現利益については、当該未実現利益の金額だけ利益剰余金の期首残高を減額するとともに、売上原価を減額する。(148字)

(問3)
 アップ・ストリーム取引の場合、未実現利益の消去手続に加えて、非支配株主持分への負担仕訳が必要となる。具体的には、期末棚卸資産に含まれる未実現利益を消去した場合、消去した未実現利益の非支配株主持分相当だけ、非支配株主持分を減額するとともに、同額だけ非支配株主に帰属する当期純利益を減額する。他方、期首棚卸資産に含まれる未実現利益を消去した場合には、そのうち非支配株主持分相当だけ利益剰余金の期首残高を増額するとともに、非支配株主に帰属する当期純利益を増額する。そして同額だけ非支配株主持分の期首残高を減額し、非支配株主持分の当期変動額を増額する。(272字)


【解説】

 連結財務諸表の作成手続のうち、資本連結と未実現利益の消去の手続き内容を説明するという問題です。

(問1)
 資本連結は①投資と資本の相殺消去と、②非支配株主持分への振替という2種類の手続きからなることを押さえておきましょう。①によって生じた差額が、のれんまたは負ののれん発生益として処理される点にも言及しましょう。

(問2)
 まず、期末棚卸資産の未実現利益を消去する仕訳は、次のように行われます。

 借方の売上原価は、損益計算書の「期末商品棚卸高」(売上原価の計算上はマイナス項目として位置づけられています)に含まれる未実現利益を減額するものですが、仕訳としては売上原価を増額する処理を行うことになります。貸方の棚卸資産は、貸借対照表上の棚卸資産に含まれる未実現利益を消去するために、減額しているものです。

 次に、期首棚卸資産の消去仕訳ですが、次のように過年度における未実現利益消去の再実施(1つ目)と、期首棚卸資産の販売に伴う売上原価の減額仕訳(2つ目)の2つを行う必要があります。

 これらをまとめた次の仕訳が、期首棚卸資産に係る未実現利益の消去仕訳になります。貸方の売上原価が、「損益計算書の期首商品棚卸高を減額している」という点を理解しておくことがポイントです。

(問3)
 アップ・ストリーム取引の場合、子会社が計上した利益の一部を消去することになるため、非支配株主への負担仕訳が必要になります。この場合の仕訳の形は、当期純利益の振替仕訳と貸借を逆転させたものになります。

 期末棚卸資産に含まれる未実現利益を消去した場合には、次の仕訳が必要になります。

 非支配株主持分への負担仕訳(2つ目)の金額「××」は、消去した未実現利益の金額「×××」に非支配株主持分比率を乗じることで計算できます。他方、期首棚卸資産に含まれる未実現利益の消去については、前期末の消去仕訳の再実施と、売上原価の減額仕訳のそれぞれに対して、非支配株主持分への負担仕訳が行われます。

●前期末における消去仕訳の再実施分

●売上原価の減額仕訳分

 以上の仕訳をまとめると、次のような修正仕訳になります。非支配株主持分への負担仕訳に注目してみると、前期消去した利益の分だけ減額されていた非支配株主持分(2つ目の仕訳における「非支配株主持分当期首残高」)が、当期の販売を通じて利益が実現した分だけ増額している(3つ目の仕訳における「非支配株主持分当期変動額」)とみることができます。本問の解答ではこの点に着目して、非支配株主持分の期首残高と当期変動額を結び付けて記述しています。

つぶ問は、2018年9月号~2019年8月号までの連載「独学合格プロジェクト 簿記論・財務諸表論」(中村英敏・中央大学准教授/小阪敬志・日本大学准教授)に連動した問題です。つぶ問の出題に関係するバックナンバーはこちらから購入することができます。

【つぶ問】一覧
つぶ問1-1(財務諸表論)
つぶ問1-2(財務諸表論)
つぶ問1-3(財務諸表論)-概念フレームワーク
つぶ問1-4(財務諸表論)-企業会計原則
つぶ問2-1(財務諸表論)-棚卸資産の評価
つぶ問2-2(財務諸表論)―棚卸資産の評価
つぶ問2-3(財務諸表論)―固定資産の減損
つぶ問2-4(財務諸表論)―棚卸資産
つぶ問3-1(財務諸表論)―リース
つぶ問3-2(財務諸表論)―資産除去債務
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つぶ問3-4(財務諸表論)―研究開発費
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つぶ問10-1(財務諸表論)―連結、のれん
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つぶ問10-4(財務諸表論)―連結、のれん
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