【経済ニュースで読み解く会計】「そんなの自分のせいにされても困ります!」―管理会計における管理可能性原則のはなし


東京理科大学経営学部・准教授 岩澤佳太

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

2026年5月現在、2025年度の日本企業の決算が出揃いつつあります。

たとえばソニーグループは売上高・営業利益・純利益で過去最高を更新。経営再建に取り組む東芝も当期純利益や営業利益率が過去最高を記録し、古河電工はAI関連需要を追い風に大幅増益で市場を驚かせ、歴史的な株価高を記録しています。

一方で、日産自動車は6,708億円の最終赤字で2年連続の巨額赤字、ホンダの四輪事業は過去最大の営業赤字を計上しています。長い歴史をもつ日本メーカーの間でも、「過去最高益」「過去最大の赤字」が同じ週の新聞に並ぶ。今年の決算シーズンは、そんな光景が繰り返されています。

一体、何がこれほどの差を生んでいるのでしょうか。要因を大きく分ければ、2つの種類があります。
1つは、関税・為替変動・地政学リスクといった企業にとっての外的要因。もう1つは、商品力・経営戦略判断・事業構造改革といった企業自身の内的要因です。
もちろん現実には両者が絡み合っていますが、この区分は、実は管理会計の世界で古くから議論されてきた重要な原則と深く繋がっています。

今回は、この「外的要因と内的要因の区分」という視点から、最近の決算ニュースを読み解いてみたいと思います。

降りかかる「管理不能」―ホンダの赤字の中身

外的要因の直撃を受けた企業の中身を見てみましょう象徴的な例がホンダです。2025年度決算で、営業損益は4,143億円の赤字。上場以来初で、過去最大規模の赤字となりました[1]

赤字の要因を見てみると、関税影響による減益、米国でのEV関連の一過性費用、オランダの半導体メーカー・ネクスペリア問題による供給停止の影響などが挙げられています[2]。どれもホンダ一社では動かせない要因ばかりです。関税はトランプ政権の決定による部分が大きく、EV市場の急変は中国新興メーカーの台頭によるもの、半導体供給の途絶は地政学リスクそのものです。日産も同様に、関税と為替の影響が業績を大きく押し下げています。

もちろん、経営トップには外的要因の先読みの責任があるでしょう。関税リスクを見越して現地生産比率を上げておく、EV投資のタイミングを見極める、サプライチェーンを多元化しておく。こうした将来の環境変化に備えることは、トップマネジメントに求められる役割です。

しかし、中間管理職の視点に立つとどうでしょうか。
あるメーカーの北米工場で工場長を務める人を想像してみてください。製造現場で長年経験を積み、今年度から北米工場の責任者に就任した。ところが赴任早々、トランプ関税が直撃します。本社からは予算未達の説明を求められる。関税は動かせません。とある製品の販売不振も、半導体の供給停止も、一工場長にはどうすることもできません。それでも、工場の業績責任は彼の名前で記されている。
「そんなの、俺のせいじゃないですよね?」とも言いたくなるでしょう。

これは工場長だけの話ではありません。原材料価格の高騰で原価が跳ね上がった調達や製造部のマネジャー、円相場の乱高下で利益が吹っ飛んだ海外営業課長、ベースアップによる人件費の高騰で営業利益が削られた事業部長、どの現場でも、同じような叫びが聞こえてきます。経営トップならまだしも、中間管理職に「外部環境の先読みまで含めて責任を取れ」と言われても、たまったものではないでしょう。

近年の不確実性の高い経営環境では、こうした「外的要因」による影響が極めて大きくなってきています。

管理会計の教科書は何と教えているか

実はこの「自分のせいじゃない」問題、管理会計の世界では古くから議論されてきました。教科書が示す答えは明確で、責任と権限の一致、すなわち「管理可能性原則」という考え方です。

管理可能性原則とは、評価される者は、自分が管理できる範囲でのみ評価されるべきという原則です。責任と権限は一致させよ、と言い換えることができます。ですので、たとえば工場長に関税の責任を負わせるのはおかしい、製造部長に市場価格の責任を負わせるのもおかしいと教科書には記載されています。

この原則、会計系の資格の勉強をしている方なら、実はすでにあちこちで出会っているはずです。たとえば、標準原価差異分析。材料費の差異を「価格差異」「数量差異」に分ける、あの計算です。
価格差異は、多くの場合、購買市場の動向で決まります。現場の製造部長にはコントロールできません。一方、数量差異は現場の作業効率を反映します。こちらは管理可能です。この切り分けは、まさに管理可能性原則の具体です。さらに、責任センターの設計も同じ思想に基づいています。
コストセンター、レベニューセンター、プロフィットセンター、投資センターとそれぞれの管理者が管理できる範囲に応じて責任を割り当てる。みんな学習する典型論点かと思います。

このように、管理可能性原則は管理会計の背骨を成す考え方であり、アカウンタビリティ、すなわち「誰が何について説明責任を負うのか」を明確にする思想でもあります。そして誰もが頷く正論です。
ミドルマネジャーに動かせないことで責任を負わせるのは合理的ではない。反対する人はいないでしょう。

実務を見てみると―管理不能要因による業績評価

では実際の企業の業績評価制度はどうなっているのでしょうか。教科書どおりの運用がされているかというと、実はそうではありません。

たとえば本社費の配賦。本社の役員報酬、経営企画部の人件費、管理部門の運営費、こうした費用は、各事業部に配賦基準に従って割り振られ、事業部はコストとして負担することが一般的です。事業部長に本社の役員報酬は動かせません。配賦基準すら事業部長の権限の外です。
にもかかわらず、それらが営業利益という形で事業部長の業績評価に反映される。教科書的には、管理可能な範囲を反映した利益指標で評価すべきとされます。

冒頭で例示した日本メーカーに降りかかっていた関税の影響を思い出してください。関税の影響は、たとえば工場長や海外事業本部長の「能力不足」ではありません。政治が決めたことです。でも決算数字には確実に記録され、組織の業績評価の土台になります。
原材料価格の変動も同じです。標準原価差異分析で価格差異として処理されても、結局は現場の製造部長や調達部長が説明責任を問われます。

ここで1つの疑問が湧いてきます。「管理可能性原則を守るなら、なぜ管理不能なコストも引いたうえでの利益で事業部長を評価するのか」。教科書には責任と権限は一致させるべきと書かれている。しかし現実の多くの企業は、そうはなっていない。
ここが今回の話のポイントです。

では、企業の実務はめちゃくちゃなのか?

では、企業の業績評価制度はデタラメなのでしょうか。こうした「教科書どおりにいかない」実態は、管理会計研究の世界でも古くから指摘されてきました。

南カリフォルニア大学の会計学者・マーチャントは、「企業はいかにして、なぜ管理可能性原則を軽視するのか」という挑発的なタイトルの論文で、この問題に正面から取り組む萌芽的な研究を行いました。(Merchant,1987)。

調査の結果、企業は管理可能性原則を知らないのではなく、知った上で意図的に厳密には適用していないことが明らかになりました。
その後、フランスの会計学者・ジローらは、フランスの管理職265名を対象にした研究結果を公表しています(Giraud et al.,2008)。この研究では興味深いことに、ミドルマネジャーは原則として管理可能な要因で評価して欲しいと考えているものの、「管理不能なものは全部除外してほしい」と一律に考えているわけではないことがわかりました。具体的には、関税や為替のような企業外部の要因と、本社費配賦のような企業内部の要因とでは、態度が異なることが示されました。
ほかにも、ドイツの会計学者・バーカートらの研究でも、ドイツの管理職440名を対象に調査し、管理可能性原則の非適用が中間管理職の役割認知を通じてパフォーマンスに影響することを実証しています(Burkert et al.,2011)。しかもこの効果はトップマネジャーにはみられず、中間管理職でのみ確認されたのです。

つまり、教科書どおりにいかない現象は世界共通であり、しかもそこには何らかの合理性がありそうだということが、研究の蓄積から見えてきています。

だとすれば、問いはこう変わります。
管理可能性原則を厳密に適用しないことには、何か合理的な意味があるのか。
もしあるとすれば、それは何なのか。

冒頭の決算ニュースに戻りましょう。同じ関税環境下にあった日本の自動車メーカーでも、赤字に転落した企業がある一方で、利益を確保した企業もありました。同じ外的要因が降りかかったはずなのに、結果が分かれた。この差はどこから来たのでしょうか。
次回、この問いを掘り下げてみたいと思います。

(編集部注:本記事の内容は脱稿時(5/11)の情報に基づいています)


[1]本田技研工業「2025年度第3四半期決算説明会資料」(2026年2月10日)および「2025年度決算説明会資料」。

[2]同上。および本田技研工業「2025年度第2四半期決算説明会資料」(2025年11月7日)も参照。

【参考文献】
Burkert, M., Fischer, F. M., & Schäffer, U. 2011. Application of the controllability principle and managerial performance: The role of role perceptions. Management Accounting Research, 22(3), 143–159.
Giraud, F., Langevin, P., & Mendoza, C. 2008. Justice as a rationale for the controllability principle: A study of managers’ opinions. Management Accounting Research, 19(1), 32–44.
Merchant, K. A. 1987. How and why firms disregard the controllability principle. In W. J.
Bruns & R. S. Kaplan (Eds.), Accounting and Management: Field Study Perspective. Harvard Business School Press.

【この記事を書いてくれた人】
岩澤佳太(いわさわ・けいた)
東京理科大学経営学部准教授。2021年度慶應義塾義塾大学大学院商学研究科修了、博士(商学)。専門は管理会計およびコストマネジメントで、定量的・定性的なアプローチから日本企業の管理会計実態の解明に関心がある。
日本会計研究学会 学会賞・学術奨励賞、日本原価計算研究学会 学会賞(論文賞・奨励賞)など受賞歴多数。


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