渡邉 圭
(千葉商科大学基盤教育機構准教授)
この連載講座では、「日商簿記では学ばないけれど、税理士試験の簿記論・財務諸表論では必要になる論点」を学習します。
簿記論・財務諸表論の学習は広範囲にわたるため、日商簿記では深く学んでいない論点も対策しなければなりません。
税理士を目指して簿記論・財務諸表論の学習を始めた方、「いずれは税理士に」と考えている方は、この連載講座を使って効率的に学習を進めていきましょう。
まずはじめに…
日商簿記での未学習項目
内部取引:原価に一定の利益額を加算して振替える方法
税理士試験での出題傾向
簿記論は個別問題、財務諸表論は総合問題で出題されています。今回の講義で取り上げる「本支店会計」の論点は日商簿記検定1級で出題されています。日商簿記検定の出題範囲外ではありませんが、日商簿記検定2級の延長的な学習範囲のため取り上げることにしました。
本支店間の商品取引:支店への振替価額の決定
本店から支店へ商品を送付する場合、原価額で記帳する方法と、原価に一定の利益を加算した金額で記帳する方法が考えられます。本店から支店への商品の振り替えは、所有権が移転するわけではないため、内部取引となります。本支店間における商品の受払いには、次の会計処理の方法があります。
(1)原価で振替える方法:原価振替法
本店と支店は同一の企業であるため、本店から支店への商品の送付は企業内部で移動しただけと考えて記帳する方法です。この場合、商品の原価額を本店は仕入勘定の貸方に記帳し、支店は仕入勘定の借方に記帳します。
しかし、この方法は、支店が本店から送付された商品を外部に販売した場合、支店は購入努力をしていないにもかかわらず、利益のすべてが支店に帰属することになります。
ですので、この方法で会計処理を行うと、本店と支店の経営成績を必ずしも示しているとはいえなくなります。
(2)原価に一定の利益額を加算して振替える方法:原価プラス比率法
本店と支店を独立した企業と考え、本店から支店への商品の送付は売買取引と考えて記帳する方法です。この方法によれば、原価振替法で生じる欠点を補うことができます。
また、企業の内部取引であることには変わりないので、外部取引と区別するために、本店から支店へ商品を送付する場合、本店では、振替価額を「支店へ売上勘定」の貸方に記帳し、支店では「本店より仕入勘定」の借方に記帳します。
原価プラス比率法で記帳を行い、支店側で本店より仕入れた商品が期末に在庫として残っている場合、期末商品棚卸高に含まれる内部未実現利益を減額させます。これを内部利益の除去と呼びます。
それでは設例を使い、原価プラス比率法により本支店会計の開設から期中の取引を見てみましょう。
設 例
次の取引について、本店と支店のそれぞれの仕訳を答えなさい。また、本店から支店に商品を送付する際、原価に20%の利益を加算して支店に送付している。なお、仕訳が不要の場合は解答欄の借方科目欄に「仕訳不要」と記入すること。
① 本店は原価7,000円の商品を支店へ発送した。
② 支店は本店から仕入れた商品10,000円(売価)を外部へ掛け販売した。
解答
① 本店
(借)支店 8,400 ※1
(貸)支店へ売上 8,400
※1 7,000円×(1+20%)=8,400円
① 支店
(借)本店より仕入 8,400
(貸)本店 8,400
② 本店
仕訳不要
② 支店
(借)売掛金 10,000
(貸) 売上 10,000
次回は、練習問題を解いてみましょう!