【経済ニュースを読み解く会計】事業承継と管理会計①―”事業承継”って何を承継するの?


【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

西武文理大学・サービス経営学部准教授 浅石梨沙

みなさん、こんにちは。
西武文理大学で簿記や管理会計を教えている浅石梨沙です。

今回のコラムでは、2回にわたって、事業承継と管理会計の関係についてお話したいと思います。受験生の皆さんが、「受験の先にどんな仕事をしたいのか?」を考える1つのきっかけになれば幸いです。

今回はまず、事業承継をめぐる経済・社会の動向や、事業承継の意味について考えてみましょう。

空前の事業承継ラッシュ! ビジネスチャンスや地域創生も

みなさん、「事業承継」という言葉にはどのくらい馴染みがあるでしょうか。新聞やニュースをチェックしていれば、この言葉を目にしないほうが難しいくらい、日本はいま事業承継ラッシュを迎えています。

家族や親せきに家業をお持ちの方がいれば、事業承継の問題はより切実かもしれません。もしくは、「近所にあったお気に入りのご飯屋さん、なくなっちゃったな…」といったことで、事業承継の問題が身近に感じられることもあるかもしれません。

経営者の高齢化や後継者不足による廃業リスクが高まる中で、これをビジネスチャンスと捉えたサービスもたくさん生まれています。たとえば、銀行や信用金庫は続々と事業承継ファンドを設立・拡充しています。また、企業と後継者をつなぐマッチングプラットフォームもたくさん生まれています。

地域に根ざす企業をいかに残すかは、地域創生にも繋がりの深い問題です。そのため、事業承継支援策を積極的に打ち出す地方自治体もたくさんあります。

事業承継は「あらゆる経営資源」の承継!

そもそも、「事業を承継する」とはどういう取り組みなのでしょうか?

中小企業庁が発表している「事業承継ガイドライン(第3版)」の27〜28ページでは、事業承継が単なる「株式の承継」+「代表者の交代」をスムーズに行うための手法の議論にとどまらないことが指摘されています。

もちろん、こういったことは重要です。しかし、それだけではなく、事業承継後の安定した経営を見据えて、現在の経営者がこれまで培ってきた「あらゆる経営資源」を承継する取り組みとして、事業承継を理解する必要があります。

承継すべき3つの経営資源

「事業承継ガイドライン(第3版)」では、承継すべき経営資源を①人(経営)の承継、②資産の承継、③知的資産の承継の3つに整理しています。

これらのうち、②資産の承継は、株式や、設備や不動産といった事業用資産、あるいは運転資金といった資産の承継を指しています。これは、イメージしやすいですね。

それでは、あとの2つはどんなものを指しているのでしょうか? 少し詳しくみてみましょう。

人の承継:後継者を選び、育てる

人(経営)の承継は、後継者への経営権の承継を指しています。

これは簡単に、「じゃ、これからは社長としてこの会社をよろしく!」というわけにはいきません。「いったい誰を後継者にするのか?」「選んだ後継者には経営者として十分な能力があるのか?」をよく考える必要があります。

親子代々で受け継ぐファミリービジネスの場合には、先代経営者の子どもが後継者になることは決まっている、という場合があります。とはいえ、経営者の子どもだからといって、必ずしも経営能力が高いわけではありません。後継者には、新たな経営者として会社を引っ張っていくための能力をしっかり身につけてもらう必要があります。

最近では、親子間や社内の従業員以外への承継も重要な選択肢になっています。赤字まみれで将来の希望がみえない会社を引き受けてもらうのは、なかなか難しいでしょう。そのため、後継者を見つけるためには、まず今の事業をしっかり磨き上げて魅力ある会社になる必要もあります。

知的資産の承継:信頼関係と経営理念

ここでいう知的資産とは、貸借対照表上に記載されている資産以外の、その企業の競争力の源泉となるような無形の資産を指しています。

このような知的資産の中で非常に重要なものの1つに、経営者と従業員との信頼関係があります。たとえば、先代経営者が創業者の場合、昔からいる従業員と先代経営者との間には、苦労をともに乗り越えて会社を育て上げてきた長い時間の中で培った固い絆があります。

でも、その固い絆はあくまでも個人と個人の間にあるのであって、社長という肩書きにくっついているわけではありません。極端にいえば、「先代には世話になったけど、子どものあなたとはなんの関係もないですよね…」というわけです。

こういった信頼関係を承継するのが難しいことは、みなさん想像できるでしょう。

このほかにも、「この会社は一体どういう会社なのか?」といった経営理念を引き継いでいくことも重要です。会社の建物と名前が残っても、まったく違う会社になってしまうのであれば、それは事業承継とは呼び難いかもしれません。

もちろん、時代に合わせてビジネスはどんどん進化していく必要があります。でも、会社が大事にしている根っこの部分というのは意外と変わらないものです。

次回予告:管理会計が事業承継を円滑にする!?

というわけで、今回は、事業承継をめぐる経済・社会の動向と、「そもそも事業承継とは何か?」を簡単にみてみました。

いよいよ次回は、こういった事業承継を円滑に進めるために、管理会計がどのような役割を果たすのかをみていきます。お楽しみに!

浅石 梨沙(あさいし りさ)
西武文理大学サービス経営学部准教授、博士(商学)。
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了後、一橋大学ジュニアフェロー、西武文理大学サービス経営学部専任講師を経て現職。製造業のサービス化における管理会計手法の変化や、製品・サービスのプライシング・マネジメントにおける会計情報の役割、事業承継におけるアメーバ経営の役割などを研究している。日本会計研究学会、日本原価計算研究学会、日本管理会計学会に所属。詳しい著者情報はこちらを参照。著書に『アメーバ経営が事業承継を円滑にする ケースで読み解く後継者育成と信頼関係構築』(共著、同文舘出版)や『検定簿記講義』シリーズ(共著、中央経済社)など。


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