長島正浩
(茨城キリスト教大学経営学部教授)
全31回のプログラムで、税理士試験・財務諸表論に強くなる!
論点ごとに本試験に類似したミニ問題を用意しました。まずは問題1にチャレンジし、文章全体を何度か読み直したところで問題2(回によっては問題3も)を解いてみましょう。そして、最後に論述問題を解いてください。
まずは問題にチャレンジ!
資本剰余金の各項目は,利益剰余金の各項目と( ① )してはならない。したがって,資本剰余金の利益剰余金への( ② )は原則として認められない。
資本金及び( ③ )の額の減少によって生ずる剰余金は,減少の( ④ )が発生したとき(会社法(平成17 年法律第86 号)第447 条から第449 条)に,( ⑤ )に計上する。( ⑥ )の額の減少によって生ずる剰余金は,減少の( ④ )が発生したとき(会社法第448 条及び第449 条)に,( ⑦ )(繰越利益剰余金)に計上する。
問題1
文中の空欄( ① )から( ⑦ )にあてはまる適切な用語を示しなさい。
問題2
会社法では,資本金や準備金の額を減少させるのにどのような手続が必要か,2つ挙げなさい。
解答
問題1
① 混同
② 振替
③ 資本準備金
④ 法的効力
⑤ その他資本剰余金
⑥ 利益準備金
⑦ その他利益剰余金
問題2
(1) 株主総会の決議
(2) 債権者保護手続
基本的な考え方
・資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金
→その他資本剰余金
・利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金
→その他利益剰余金
・その他資本剰余金の額を減少させて準備金の増加
→資本準備金
・その他利益剰余金の額を減少させて準備金の増加
→利益準備金
論述問題にチャレンジ!
なぜ資本剰余金と利益剰余金を混同してはならないか?
従来、資本性の剰余金と利益性の剰余金は、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分する考えから、原則的に混同しないようにされてきたが、会社法においては、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は分配可能額に含まれることとなる。ここで、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることを無制限に認めると、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になり、また、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に区分する意味がなくなるから。
利益剰余金がマイナスのときにその他資本剰余金での補てんは混同にあたらないか?
利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補てんするのは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと考えられる。もともと払込資本と留保利益の区分が問題になったのは、同じ時点で両者が正の値であるときに、両者の間で残高の一部又は全部を振り替えたり、一方に負担させるべき分を他方に負担させるようなケースであった。負の残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられる。
剰余金の計数の変更で注意しなければならないのは?
会社法では、株主総会の決議により、剰余金の処分として、剰余金の計数の変更ができることとされたが、会計上、その他資本剰余金による補てんの対象となる利益剰余金は、年度決算時の負の残高に限られる。
〈執筆者紹介〉
長島 正浩(ながしま・まさひろ)
茨城キリスト教大学経営学部教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師、会計事務所(監査法人)、証券会社勤務を経て、資格予備校、専門学校、短大、大学、大学院において非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後、松本大学松商短期大学部准教授を経て、現在に至る。この間30年以上にわたり、簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。
※ 本記事は、会計人コース2020年1月号別冊付録「まいにち1問 ポケット財表理論」を編集部で再構成したものです。
〈バックナンバー〉
第1回:キャッシュ・フロー計算書
第2回:1株当たり当期純利益
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