経理のための実践的勉強法~⑫経理業務におけるタイムマネジメントのしかた


葛西一成@元上場企業経理部長(経理部IS)

【編集部より】
経理部に配属され、会計のことを勉強しないといけなくなったけど、仕事に直結する勉強法ってどうすればよいの? 担当することになった業務について知りたいとき、どのようにアプローチして、どんな本を読めばいい? そんな悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、複数の上場企業で経理の実務経験のある、経理部ISこと葛西一成氏に、経理のための実践的な勉強法についてアドバイスをいただきます。ぜひ、スキルアップにお役立てください!(隔月掲載予定)

はじめに

経理部門で働く皆さんは、日々の業務に追われ、時間の使い方に悩んでいることが多いのではないでしょうか。
月次、四半期、年次決算と繰り返される締め作業に加えて、日々の経費精算や伝票処理、税務申告への対応など、経理パーソンの業務は多岐にわたります。
限られた時間の中で、これらの業務を正確かつ効率的にこなすには、適切なタイムマネジメントが欠かせません。

私自身、上場企業の経理部門でさまざまな経験を積み、タイムマネジメントの重要性を痛感してきました。
そこで本記事では、経理パーソンの皆さんに向けて、実務経験から得たタイムマネジメントのしかたの事例をお伝えします。

タイムマネジメントの目的と重要性

タイムマネジメントの目的は、限られた時間を有効活用して、自分の業務の生産性を高めると同時にスキルを効率よくアップさせることにあります。
経理においても、正確かつ効率的に作業を進めるにはタイムマネジメントが重要となります。

実際のところ、月次、四半期、年次決算作業などのスケジュールやタスク管理は、経理のマネージャーが決めてそれに基づいて作業することになります。
そのため、経理実務の担当者としては、決められたスケジュールを遵守し、与えられたタスクをどうやって効率よく進めていくか、またそのタスクをしっかり理解するためのスキルアップが重要となるのです。

今回はタイムマネジメントの中でも、限られた時間というリソースの使い方にフォーカスし、経理業務における時間の使い方について、具体的な事例を用いながら、6つのポイントを解説します。

1.タスクに紐づく作業を細分化し、今日すべきことを明確化する

月次や四半期、年次決算業務において、経理担当者はそれぞれのタスクを割り当てられ、仕事を進めていきます。例えば、決算では「引当金の計上」、「仮払金勘定の精算」、「棚卸資産の簿価切り下げ」など、さまざまな処理を行うことになります。

これらの処理は一見すると一つのタスクに見えますが、実際には複数の作業を積み重ねて完了させることになります。
たとえば「貸倒引当金の計上」一つを取っても、

・当期の貸倒引当金計上資料の事前準備
・債権回収遅延の状況確認資料の作成、回収遅延会社の財務状況がわかる資料の収集
・貸倒引当金対象となる一般債権残高データの出力
・一般債権に係る貸倒引当金算定表の作成
・貸倒懸念、破産更生債権の一覧表の作成及びそれに係る貸倒引当金の計算
・貸倒引当金計上の確認を得るための資料作成およびその資料のワークフロー回覧
・会計システムへ貸倒引当金仕訳のデータインポートおよび計上額の確認

といった複数の作業に分解できます。

このように作業をある程度細分化することで、何をいつまでにやるべきか決めやすくなります。
また、細分化で、一つひとつの作業時間が短くなり、時間制限を設けて集中して取り組めるようになること、作業を終えるたびに達成感を味わえるというメリットもあります。

さらに、細分化した作業のうち、今日片づけるべきものをリストアップし、優先順位をつけて作業を行うことで効率よくそれらの作業に着手できます(どの作業から着手したらいいか悩む時間を削減する)。
その際、前日までの進捗状況を確認し、締切りまでの残り時間を考慮して、今日中に完了させるべき作業を明確にしておくことが重要です。

2.熟考が必要な作業を行う時間帯を選ぶ

経理業務には、集中力と正確性が求められる作業が多くあります。
特に決算時の判断を要する業務や、新しい会計基準の適用検討などは、熟考が必要な作業といえるでしょう。

このような作業は、午前中に集中して行うことをおすすめします。
多くの人は午前中が最も頭がクリアで集中力が高いといわれています。
この時間帯に難易度の高い作業を片付けておくと、一日の生産性が大きく向上します。

また、在宅勤務が週に1、2回でも可能であれば、その日を作業集中日としてみるのもよいでしょう。
出社していると、部内や他部署からの質問対応に追われたりして作業に集中できる時間が限られてしまいます。
在宅だとメールやチャット対応はあるものの、出社時に比べると作業に集中できる時間を確保しやすいものです。

こうした時間を有効活用して、決算作業や新たに取り組む業務の運用改善などを進めることで、集中して熟考作業を進めることが可能となります。
(私自身、在宅勤務の日には、新しい会計基準の導入による影響分析や決算プロセスの改善検討など、集中して考える必要がある作業を意識的に行っていました。)

3.会議、打合せは午後開催を優先する

経理部門では、決算報告会議や監査法人とのミーティング、他部署との打ち合わせなど、さまざまな会議があります。
これらの会議や打合せは内容次第では、結構な疲労を感じる場合があり、その後の作業の集中力にも支障をきたす可能性があるため、できれば午後開催にしたいものです。

特に決算期には、監査法人との打ち合わせや経営層への報告会議など、緊張感を伴う重要な会議が増えます。
このような会議の後は、疲労感から複雑な会計処理や判断を要する業務に取り組むのが難しくなることがあります。
そのため、可能な限り会議は午後に設定し、午前中の集中力が高い時間帯に重要な作業を片付けておくことが理想的です。

また外出での移動による疲れを感じることも多いため、午後に外出できるようにスケジュールを調整したいところです。
例えば、銀行や税務署への外出、顧問税理士や関係会社との打ち合わせなどは、できるだけ午後の時間帯に設定することで一日の時間を効率的に使うことができます。

4.情報収集の時間を確保する

経理パーソンは、会計や税務に関する最新情報をチェックし、自分の業務に生かす必要があります。
この情報は定期購読している雑誌や定期更新されるWebサイトから入手していることが多いのですが、情報収集のための時間確保に苦労していることも少なくありません。

実際のところ、こうした情報収集は、重要であるものの緊急ではないことから後回しにしがちです。日々の処理業務や締め切りに追われる中で、「今日はこの記事を読む時間がない」と思っているうちに、次の号が来てしまったという経験はないでしょうか。

しかし、後回しにしていると、結局、情報収集ができずにいる状況が続いてしまいます。
これを回避するには、例えば、朝イチ、経理の雑誌の目次をざっと読み、自分に必要な情報をマークするといった習慣をつけるのがよいでしょう。
そして、休日の朝にしっかりその記事を読んで情報キャッチアップするといった方法も効果的です。

例えば、朝15分を会計・税務関連のニュースをざっとチェックする時間として固定します。
そして、より詳しく読みたい情報や記事については、休日や昼休みの時間を利用して読むようにします。
こうしたことをルーチン化して時間を確保することで、継続的に情報収集が行えるようになります。

情報収集を怠ると、会計基準の変更や税制改正に対応できず、業務に支障をきたすリスクがあります。「忙しい」を理由に情報収集をおろそかにせず、定期的な時間確保を心がけたいところです。

5.簿記などの資格取得の勉強時間の確保

経理パーソンは、さらなるスキルアップを目指すべく、簿記などの資格取得に挑戦したいと考えている人も多いでしょう。しかし、仕事をしながらの勉強の時間確保には相当苦労します。
帰宅後に勉強しようとしても疲労感から、集中して勉強できないこともあります。

この場合も資格の勉強に必要な時間を確保するためのタイムマネジメントが必要となります。
それぞれが勉強に集中できる時間帯を見つけ、その時間帯に勉強ができるような工夫が必要となります。

もし、夜は疲れて勉強ができる状況になければ、朝30分・昼休み1時間を勉強時間に充てることができるようタイムマネジメントをすべきです。
あるいは、通勤時間は短時間で学べるWeb講座などを使って、電車の中で勉強を継続することも検討します。

また、学習内容を細分化して、短時間でも取り組めるようにしておくことも重要です。
例えば、通勤時間15分でテキスト2ページを読む(Web講座を閲覧する)、昼休みに問題を3問解くなどをルーチン化し、隙間時間を有効活用する工夫も効果的です。

簿記などの資格取得の勉強は、キャリアアップにつながるだけでなく、日々の経理業務にも必ず役立ちます。
忙しい中でも、着実に学習を進められるよう、自分に合ったタイムマネジメントを実践してみてください。

6.夕方、夜は疲労が蓄積していることを前提でやるべき仕事を決める

一日の終わりである夕方から夜にかけては、多くの人が疲労を感じる時間帯です。
この時間帯に複雑な判断や深い思考を要する作業を行うのは効率的とは言えないでしょう。

特に、問題がある作業は夕方以降の残業で対応しても、頭が働かず問題の解決ができず、悩み続けることが多いものです。
例えば連結決算において想定していた数値がシステムで思い通りに処理できないなどの問題が発生した場合、夜遅くまで残業して考え続けていても解決策が見つからないことがあります。

しかし、こうした残業しても解決できない問題は、翌日意外とすんなり解決する場合があります。
これは、疲れた状態から睡眠によって脳がリフレッシュされ、新たな視点で問題を見ることができるからだと思われます。

また、判断が伴う業務も、疲労が蓄積している残業時間に行うと、最善の判断ができない場合が多いため、思い切って、次の日の朝にやることも検討すべきです。

もし夕方以降の残業時間に作業をするなら、翌日の作業で使うファイルを準備する、会計システムから元データを出力しておく、Excelの決算資料で必要となる加工元データをコピペしておく、メールを整理するといった、頭を使わない作業にとどめることをおすすめします。

私自身の経験では、残業時間に複雑な会計処理を考えて行った結果、翌日に修正が必要になったということが何度かありました。それ以降は、夕方以降は単純作業や準備作業に集中し、重要な判断や複雑な処理は翌朝の頭がクリアな状態で行うようにしています。

このように、自分のパフォーマンスを最大で上げるために、時間帯でやるべき作業を分けるというタイムマネジメントが効果的と考えます。

※実際のところ、決算作業などは期日があり、残業してでも終わらせなければならない場合もあるため、上記の内容を実践することは難しいかもしれません。しかし、自分のパフォーマンス向上を重視したタイムマネジメントが必要であることを認識し、少しでも効率よく時間を使って作業を終わらせる工夫は必要です。

まとめ

ここまで、経理業務におけるタイムマネジメントのポイントを6つ紹介してきました。

1.タスクの細分化と明確化
大きな業務を小さな作業に分解し、今日やるべきことを明確にする

2.集中力の高い時間帯の活用
午前中や在宅勤務日を活用して、熟考が必要な作業に取り組む

3.会議・打合せの適切な時間配置
疲労感を考慮して、重要な会議はできるだけ午後に設定する

4.情報収集の習慣化
定期的な時間で、会計・税務の最新情報をキャッチアップする

5.資格勉強の時間確保
自分のリズムに合わせた学習時間の設定と隙間時間の活用

6.時間帯に応じた作業配分
疲労度を考慮して、夕方以降は単純作業中心にする

これらのポイントを意識しながら、自分なりのタイムマネジメント方法を確立していくことが大切です。なお、今回解説した方法は一例であり、一人ひとり生活リズムや業務環境が異なるため、自分に合った方法を見つけてください。

経理業務は締め切りや正確性が求められる仕事ですが、適切なタイムマネジメントによって、業務の質を向上させることが求められます。そのため、経理パーソンの皆さんには、日々の業務に追われるだけでなく、一歩引いて自分の時間の使い方を見直す機会を持っていただけたらと思います。

<執筆者紹介>
葛西一成@元上場企業経理部長

東証プライム・グロース上場2社で経理部長を経験後、独立開業。独立後は上場企業の決算業務フォロー、会計関連システム開発導入サポート、経理パーソン向けキャリアサポート、執筆活動に注力。X(旧Twitter)では、フォロワー1.7万人超の「経理部IS」アカウントにて、経理の仕事に関する情報を発信中。
著書に『経理のExcelベーシックスキル』(中央経済社)がある。
経理部IS(@keiri_IS

<著書紹介>
経理のExcelベーシックスキル(葛西 一成 著、中央経済社)


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第5回:固定資産の実務における基本的な理解(前編)(後編
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第7回:税効果会計の勉強の進め方<基礎スキル>(前編)(後編
第8回:税効果会計の勉強の進め方<実務スキル>(前編)(後編
第9回:リスタートにあたってのイントロダクション
第10回:一人前の経理になるためのステップ事例(中小企業編

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